その、じゅうご 反省会と新たな問題
自分のいる世界の外の話。
征也たちは今日も今日とて会議室に集まっていた。
銀たち服装組は、今朝から3カ月の予定で高天原に研修に出かけている。何度も心配で中止すると言っていたが、征也が半ば強制的に追い立てて行かせた。
「これで昨日の反省点は出揃ったかな」
昨日の一番の反省点は、何よりお昼の時間に術者が引き上げたことで魔物が狩られず、その時間にも邪気が同じだけ流れ込んだ点だった。
移動する魔物の発生点では何体もの魔物が発生して通路に魔物が多くなり、魔物が一定の場所から動かない所では強大になりすぎて術者たちが相当苦戦していた。
「さて、どうしようかな……」
征也は昨日の衝撃が抜けきっていないのかいつもよりも顔色が青いが、声はしっかりしているので使い物にならない程ではないのだろう。
モニター越しだったので、目の前で見なかったのも恐怖と衝撃を薄れさせているのかもしれない。その後回収された死体の処理も見ていなかったことではあるし。
キィ……
「津田君、ちょっといいだろうか?」
高山課長と坂本課長補佐が連れ立ってやってきた。
「はい、何でしょう?」
二人は征也の目の前に座ると、封筒から資料を取り出した。
「昨日の一般人試運転で、自分の力を超える無茶をしなければ十分機能することが判ったわ」
「我々はこのままダンジョンシステムを進めようと思っている」
征也も一つ頷いて了承する。それを確認してから
「捜査霊課では7月の3連休に最終試運転をして、お盆が明けてからダンジョンを正式開業しようと思うのだが、どうだろうか?」
と正式開業の時期を提案してきた。
「はい。しかし、昨日の映像を見て貰うと解るかと思いますが、狩る人数に柔軟に対応することが難しいのが現状です。
今は気脈に流れ込む邪気をそのまま受け入れるだけなので、できれば今後ダンジョン内の個体数と強度を一定に保つようにシステムを改良していきたいと思っています。
それが開業までに間に合うかはわかりません。場合によっては邪気を取る気脈を1本に絞って流す事にもなるでしょう」
技術がまだ手探り状態のため、期限までに間に合うかが分からない状態だ。
「これからまだ3か月ある。それまでに頑張ってくれ」
そして資料を見せてタイムスケジュールを指さした。
そこには色々な制度が提示されていた。
入場料を受け取る受付や霊珠を買い取る基準価格、霊珠の流れるルートなども書かれており、他にもダンジョン内で必要になるであろう武器や食料品などのことも書いてあった。
「開業までは健康の神様の仕事で生活費を稼いで頂戴。もちろん、今回と前回のダンジョン試運転で入った霊珠の分のお金はこちらからきちんと支払うわ」
「はい」
征也の声に覇気がないのは、基準価格の内容から受け取る金額が怖いことになりそうだと予想を付けているからだ。
鬼火のような小さな霊珠位なら小遣い稼ぎで済むが、強力な幽霊や鬼が出た時の買取は数百万・数千万単位になっている。
それでも資料には他での買取価格よりも断然安価なので、難癖つけられた時の対応まで書いてあった。
結局夏になったらどれだけ受け取るかが怖い小市民な征也であった。
「じゃあ、この資料を読んでおいて」
と言って封筒を征也に手渡すと、二人は会議室を出て行った。
『出て行ったようですね』
突然知らない女性の声が聞こえてきた。
「どちら様でしょうか?」
キエートが警戒心を前面に押し出して慎重に尋ねた。周囲の空気や神力にも気を配っているようだ。
『こちら時空管理局より情報管理課新神班のバイキムと申します。
そちらは神さま情報局のキエート様と最近神格をお持ちになられた葉月天司様と津田征也様でお間違いなかったでしょうか?』
キエートはハッとして姿勢を正し、声の方に向き直った。
「はい、間違いございません。時空管理局より御声掛けいただくとは、やはり葉月様と津田様はお強い力をお持ちなのですね」
確信を持って尋ねるキエートに声が同意する。
『ええ、津田様は神力ランクでSS1以上、葉月様でも神力ランクSS2はあります。それに加えて津田様はご自分で神力を作る能力がかなりお強いようです。
現在地球の世界には時空管理局より結界を張っておりますが、津田様の御力が他の世界に知られれば誘拐されかねません。
早急に自衛の方法をお伝えするようにお願いいたします。
こちらからは以上です。そちらから何かありますでしょうか?』
誘拐される? どういうこと?
征也が左右を見ても天司とキエートは予想していたのか、全く動揺する気配もない。
「いいえ、津田様と葉月様は何かありますか?」
「いいえ、僕はありません」
天司とキエートはさらりと返事をする。征也は意味が解っていないため、キエートにこの後訊くことにする。
「さっぱりなのでキエートに教えてもらいます」
『それがよろしいでしょう。では、失礼いたします』
バイキムも説明をキエートに丸投げした。
その声の方から、ひらひらとした紙が1枚落ちてきた。
キエートの説明と天司の捕捉によると、時空管理局は異世界間の揉め事を解消するもので、いわば巨大版捜査霊課か拡大版神さま情報局のようなものらしい。
神力のランクはSS~Fまで分かれており、そのなかでも1~5に分かれているそうだ。
普通の世界を作って管理する創世神がS1~B2程度、世界を管理する一神教の最高神がA3~B5位、多神教の最高神がB1~B5辺り、その下はその世界の神様に決められた神様がDランクまで、Fランクは一応神格があるが特別技術が無ければ雑魚神と呼ばれているらしい。
で、SSランク以上は滅多に出ることはないそうだ。キエート曰く1,978,900の世界の中でSSランク以上は5柱しかおらず、その5柱をランク付けするためがためにSSランクが生まれたと言う強大な力の神だという。
ついでにこの世界の神様は多神教で最高神はB1ランクだったが征也の神力作成のせいで現在A5ランクに上昇して申請中だそうだ。他の神々も軒並み上昇しているとか。
「俺、それ聞いてない……」
とつぶやいたが、キエートにいい笑顔で
「ええ、そもそも神さま情報局ではAランク以上は推し量れませんから」
と言われてしまった。
さらに、世界は力が循環していて力が増大・作成すると言うことは少ないそうだ。その力を持つ存在は現時点で先ほどの世界の中でも3人(柱)しか確認されていないらしい。
つまり、神力を作る事の出来る征也の力は自世界の力不足に喘ぐ各世界の神々にとっては非常に魅力的で、のどから手が出るほど欲しい存在だという。
「と言う訳で、御勉強です。津田様にはまず、≪世界渡り禁止の呪≫をご自分にかけてもらいます。」
「ああ、誘拐されないようにね」
キエートは征也に先ほど声の方から落ちてきた紙を差し出した。
「これを持って神力を思いっきり入れてください」
なにら分からずに思いっきり力を注いだ。
バリーン
紙が引き裂かれるように破れると共に、四方に光が散った。
何が何やら分からない征也とは違ってキエートと天司は満足そうだ。
「これで神力SSランクの誘拐犯が来ても大丈夫ですね」
「かなり神力を込めたのでしょう。十分です」
どうやら≪世界渡り禁止の呪≫は無事発動されたようだ。
これから先、行くことは遠慮したいが別の世界に行くときは≪貴通門≫という、作るのに時間のかかる大規模で特別な門を潜ることになるらしい。
この門は神力を大量に発散するために双方の世界と世界の間に作成しているのが解り易いので、作成には双方の世界と世界の狭間を管理する時空管理局の同意が不可欠となる門、まさに≪貴い御方が通るための門≫である。
誘拐などは当然許されない。
バチバチッ
「ぎゃん!」
可愛い女の子の声とともに、征也の前に火花が散った。
一瞬目をつぶって、開くとそこには可愛い女の子がスカートを焦がして座り込んでいた。
「何? てか誰?」
「私は≪グリーンライト≫の最高女神ミーファですわ!」
涙目の中学校に入ったくらいの女の子は女神ミーファと名乗った。美少女である。それも華やか系絶世の美少女。
だがキエートは目もくれず続ける。
「次に、神力の発生を抑制してもらいます」
「これ! 無視しないでくださいませ!」
猫ホラーの時に天司に教えてもらった方法では拙いのだろうか?
「それは今ある神力を閉じる方法です。これから教えるのは、神力の作成を抑える方法です」
といって、天司は術式の書かれた符を用意した。
何でこんなものを持っているかというと、
「何となく、そんな気がしましたので」
などと言って勘で用意したそうだ。この手の勘はまだ征也には早いようでさっぱり分からない。
「私を誰だと思っていらっしゃるの!」
「うるさい、誘拐犯!」
キエートの睡眠攻撃でミーファは眠った。
どうやらこのミーファという女神は、征也を誘拐しようとして≪世界渡り禁止の呪≫に弾かれて力を吸い取られたらしい。
この≪世界渡り禁止の呪≫は誘拐犯を弾くだけではなく、誘拐犯から力を奪い取って呪を強化する術式も組み込まれていると教えられる。
地味に怖い術だ。
結局その後昼食を挟みながらみっちり6時間練習して、ようやく作成するのをやめることが出来た。
とはいっても、周囲の神に気付かれない程度で実際にはほんの少しずつは作っているらしいが。
それはまだ征也に制御できるほどの技術ではないらしい。
自分の強大さを説明されてもイマイチ理解できていなくても、教えられていることは実行しているので身の安全は確保されているらしい。




