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ダンジョンシステム整備士、津田征也  作者: 氷理
第二章:どうしよう、ダンジョンを作ることになってしまった…
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その、はち 勧誘は焦点を間違えてはいけない……

キエートと征也君ではダンジョンの優先順位が異なるというお話。




前から訪ねて見たかったことを、ふと思い出したように征也は神々に聞いてみた。

「嫉妬や憎しみとか≪悪しき感情≫って発展の原動力になったりしますよね? どこまで浄化すれば世界がバランスよく回って行くのでしょうか? そのあたりの基準を知りたいのですが……」

首をかしげてみる。それに答えてくれたのはオモイカネ神であった。

「別にすべてを浄化しても問題ないわ。大気中に放出されているもののみを浄化しているのであって、人の心の中までは浄化できぬゆえ、嫉妬も何もなくなることはないのじゃよ」

「そうだったんですか」

征也はオモイカネ神の説明に感心した声を上げた。

「問題は大気中に放出されてしまった邪気が他に人間や動物に影響して狂わせてしまう事じゃ。良く覚えておくが良い」

「はい」

実際の所、完全に理解したわけではないが、何となくわかったので良い子の返事をしておいた。

神々がひとまず納得したと思って帰ったため、捜査霊課の面々のみが会議室へ残った。

「あの口調からして、すぐにでもシステム開始をしたいのでしょうね……」

高山課長が眠そうな表情でため息をつく。

「仕方ないわよ。放っておいたらどんなことになるか判ったものじゃないんだから」

坂本課長補佐も同意する。

「あの、霊珠ってそんなに価値あるんでしょうか? ダンジョンで戦うのに誰か来てくれるのかと…………」

「ああ、大丈夫よ。霊珠は今日採れたような小さいものなら、霊符やお守りの原料になるし、大きくなると術式を入れて≪願い珠≫になったりするの。需要はいくらでもあるわ。むしろ押しかけて来るかも」

坂本課長補佐も以前の天司と同じ見解だった。征也だけがイマイチ霊珠の重要性を理解していない。

「津田さんはこれからどうするおつもりですか?」

「んー? とりあえず、今日心配な所だけ見て見るよ。あ、キエート紙頂戴。忘れないうちに書いとかないと」

「なんて書くんですか?」

キエートから『ダンジョン作成日誌』と書かれたノートを受け取る。

「えっとね、

①作った気脈とダンジョン内に配線されている邪気の通り道に、保護膜を張って補強する。

②フィルター付近の気脈と気脈の接続点を強化する。

③配線・気脈のお掃除マシーンの作成・配置

④お掃除マシーンの試運転

⑤出口の設定変更

このくらいかなー?」

とりあえずでつらつらと書いてみる。

「そうですね、ダンジョン内の配線はほとんどが細いですし、邪気の通る場所がうまく流れるようにするのはなかなか大変そうですからね。掃除をするにしても、それが配線内で固まってしまったら困りますし……」

天司も困惑したような表情だ。

「さしあたっては、試運転のたびに掃除していこう? でも本格的に稼働し始めたら、やっぱり順番に気脈を閉じてこまめに掃除するしかないかなあ?」

「そうでしょうね……。配線の止める順番も他に知られないようにランダム仕様にする必要がありますから、順番をできるだけ豊富な種類で用意しないといけませんね」

「まだ1階だけで2階以降作ってないんだけどね……。あ、赤井さん・穴井さん・松本さん、聞いてもいいでしょうか?」

考えれば考えるほど問題点が上がってくる。

「どうしました?」

「何でも聞いてください」

赤井と穴井が返事をして松本も頷いている。

「今日、討伐してみてどうでしたか? 場所が狭くて動きづらいとか、天上が低いとかありませんでしたか?」

「大丈夫でしたよ。多少は横幅が狭いかと思いましたが、これくらいでしたら討伐者の技量の問題でしょう。特別変更することはないと思います」

赤井が言った言葉に穴井が頷きながら同意する。

 だが、松本は別の意見があるようだ。

「確かに動いてみても違和感はほとんどなかったよ。でも、邪気の浄化量を考えるならもっと大きくてしっかりした魔物が必要なんじゃないかい? その場合はこの配置だと随分狭いと思うよ」

「なるほどー。魔物が大きい方が邪気の浄化量は多いんですね。だったら壁の配置を変えて……」

すぐに変更しようとする征也に穴井が待ったをかける。

「待ってください。それだったら、2階以降を強い魔物が出るように調節したらいかがですか? 1階はチュートリアル階みたいにしておいて、そこで慣れてきたら2階以降に入れるようにしておけばいいのではないでしょうか? これなら1階を変更しなくても大丈夫だと思います」

穴井はダンジョンを弄ることを非常にエネルギーの必要なことだと思っていた。実際、征也と同格の中級二等神にある神々であれば、1階部分を作るだけでも相当消耗してしばらく寝込むほどになっていてもおかしくはない。

構造を弄るにもそれ相応のエネルギーが必要で、この短期間にそれだけのことをさせてしまっては過労と力の枯渇のために倒れるのではないかと心配していたのだ。

当然、世界ごと作ることが出来るほど莫大な力を持つ征也はそんなことで倒れたりはしないのだが、意図的に口を挟まない過保護な天司以外は全く知らないことである。

「ありがとう。一応このまま様子を見るって事でいい?」

「そうですね、そうしましょうか」

意見交換もここまでのようだ。

「じゃあ、ここまでで。解散しましょう」

バラバラと会議室を出ていく面々を見ながら椅子に座ってほっとした。

差し当たって、1番と2番は設定し直した。自分でも力の使い方が上達してきたような気がする。ただし、征也は普段頭脳労働じゃないのに、力を使うために頭を使ったため大分ぐったりしている。

「はあ…………」

「津田様! 官舎へ移動しましょう! 目の下のクマ、凄いですよ。もう見ていられません!」

帰っていなかったキエートが叫びだしてビクついて驚いた。

「え、え? 官舎って?」

「捜査霊課の官舎に決まっているじゃないですか! あそこなら部屋は広いし、栄養たっぷりの食事が出る食堂があるんですよ!」

「俺、まだバイトだけど?」

「バイトでもいいんです!」

キエートはこれでもかというくらい力説している。

「捜査霊課は中学生から入る人が多いので、官舎もバイトから入ることが出来ます。1LDKですけど結構広いですし、バストイレは別々なので今の場所よりは快適だと思いますよ?」

なんで俺の家の間取りまで知っているんだ?

「俺、天司君をうちの中に入れたことあったっけ?」

多分なかったはずだ。

「いいえ、春仁さんが雨が降ると風呂場に洗濯物を干すとか。その時にトイレの蓋に裾が付きそうで冷や冷やすると話されていたものですから」

ああ、確かにハンガーの洗濯ばさみで止めるとトイレの蓋につきそうになるよね。ごめんね、春仁。そこまで気が回らなかったよ。今度から晴れた日に外に干すから許して。というか、何でそんな愚痴を天司君にしてるの?

「と言う訳で、引っ越してもらいましょう!」

「あ、いや、今の所気に入っているから……」

「バイトもダンジョンなどの神様一本に絞りましょう! これから滅茶苦茶忙しくなりますよ!」

「いやいやいや……ね、元のバイトの方が本業だから、ね?」

「駄目です!」

「やめてよ…………」

「駄目です! 貴方は日本の命運を握っているんですよ! いいかげん自覚してください!」

強い口調で叱りつけられて、征也はカチンと来てしまう。

「わかった、じゃあ、ダンジョンはすべて閉じて下請けもすべて終わりにする。僕がしてきたことなんて大したことじゃないんでしょ? だから神様業は完全に引退するから。これですべて元通りだ」

いいこと思いついた! とばかりに全て手を引くことを宣言する。

「ちょっと! 何言っているんですか! そんなことできる訳ないでしょう! 今さら止めようなんてそうはいきませんから!」

「どうせ大したことじゃないから誰かに引き継いでもらえば? 言い出しっぺの法則でさせられてるだけで、絶対やらなきゃいけないものでもないし。」

「大したことなんですよ! 世界の崩壊に繋がるかもしれないんですよ? どうして分からないんですか?」

キエートは軽蔑と怒りの表情を表に出していた。征也にはほとんど人の表情が読み取れないが、この時ばかりは何となくわかった。

「苛苛するなあ、その言い方。壮大なこと言ってる割にはそんな風には全然見えない言動をとってるじゃないか」

「なんで! どうしてですか? どこが!」

キエートの怒りを抑えた爆発寸前の顔に冷ややかな視線を送る。天司は言い分を聞いてから考えようと思っているのか、それに口を挟まない。

「だって、キエートはやればいいとしか言わなかったじゃないか。世界に繋がるならもっと注意点とか正確さを求めたりするものだろ? じゃないと危険じゃないか。しかも上位の神々はほとんど来ないだろ? 助言だって聞かなきゃ答えてくれないし。俺がやってることなんて上手くいかない前提で考えてるんだろ? だったら日常生活に支障が出る様な面倒臭いことは全部やめた方がいいや」

視線だけでなく声の質も段々冷たくなっていく。

「皆さま津田様に期待しているんです! だからダンジョンの試運転にだってたくさんの方々が来て下さったじゃないですか! そのくらい空気読んでくださいよ!」

「無理だな。空気なんか読めたためしがない」

バッサリ切って捨てた。

「今の仕事はどうせ他にいくらでも代わりの効く仕事なんでしょ! こっちを優先して下さいよ!」

「論外」

「どうしてですか!」

キエートはかなり怒っているようだ。しかし、征也には全く効果がない。なぜなら、

「だって、お金貰ってないから」

という理由だからである。

「は?」

キエートは唖然とした。天司が確認を入れてくる。

「つまり、健康の神としての収益は確定しているけれど、まだ貰っていないため不可。ダンジョンに至っては開店すらしていないため収入にならなから論外。ということでしょうか?」

「そう。俺、安定志向だから。きちんと安定して、確実に、いつから、いくら、お金が入ってくるって分からないと今のバイトやめられない」

堅実である。堅実だが堅実すぎやしないか? しかも正社員ではなくバイトである。キエートは天を仰いだ。天司が恐る恐る、と言った風情で口を出してきた。

「あのですね、非常に言いにくいことですが…………、あなたの履歴書を捜査霊課の方に出してあるんですよ、勝手にですが……」

「? うん? そうだね、健康の神様のバイトで出したよね?」

当然のように頷く征也に天司が訂正する。

「そのバイトの履歴書自体が流用されておりまして、正職員として捜査霊課の採用試験に出されているんです。ちなみに、これは履歴書の書式が捜査霊課から出された時点でほぼ採用が決定済みになっています……。どう思います?」

「4月からならいいんじゃない? 今の職場に迷惑かからないなら」

征也は何の疑問もなくあっさり頷いた。

「軽! 何で神様業はダメで、捜査霊課はいいんですか!」

「だって公務員だよ? きちんと働けば人間の世界で人間のお金が入ってくる一番安定している所だよ? 人間の立場までしっかりついてくるんだよ? しかも信用も信頼もばっちり! 頷くに決まってるじゃない。キエートって神様業の要求はして来るけど、人間の収入や立場何てまったく、全然、これっぽっちも配慮してくれないんだから」

天司は安心した様に綺麗に笑って

「では、来年からは同僚ですね。よろしくおねがいします」

と挨拶をした。

「うん、よろしくおねがいします」

征也がそう返すと、キエートはがっくりとうなだれた。



征也君がイライラしているのはお金にならないお仕事に時間を取られているから。

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