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ダンジョンシステム整備士、津田征也  作者: 氷理
第一章:どうしよう、神さまになってしまった…
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その、いち はじまり

現代を舞台にしたファンタジー。

普段の生活が突然変わってしまったら?


「そこの人! 危ないです! よけて!」

ばっしゃーん

俺の頭の上に大量の水が降ってきた。そこの人って言われたって自分だとは思わないじゃないか。俺は思いっきり水を被ってしまった。

「あーあ………………………………………」

シャツもズボンもびしょびしょである。

「だ、大丈夫ですか?」

さっきの声の主が俺に声をかける。

「いや、まあ、とりあえずは……」

と言って振り返るとそこには見たこともない美青年が立っていた。身長はおそらく完全な平均の自分より20㎝は高いだろう。

「よかった。で、なんともありませんか? 自分が神になったって言う自覚は?」

「は?」

言われた意味がよく判らなかった。

「僕は右手だけαがかかったのですが、やはり神になってしまったようです。貴方は全身に浴びたので強力な神になったのでしょう」

「あのー、話が見えませんが…………」

そんなことを言っているうちに唐突に自分が神であることを認識した。

「あれ、俺って神なの?」

「そうです。ここでは何なのでちょっと場所を変えて話しませんか?」

青年はそう言って俺の手を引いた。バイトが終わって別段用事もなかった俺は手を引かれるままに近くのファミレスに入った。

「それで、どこまで理解していますか?」

「あー、その前に名前を教えてくれると助かるんだが……」

青年ははっと気づいたように申し訳なさそうな表情をして答えてくれた。

「僕は葉月天司はづきたかしと言います、大学一年生で警察庁捜査霊課に所属しています」

「俺は津田征也、二十八歳、フリーター」

一応自分も自己紹介しておかなければならないだろう。

「そうですか、それで……」

「自分が神になったらしいって言うのは理解した。なんか唐突だったけどな」

「さっき貴方が浴びた水はαといって世界に匹敵する力を持っているのです。僕も右手だけ浴びただけでしたが、神になりました。その何倍も浴びた貴方は全能の神と言っていいほどの力を兼ね備えているはずです。一度僕と一緒に本部へ来ていただけませんか?」

その言葉を聞いたからではないが、俺だけでなく彼も神になったことを理解した。

「本部ってどこあるの?」

「東京です」

「パス! 遠いし、お金かかるし、時間無いし。無理」

「そう言わずに。交通費はこちらで出しますから」

「行ってどうするんだよ? 俺はこの街から出ないつもりだぞ?」

「そんなこと言わずに一度だけでも来てください。神になって空間移動が出来るようになっているはずです。それを使えば一瞬で行き来できますから。大丈夫です。時間もお金もかかりません」

葉月君はにっこりと華のような笑顔を作る。きれいな微笑みなのに、なんだか怖い気がするのは何故だろう?

「…………………………………」

俺はさっそく全能だと言われた神の力を使ってみた。彼が言っていることが本当か確かめたのだ。そしたら本当に神の力が使えた。どうやら葉月君の言っていることは事実のようだった。葉月君は大きな力が降ってくるのを止めることが仕事だったようだが、俺がαを被ってしまったせいで巻き添えのように神になってしまったらしい。

「どうしました?」

神の力で疑いを晴らしていましたなんて言えない。

「何でいかなきゃならないんだ?」

「神の力と言うのは大きなものです。そのために力の制御の仕方や使い方を学ばなければならないのです。まだ生まれたての神である貴方にこのようなことは酷だとは思いますが、使い方を誤れば多くの人が巻き添えになるのです。ですから一度本部に来ていただいてそこで貴方に修行をしていただこうと思うのです」

「まあ、それはそうだけど………」

「津田様の都合のいい時間を指定していただければこちらも合わせますので」

「さま?」

「あなたの方が格上の神なのでそうお呼びしたのですが、お気に召しませんでしたか?」

「普通にしゃべってくれ。なんか気持ち悪い」

様なんてお客様以外でつけられたことない。自分と分からず反応できないかも。

「では、津田さんではどうでしょう?」

「ああ、それならいいや。こちらは葉月君、でいいかな?」

「天司と呼んでいただいても?」

意外にも名前呼びを推奨された。

「ああ、うん。じゃあ天司君で」

ふっ

と巫女さん姿の少女が机の上に突然現れた。

「こんにちはー! あなた達が新しく神様になった方々ですね?」

見た目は大和撫子風の美少女なのに口調はあくまでフランクだ。

「神さまの世界にご案内いたしまーす! さあさ、どうぞ、どうぞ」

そう言うと空間がぐにゃりと曲がってファミレスの窓に道が出来た。

「おたく、どちらさま?」

とりあえず訊いてみた。

「おっと失礼しました。私、神さま情報局に所属する、中級三等神のキエートと申します。以後よしなに」

「中級神ですか。全能神ですね」

「? よく判らないんだが、説明してくれ」

「神様には下級・中級・上級とあって、そのなかでも一等・二等・三等に分かれているのです。下級神は専門神とも呼ばれていて何かしらの専門分野のみしか願い事を叶えられないのです。中級になるとお願い全般を叶えられ、上級は天変地異を起こすほどの力を持った神ですね。ここまでは分りましたか?」

「大体わかった。で、何で神様の世界に案内されているんだ?」

「神としての査定、と言ったところでしょうか? 多分」

「行っておいた方がいいのか?」

「もちろん」

「では二名様ご案内―」

キエートはあくまでマイペースに案内する。俺たちはキエートの後ろについて不思議な道に入り込んだ。

 数歩も歩かないうちに明るい場所に出た。どこかの大きな神社のようだった。

「ここは?」

「高天原のアマテラス様をお祀りしている場所でーす。もうすぐ神様の会議が始まります」

「会議中に何も知らない俺たちが入って行っていいのか? いや、俺たちの神としての査定、だったか?」

「はいです!」

キエートが部屋に入ると奥に御簾があり、左右にずらっと神々と思しき面々が座っていた。

末席の中央に座らされた。

「皆の者、控えろ! 御前の御登場だ」

「「「「「「「ははっ」」」」」」」

「大義である。さて、本題に入る」

凛とした声が御簾の奥から聞こえる。これがアマテラス神の声か。

「新しく神になったもの、我の手ではどうする事も出来ぬほど強い力をもっておる。さて、いかがしたものか」

「まずは神としても自覚を持たせることと行動を制限するべきでしょうな」

蛇と思わしき神が進言する。

「うむ、ちょっとしたことで天変地異でも起こされてはかなわぬ」

「いきなり上級の地位を与えるのはいかがなものか」

「中級から成長具合に合わせて加階していってはどうか………」

 要約するとこんな感じだった。

 議論は白熱した。それなりに力があるのだからと始めから上級を与えて行動を制限しようとするものと、中級から順に階級を上げていくべきだと主張する者。さらに天司君が捜査霊課所属と言うのも心証が良くなかったらしい。

パシン

 アマテラス神の扇を閉じる音が響く。すると議論を続けていた神々は黙った。

「よかろう。査定を言い渡す。力の強い知識のない方は中級二等神から、力の弱い捜査霊課所属の方は中級三等神から始めるがよい。昇格の基準についてはまた後日通達する」

「「「「「「「「「「ははっ」」」」」」」

 それだけ言うと御簾の奥の気配は消えて行った。そして神々もぞろぞろと帰って行った。

 残された俺たちも元のファミレスに帰った。

「神様って具体的には一体何するんだ? 格がどうとかってどうなんだ? さっぱりわからん」

 俺の言い分にキエートがハンバーグを頬張りながら明るく返事する。

「大丈夫でーす。私がバッチリ補佐しますから!」

「よろしく頼むよ」

「まず、神様のお仕事から。神様のお仕事は基本的に人の願い事を叶えることです。中級二等神なので何でも願い事を叶えることが出来ます。専門はどうしましょう?」

キエートは2枚目のハンバーグを頼みながら首をかしげた。

「僕は勝負事を専門にしたいですね。スポーツから卓上競技、受験戦争に出世争いまで、勝利の神になってみたいです」

「そういうことか、そういうことなら……………健康の神様、とか? いや健康問題ではかなり苦労させられたからな。できるのか?」

「できますよー。最初は他の神様の下請けからなんですけど、いずれ社持ちになったら由緒も書かれて自分の専門を持つことが出来るのです!」

 キエートは自分の事のように胸を張る。知る力で何となくイメージが湧いた。要は願いを叶えればいいのだ。神力を使えばそう難しいことではないらしい。

「社って誰が建てるんだよ、そんなモノ。まあ一生下請けでもいいか、気楽だし」

「駄目ですぅ! そんなこと言っちゃ!」

 そう言うキエートを天司が宥めて、

「まず、下請けから始めましょう。力の使い方がわかってきたら、追い追い社持ちの仕事も掛け持ちと言うことでどうでしょう? もちろんバイト代は出しますし、社も場所は好きなところに建てて構いません。若しくは神のいなくなった神社を譲り受けても構いません」

と助け船を出してくれた。

「神のいなくなった神社?」

「はい、基本的には神社にはお祀りしてある神がいらっしゃるのですが、人間の信仰心の薄れによって神が消えてしまうことがあるのです。神は通常、人間の信仰心を糧にしていらっしゃいます。しかし、信仰心が規定以下になると神は栄養失調状態となってやせ細り、最期には消えてしまうのです。

 そのような神社が最近ではいくつもありますので、そこに入っていただくこともできます」

「そうか、神の消えた神社に入るほうが新しく建てるより良いよな。じゃあ、それで」

 これでも俺なりに事が大きくならないように考えて話しているつもりだった。

「ええええええっ! そう言う所はお願いも少ないですし、信仰心も薄いんですよ! 津田様にはどんどん御願い事を叶えていただいて神様の地位向上に一役買ってもらおうと思っていたのにぃー」

 キエートは残念そうに悲鳴を上げる。やってきた2枚目のハンバーグを一瞬で平らげていたので、不満で膨れているのかハンバーグで膨れているのか判別に困る。

「いやいやいや、新米神様にそんな大役押し付けないで。俺は世界の片隅でひっそりと生きていたいだけなんだから」

「そんなぁ」

キエートは重ねて残念そうだった。

「よし、じゃあこの近場で神様のいない神社を捜そう………ってどうすればいいんだ?」

「知る能力があるじゃないですか」

「ああ、そうだな。そうだった。俺って間抜けだよな? こんなので大丈夫なのか?」

 神様の仕事をすることが前提で話が進んでいる。だが……。

「あ、俺明日もバイトだから。今日はここまでで帰る」

「ちょっと! ちょっと待ってくださいよぅ! 神様になったんですから今のバイトなんて辞めてくださいよ!」

「神様行ではお金は稼げないだろう? せめて五円程度だろう?」

「でもでもー」

「お金はこちらで出しますから、とにかく捜査霊課に来てください。今のバイトよりも収入は良いはずですよ」

天司君は、今度はキエートに助け船を出す。

「そうは言ってもなあ」

「次のお休みはいつですか?」

「明後日………はあ、仕方がない。行くしかないのか」

「そう、行くしかないのです!」

同時に多大なる疲労が襲ってきた。






主人公びくびく怯えております。

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