二回目
今朝の事。
「起きなさい」
平坦な声が彼を起こした。
彼は目を擦りながら辺りを見渡たす。
曇り?いや違う。暗い?いや、何かそれも違うな。
時刻は丁度十二時を回ったところ。
窓からは昼間の太陽の眩しい光が差し込んでいる。
その先に見える景色は変わらない休日のそれであるはずだったが、大幅な変更が彼を襲う。
目に映る全てのモノに色が無い。
黒と白の世界。
いやちょっと待て、今声がしなかったか?
「でしょうね」
ん?
「何処から聞こえる?」
そうそれ。いや待て。何だこれ?何処から聞こえる?つーか何で黒白?
「そんなに一度に考えないで」
いやいや。。むしろ何で考えが読めるんだ?
「ちょっと考えるな。今から話す」
はい。
彼は素直に従う。
「自分の事は分らない。多分あなたの頭の中に居る。そのおかげであなたの考えが読める。あなたは塵。黒白はあなた自身の所為、多分。きっと」
さりげなく塵って言ったな!
「冗談」
冗談でよかった。悲しくなるのを回避できた。
「私のために悲しまないで」
お前の為じゃない。それよりもう少し細かく知りたいんだけど。
「細かくも何も。それがすべて。何故私が貴方の頭の中に存在しているのか。自分の名前も性別も何も。全て解らない」
そう言った声の語調は若干弱く細かった。
暫しの思考停止。
そっか。まぁいいか。とりあえず解った。いや、何も解ってないけど。
軽かった。
彼のあまりの軽さに声だけの存在は言葉を失う。
「あ……あほなのね」
おいこら。
彼はベッドから這い出し、リビングのソファに移動する。
普段見ている光景のはずなのだが、黒と白だけになっただけで全く違う空間にいる様に感じる。
あぁそうだ。こっちはいいけれど、この視界は困るな。
「黒と白の件?」
さすがにこれは嫌だな。
「それは貴方の所為。多分」
何それ?
「ヒントをあげましょう。外に出なさい。多分」
多分をを入れるのは何故だ?
「知らないから」
多分過ぎる!
不確定要素満載の話だった。
でもまぁ家に居たところで問題は解決しないかもな。外に出れば色が見つかる確証は無いけど。それでも色が見つからないとも限らないし。
彼は一度天井を見上げる。
白いな。天井。
白い天井は白い。
しかし何かが違う。
とりあえず、出掛けるか。
「ええ」
少し弾んだ声に聞こえる。
まぁ準備してからだけどな。食事もしたいし。
朝の出来事終了。
歩き出して一時間弱。
時に太く、時に細く、右に曲がり、左に曲がり、道は自由気ままに姿を変える。
突然小さな広場や公園に出ると思えば、駐車場で行き止まり。
車じゃ入れないからな。むしろ入る必要もないけど。こんな道あるんだな。
「カッレを歩くとカンピエッロやカンポにあたるとは素敵な旅路ね」
いや何でベネチア風?つーか旅はしていないけどな。
旅をするといった感覚ではないが、それに近い雰囲気。
知っている筈の自身の住まう土地は、実際には全く知らなかったという事実がその感覚にさせる。
方向は大凡把握しているのに、場所そのものは解らない。
不思議な感覚。
えーと。そろそろこっちの方に……。
目をやるその先には駅が見える。
初めて来たな、この駅。つーか結構歩いたな。
「だけど色は見つからない」
うーん。何か無いのか?
「何かと言うと?私は話す事しか出来ない」
まぁ確かに。
「それとも何?それ以外何か出来るの?出来ないでしょう」
何で何も出来ない事を威張ってんだ、お前は。
「黙れ」
ぴしゃりと声だけの存在は会話を切った。
なかなかの理不尽ぷり。




