その、じゅうく これって非常事態?
キエート達神様にとってはよくあることでも、征也君には予想外の出来事です。
朝、会議室にはいつものメンバーが集まっている。先週のお見合いから梓と唯も参加だ。
平日の間に2階と3階の上限は設定してある。ただし、フィルターの性能を変更できていないので、魔物の数だけは制限がまだできていないが。
「じゃあ、今日のお題は……」
バッタン!
「津田殿! 緊急事態じゃ!」
凄い音を立てていきなりドアを開けたのは大禍津日神だった。
「ど、どうしたんですか?」
「気脈の大道が塞がって脈管が破裂したのじゃ!
今大道のバイパス術を行っておるが、外へ流れた邪気が魔物となって暴れておる。
バイパス術には3日程かかる故、その間気脈から力が噴き出し続けることになる。
お主らの力を貸してくれ」
「はい」
血相を変えていたが、話しているうちに落ち着いて来たらしい。
征也は新しく引き込むための気脈の端を出現させる。
「……天司君、この管破裂したところに繋げてきて。
まだシステム改修していないからダンジョン内に入るだけ邪気を引き込めるはずだから。
梓ちゃんと唯さんも協力してもらえますか?」
「ええ」
「もちろん」
二人が頷いたのを確認して
「ダンジョン内での討伐をお願いします。危険だと思ったら無理しないで下さい」
「「わかりました」」
征也は一つ頷いて大禍津日神に向き直る。
「1時間でダンジョンの4階の広い所作ります。
広ければ大量の邪気を処理できる大きな魔物を倒すことができると思います。
キエートはこの事を課長に伝えてきて」
「分りました」
「では、儂は現場の方に行ってくる。邪気の処理、頼んだぞ」
課長から6人の術者を借りて2階と3階に入ってもらう。期間はバイパス術の終わる3日後と言ってある。
1時間後、征也は4階を作り上げていた。
1㎞四方の何もない空間。
天司の繋いだ気脈の管はフィルター付きで邪気以外は外に出して、邪気は2・3階へ送り込んでいる。
「4階を開けるよ。天司君、そっちはどう?」
『破裂現場のほうは問題ありません。征さんに頼まれた管を付けて邪気が出なくなったので魔物もそれ以上増えていません。魔物を討伐しながらではなくなったため作業は早めに終わりそうです。
それより2階も3階も魔物で埋まって来ています。討伐が間に合っていないので、俺もそちらに合流します』
テレパシーでの会話は慣れれば電波が届かない場所でも繋がって楽である。
「分った。しばらくはこっちに回すね」
開栓すると大量の邪気が噴き出してきて魔物を形作る。一応は排気口付近で一定以上になるまでは動かないように設定している。どこまで大物になるだろう。
「あー、これって天狗?」
今まで見た事のない羽根を持った魔物だった。人っぽい身体だが、顔は烏で漆黒の翼が生えている。
ぐるぐると4階を回って3階への階段を上がろうとしたところで征也が上から圧力をかけて圧死させる。
天狗だけではなく鬼や幽霊・土蜘蛛なども排気口から次々に生まれてくる。
段々面倒になってきた征也は、神力で排気口近くに蠅叩きのようなものを設置して、移動を始めると同時に魔物を叩く仕組みを作ってみた。
ほとんど暇つぶしのようなものである。
その結果、約5分おきに蠅叩きが作動する。
蠅叩きがよく作動していることを確認して、キエートに連絡を取ってみた。
「キエート、そっちどうなっているの?」
『破裂現場の方は先ほど葉月様からあったように落ち着いてバイパス術を施しています。
大道が完全に詰まっているので詰まった先の気脈を伸ばして、詰まった前の場所と繋ぐ作業が進んでいます。大きな気脈ですから繋ぐのも一苦労のようです。
ですが、噴き出した邪気を回収しているので繋ぐ作業自体は後1時間ほどで終わる予定だそうです」
今回詰まった原因はなんだろう?
「気脈の中で魔物が発生したか何か?」
『いえ、魔物は邪気のみから発生します。
今回の場合、邪気のドロドロに他のエネルギーである陽の気や地脈の気流など、様々の力が混ざり合って塊になったものが気脈を塞いでいました。
複数の性質が混じると反発しあって何かに発展することは難しいのですが、複雑化して塊を散らすことも難しいようです』
キエートとの念話に天司が割り込んでくる。
『征さん、2階と3階の討伐は終了しました。そちらはどうですか?』
「今は4階に邪気の流れを全部集めているよ。こっちは大丈夫だから、天司君はタワシ君3号を投入して2階と3階の気脈を掃除しておいてくれる?」
『分りました』
そうしてタワシ君3号の掃除が終わったからと天司が4階を見に来たころにキエートからの連絡が入る。
『今大道とバイパスが繋がりました。
ダンジョンと繋がっている気脈を今から塞ぐそうです。』
「こっちはいつでもいいよ」
『はーい』
その声とともに排気口からの流れがゆっくり減って行く。
『終了でーす』
征也はタワシ君3号を投入して切られた気脈を回収した。
蠅叩きで発生した多くの霊珠が床に散らばっている。それを回収して気脈を4階に入れてしまうと会議室へ戻る。
「征さんお帰りなさい。お疲れ様でした」
既に夕方、会議室へ入って来る光は橙色をしている。
「天司君もお疲れ様。梓ちゃん、唯さんも大丈夫ですか?」
「ワタシは大丈夫よ!」
「ええ、私も少し疲れはしましたが大丈夫です」
声は元気そうだが、顔には疲労の色が色濃く表れている。
「今日はもう解散しようか。疲れたし」
「まあ、そうですね」
机の上でぐったりしている征也に苦笑いして天司が同意してくれた。
「キエート、今回みたいな事ってよくあるの?」
征也はため息交じりに聞いてみた。
「ええ、時々。ここまで大きなものはあまり聞いたことがありませんが、気脈が細くなっているところは多いのではないでしょうか?」
「…………なぜに疑問形? 完全に把握している訳じゃないの?」
「はい、時々破れていると聞いていますから、その回数から推測しました」
ケロリというキエートに
「それって全く調べていないんだね?」
と確認する。
「調べてどうするんですか?」
不思議そうなキエートに征也はがっくりと肩を落とした。
「ち、ちょっと…………大禍津日神に明日にでも連絡しておく…………」
非常事態は起こる前の対策が必要なのは征也にも解る事なのに、どうして神々が何もしていないのか?
翌日、大禍津日神に尋ねたところ破裂した場所を治すだけで、気脈の調査は全くしていないとのことだった。
高天が原にある神社の部屋にはオモイカネ神・大禍津日神・その双子の弟の八十禍津日神・大直毘神・その双子の兄で神直毘神が上座に座り、征也・天司・キエートが下座に座っている。
ちなみにウカノミタマ様は今回の後始末のため欠席である。
「お集まりいただいてありがとうございます。
今回気脈が破裂して騒ぎとなりましたが、今後このようなことを防ぐために気脈の定期点検を提案したいと思います」
「定期点検とな」
「はい。塞がれて細くなっている所を調べて、通りを良くしたりバイパスを作ったりしてはどうかと思いまいして。」
「破裂して騒ぎになる前の予防か」
「そうじゃの、今回は大事に至らなかったが、今後もこの程度の被害で治まるとは考えにくい」
「手間はかかるがやむおえぬじゃろう」
「土地神達にも通達を出しておこう」
神々はそれぞれに溜息をつきながらも賛成してくれた。
「昔はこのようなことはなかったのじゃが……」
「うむ、ここ500年程か?」
神々の遠い目を見ながら征也は500年も放っておくなよ、と思うのであった。
「ダンジョンの開業は7月の3連休に最後の試運転をした後、お盆明けからです。それまではバイパスを作る際にダンジョンを使うこともできますので、必要なときには呼んでください」
そう言った征也にオモイカネ神が向き直って
「お主が来てから一気にいろいろと進むのぅ」
と苦笑いをされた。
「いつかせねばならんと思っておったが、期限を切られぬとなかなか手が付けられんでなぁ」
いや、やんちゃな小学生の夏休みの宿題じゃないんですから、自主的にしましょうよ。
「とにかく、7月までに大気脈の確認だけは終わらせよう。中規模は大きい順に順次行う。小規模の気脈は管理している土地神に任せよう」
「バイパス術は施工できるものが少ない故、一気に何か所も行うことは出来ぬ。場合によっては期限を超えることもあるやもしれん。すまんが、その時は融通を利かせてくれ」
「はい、出来る限りお手伝いいたします」
そうなると、7月からはバイパス術でダンジョンを使用することが多くなるかもしれない。6月までに開業できる準備を進めておかなければ。
締切ってないとついつい後回しにしてしまうんですよね?
大事なことでも……後回しにするんですよね(泣)。




