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同じ頃会議室の一角で私服の警官は被害に遭った生徒に質問をしていた。
女性の担任は少し緊張気味にその様子を伺っている。
「じゃぁ、何も心当たりはないのですね。」
「はい。ありません」
「誰かに恨まれたりとか、異性関係とか・・」
女生徒は毅然と顔を上げきっぱり答えた。
「そういうことはありません。」
警官は口を真一文字に結び背広の懐からタバコを出して一本口にした。
「あ、あのう、たばこは・・・」
担任が気弱に注意すると咳払いをしてポケットにしまった。
「ただの悪戯だといいんですが・・・。些細な事でも直ぐ連絡を下さい。それからくれぐれも身辺には注意をして下さい」
警官が帰ろうとしたとき制服を着た警官が入ってきた。
「国木田さん、ちょっといいですか」
「ああ、もう帰るところだ」
「胴体が見つかりました。公園の砂場です」
国木田は軽く会釈をして慌ただしく会議室を出て行った。
「山下さん、大丈夫?」
担任が方に手を添えながら声をかけるが彼女はうつむいたまま返事をしなかった。
午前の自習をやり過ごした徹と健二は育館の裏の芝生で弁当を食べていた。
「俺が考えるに、男女関係のもつれだな」
「何が」
「犬だよ、犬」
徹は関心なさそうに箸を進めた。
「あの先輩さ、ええ、なんつったっけ、そうそう山下良子さん。結構いい女じゃないか」
健二は徹の事などお構いなく更に続けた。
「三年になれば受験とか、進路の事があってさ、真面目そうな人だから、もう終わりにしましょう、なんか言って、その男がまぁ、痛い奴なんだろうな、きっと」
「何で分かるんだよ」
「何でって、他に何があるんだよ」
「くだらねぇ」
空の弁当箱を袋に入れて徹は立ち上がった。
「おい、どこ行くんだよ。午後は楽しい水泳だぜ。」
徹はあからさまに嫌そうな顔をしながら言い放った。
「メシも食ったし、帰るわ」
「農薬を食って死んだ鳩、矢が刺さった白鳥、足を切り落とされた猫、そして首を切られた犬。おまけに胴体はわざわざ人目につく公園に捨てやがった」
警察署に戻った国木田は椅子に浅く腰を掛け、ファイル見ながらつぶやいた。
「同一人物でしょうか」
脇に居た後輩の原田が言った。
「さあな。しかし、2万人にも満たない田舎でこんなことをしでかす人間が複数居るとは思えないがね」
「そうだとしたら次は・・・」
国木田はフィルタ^間近まで吸ったタバコを灰皿にねじ込んだ。
「自分の感情。自己顕示欲。それが抑えられなくなってきている。次があるとしたらもう少し強くて自分より弱いもの・・・」
「子供、ですか」
「犯人が女ならそうかもしれないが、男なら女性も、老人もその範疇にはいるだろ」
二本目のタバコに火をつけ原田に言った。
「兎に角、住民に不安を与えないよう情報を集めるように」
学校をフケた徹は鳥居の真下で大きく息を吸い込み石段を一気に駆け上がったが
社の前でふらつく膝に両手をつき、酸欠でクラクラする頭をもたげて荒らしく呼吸を整えた。
祭事場の真ん中に立ってあたりを見渡す。
木漏れ日とそよぐ風。
「あれは、やっぱり夢だったのか」
(そう、夢)
熊笹がおい茂っている林の奥を徹は凝視すると半透明の人のような物体がそこに揺らめいていた。
(あなたはあなたの存在、あなたの周りに居る人々の存在をどう証明しますか?)
脳に直接問いかけられている。
徹は瞳に力を入れながらゆっくり近づいた。
腰まである黒髪、透き通る瞳・・・。
「カオル・・・カオルか?」
(アウロがこの地球を飲み込もうとしています。あなたたちは選択しないといけません)
「アウロ?選択?」
(世界を覆うもの。秩序を乱すもの・・・)
「何を言ってるんだ。意味が分からない」
(あなたが正しい選択をすることを信じます)
そう言い残し青白く光る粒子と共に薫らしき物体は雲散霧消と消えた。
「おい、カオル!ちょっと待てよ・・・」
徹の手は空を泳ぐ。
湿った風が微かに吹き、蝉の声が辺りを包んだ。