その、じゅうなな お見合い
お嫁さん候補とご対面。
土曜日、朝からスーツを取りに行かされて上から下まで一式着付けられ、その後美容院で髪のセット、ようやく昼過ぎに見合いのあるレストランに着いた。
いかにも格式のありそうなレストランは個室が予約されており、天司とキエートを連れた3人で入ることになった。
既に2組の見合い相手は揃っている。
本当は別々に行うはずだった見合いだが、双方が先を争って決着が着かず、一緒にやることになったのだとか。
「こんにちは、本日はよろしくお願いします」
華やかな赤いワンピースドレスが華やかで大輪の薔薇を思わせる美貌に似合っているのが梓・シュベルツさん。付き添いは年齢不詳の妖艶な美女、サーシャさん。
鮮やかな青を基調にした落ち着いた振袖を可憐に着こなしている長い黒髪で清楚な大和撫子が連城唯さん。付き添いは恰幅の良い押しの強そうな連城拓海氏。
本日の仲人役は当然高山課長である。
料理が運ばれてきて、お見合いはスタートする。が、情報合戦なのか? 牽制合戦なのか?
尋問されるように次々に質問が飛び交い、互いに自分の良い所をすかさずアピールしようとしながら笑顔でさり気なく相手の会話をぶち切って行く。
怖い。本当に怖い。
コース料理のため途中で完食して逃げる訳にもいかず、その中で冷や汗を流しながら食べていた。
正直恐怖で美味しいと評判の味すらしない。
天司は品定めするような視線を双方に送っているし、高山課長は平然と進行を務めている。
この中で料理を純粋に楽しんでいるのはキエートである。
羨ましい限りである。そんな視線を受けてキエートはにっこり笑って
「気に入ったなら二人とも嫁にすればいいじゃないですか」
「そ、それは重婚と言って無理なんだよ」
怖くてどちらも嫌だ、と言えずに征也がキエートの爆弾発言に引きつった笑みで訂正するが、
「んーと、それはここ100年か200年のことですし、その前は側室が当たり前でしたからね? 人の世界の社会変化では神の世界まで変化しませんし、構わないと思いますよ?」
と返されて、その上でいくつかの神々の結婚の例を挙げてくれた。
可愛くて美味しいデザートにキエートの目は輝いて釘づけだ。
征也には全くそんな余裕はないのに……・。
美味しいはずのデザートは食べる気が失せてつつくだけの征也は見つからないようにひっそり溜息をついた。
そんな中、天司が言葉を発した。
「そう言えばお二人とも術師なのでしたね。どれほどの腕前なのでしょう?」
そこ、見合いで聞く話か?
「ええ、捜査霊課の方々には及びませんが、それなりに強いと思いますわ」
「ここに来る以上、強くなくては候補にも挙がらないでしょう!」
それぞれ自信を持っているようだが……。
「征さん、ダンジョンを一回線だけ開く方法は以前に試しましたよね?」
「う、うん。できるよ? まさか、対戦してもらう、とか……言わないよね?」
お見合いに来た女の子にそれはないだろう。
「もちろん。その通りですよ」
当然のごとく対戦をのたまう天司に征也は引きつった頬を更に引きつらせて
「そ、それにしたって、……ほら、二人ともおしゃれ着だし。ね?」
とやめさせようとした。
しかし、気遣いとは裏腹に御嬢さん方はとても好戦的だ。
「大丈夫ですわ。何時でも対応できるように用意はしてありますから」
「最初からこの女とやりあうつもりで来ましたの」
視線でバチバチと火花が散っている。
もう止められないと観念した征也が、食後にダンジョン解放を許可する。
「ああもう、しょうがない。食べ終わったらダンジョン解放はしてあげるけど、怪我しないでよね」
そんなことを言いながら食べる気の沸かなかったシャーベットを貪る。
移動したダンジョン内は真っ暗だった。
征也が開栓して明かりがともる。ダンジョン内の明かりは邪気を利用したものであり、邪気が流れていないと明かりもないのだ。
「魔物は1カラット相当を出すから1人ずつ行ってねー」
ジャンケンで決めた最初は梓から。
左手の魔方陣から出した魔剣を構える。
「始めるよー」
鬼の形となった邪気が動き出す。戦闘開始である。
ザシュッ
剣を振るうが、鬼は硬く思ったようには切れない。
数回振るった後に
ガッ
鬼が剣を掴む。梓は剣を離して魔方陣の符を使う。
「爆」
符が小爆発を起こして鬼の腕が吹き飛ぶ。
剣が鬼から離れたのを拾い、一気に振りかぶった。
ザンッ
剣が緑に光ったかと思うと、鬼は真っ二つとなり霊珠が落ちてくる。
朱いドレスで肩をする梓に、唯が冷たい視線を向けていた。
征也はその視線を見て背筋が凍るが、あえて無視して
「お疲れ~。次いくよー」
気の抜ける掛け声で唯を呼ぶ。
唯ははっとして通気口の前に出て身構える。
邪気が噴き出してくる。
今度は幽霊の形に邪気が渦巻く。
そして動き出した。戦闘開始である。
「はっ」
唯は袂から符を2枚取って幽霊の左右に飛ばし、一瞬で薄い結界のようなものを張った。
「…」
ぎゃぉぉぉぉおおおお
何を言ったのか征也には聞き取れなかったが、幽霊は悲鳴を上げて消滅していった。
完全に消滅して結界が消えると、後には霊珠だけが残っていた。
「ええっと……今日の記念に、どうぞ」
足元に転がった霊珠を取り、征也は唯と梓に渡す。
「征也さん、いかがでしたか?」
「セーヤ、私の方が強かったでしょ?」
唯と梓がすかさず聞いてくる。
「……うーん、と。多分術者の腕は唯さんがいいんじゃないかなぁ? でも、梓さんの方が5歳年下だから、それを考慮すると……トントン? 現状で俺にはわかんないかも。天司君、どう?」
「まあ、一応は合格点としておきましょうか」
結局のところ、婚約者候補は候補のまま保留と言う形になった。
征也君は今後ちゃんとお嫁さんを選べるのか?
選べずにグダグダになりそうなヘタレである。




