第5章第79話白夜対ナイトレッド後編 決着
時は少し遡り、ナイトレッドが白夜を退け、家を駆け出した直後。
「くっ、仲間か」
突然声をかけられ、振り向いた白夜。そこに居たのはナイトレッドの仲間と思われる二人のヒーローが立っていた。思わず、身構える白夜。
「ち、ちょっと待ってください。僕の話を聞いてください」
こちらを警戒する白夜に、慌てて両手を左右に振って、落ち着かせようとする一人のヒーロー。それはナイトレッドの赤色の部分を黄色に変えた、ナイトイエローである。一方の、同様部分が青色のヒーロー、ナイトブルーは白夜を警戒こそしているが、すぐさま攻撃を仕掛けるという雰囲気ではないようだ。
「分かった」
白夜も完全に警戒を解いたわけではないものの、目に見える形でラフな姿勢になる。ナイトイエローもそんな様子を見て、話を続ける。
「もう一度尋ねますが、あなたが鬼堂白夜さんでよろしいですか?」
「ああ、間違いない」
「では、今、あなたは何をしていますか?」
「ッ!」
ナイトイエローの質問に白夜は非常に悩むことになる。白夜が今、就いているのは悪の組織の首領である。もちろん、素直を言えば、確実に彼らとは敵対するだろうと。嘘をついて、味方になってもらうという選択肢を取ることもできる。いや、それは出来ない。白夜は心の中でそう思う。
白夜はこれまで未来達を騙し続けてきた。しかし、先日、とあるきっかけからバレてしまった。その代償は大きく、今朝まで後悔するはめになった。そんな思いはもうしたくない。白夜の本心は決まっていた。
「俺は悪の組織【美学道】の首領をやっている」
「な……に……」
白夜の言葉を聞いて、ナイトブルーは戦闘体勢になる。もう一方のナイトイエローも非常に驚いた表情をしつつも残念だとばかりに唇を噛みしめていた。
こうなるとは最初から分かっていた。相手はヒーローだ。だが、白夜はさらに話し続ける。
「俺が悪の組織を作ったのは理由がある」
「なんだ、まさか人助けのために作ったとか宣うんじゃなかろうな?」
ナイトブルーは白夜に言葉に信じられないとばかりに反論する。
「結果的にはそうなるな。だが、一番の目的は【デスインセクト】・【野蛮地帯】の完全撲滅だ」
「はぁ?」
白夜の目的にナイトブルーは理解が追いつかない。【デスインセクト】も【野蛮地帯】も数十年前に壊滅したはず。確かに【デスインセクト】の残党と名乗る輩もいるが、奴らの妄言に過ぎないと上層部が……。まさか?
「あなたは十数年前に壊滅した【デスインセクト】と【野蛮地帯】がまだ存在していると言いたいのですか? 」
考えが纏まらないナイトブルーに変わって、ナイトイエローが質問する。白夜は二人がすぐに敵にならないよう、本心を
打ち明ける予定だったが、最初の部分で躓くとは思っていなかった。いや、昨日の未来達の反応から想定することも出来たか……。ヒーローの中で一二を争うナイトレッドのチームメンバーでも知らないとすると余程、事態は深刻だということか。白夜は頭の中でこう考えながら、正面の二人に向かって話し続ける。
「君達が情報を知らないのは君達の上が止めているからだ」
「つまり、ヒーロー支援団体の上層部が僕達にあえて情報を渡していないと言いたいのですね?」
「ああ、そうだ。だが、ヒーロー支援団体だけじゃない。三地区合同政府も絡んでいるな」
白夜から語られる内容に二人は動揺を隠せない。ナイトイエローは痛くなった頭を使って考える。そして出した結論をとんでもない事実を導いた。一方のナイトブルーも同様な推測に至る。しかし、そんなことは考えられないとイエローに向かって叫んだ。
「おい、イエロー真に受けるな。嘘だ。でまかせだ。すぐにこいつを……」
「待ってくれブルー。レッドが、いや、正人がおかしくなった日のことを覚えているか?」
「正人が……ヒーロー支援団体本部に行った日だったな。……じゃあ、ヒーロー支援団体本部の奴らが何かしたっていうのか。あいつの罠だ。疑心暗鬼にさせるようにするためのな」
「渡も分かってるんでしょ? 正人が前に言ったことを」
「ああ、でも、そうかもしれないな」
ナイトイエローの説得にナイトブルーは大人しくなる。二人は再び、白夜の会話に戻る。
「では、話を戻すぞ。俺達は【デスインセクト】・【野蛮地帯】を滅ぼす。その前段階として三地区合同政府、及びヒーロー支援団体本部をなんとかしなきゃならない」
「で、なぜ【デスインセクト】らを滅ぼすのに政府や本部をどうにかしなきゃならないんだ? 」
ナイトブルーは理解できなかった訳ではない。自分が考えていた最悪の想定を否定してほしかったからだ。しかし、現実は甘くない。次に白夜から出た言葉は最悪の想定そのものだった。
「もう既に政府も本部も【デスインセクト】や【野蛮地帯】の息がかかっている。だから前の敵を倒す前に後ろの敵は無くしておく必要がある」
「事実か? ……事実なんだろうな」
“もう既に~息がかかっている”この白夜の言葉に二人は大方、察した。なぜナイトレッドがおかしくなったかを。そして、今までの本部の不可解な行動を。
「約束は守る。そっちもな」
「ヒーローたるもの約束の一つや二人守れるさ」
「破った場合のことは承知しておいてくださいね」
「分かった」
少しの沈黙の後、白夜と二人は話し合い、その中で協定をかわした。その内容は二人側は今回は敵対しないこと。白夜側はナイトレッドを正気を戻し、なおかつ生きた状態で二人側に返すこと。前者の内容には正気に戻ったナイトレッドも含まれていた。そしてどちらか一方が破った地点でこの協定は無効になる。
白夜は手短かに話を終えると、ナイトレッドが向かってであろう家に向かって全力で走り出した。
時は再び戻り、現在。
「てめぇ、あそこで怯えていればいいものを」
「正気に戻すから軽くにしようと思ったが、俺の仲間を傷ついた分は許してもいいよな?」
白夜は気絶した優理、理佐。さらにボロボロになってまで戦おうとした未来の姿を見て、ナイトレッドに怒りをぶつけた。白夜がここまで怒りを感じるのは久々だ。昨日、ありのままの自分達を知って、それでも残ってくれた仲間達がボロボロに倒れている。怒りが抑えられるはずがない。
「だったら、ここでてめぇを殺してやるよ。『気構え・一乃型』」
「うっ、痛いな。だがなぁ……」
白夜の姿を見ただけで荒ぶるナイトレッド。先手必勝とばかりに拳を振るう。それに対して、白夜は一旦下が……らなかった。なんと、ナイトレッドの攻撃をそのまま喰らったのだ。だが、それが白夜の狙いだ。
『剛仁拳』
「がっぁ」
ナイトレッドの懐に入り込んだ白夜はいつもの風を纏わせた拳出はなく、純粋な拳を叩き込んだ。回避も出来ず、もろに浴びてしまったナイトレッド。
「なにぃをぉ……ッッあああ」
白夜の攻撃はまだまだ終わらない。体勢を崩したナイトレッドの胸ぐらを掴むと、そのまま頭突きをかました。
『一脚』『二重脚』
意識が飛びかける中、ナイトレッドは渾身の蹴りを白夜のすね、腰に当てる。これには白夜も少し力を落とす。その隙に白夜の手を離すと、後ろに退く。今までとは違う白夜の戦い方に、ナイトレッドは恐怖を抱いていた。
ナイトレッドは自分が抱いていた恐怖を無理やり消す。白夜は殺す宿敵だと自分の心に言い聞かせるように。
「かかってこいよ。鬼堂白夜」
白夜の名前を叫ぶことによって自分を鼓舞するナイトレッド。勢いを落とさないようにと白夜に向かって、連続で拳を振る。
『肉歯』『石片』『土片』
ナイトレッドの攻撃はほとんど当たらなかった。たまに当たったとしてもそれを軸にしてカウンターをかましてくる白夜に対し、次第にナイトレッドは追いこまれていく。
『矛構え・二乃型』
『特級風死拳』
隙を見て構えたナイトレッドの得意の一撃も白夜は防いだ。とうとうここでナイトレッドを鼓舞してきた復讐の炎が弱まり始める。白夜に対する恐怖が復讐の炎を上回ったからだ。それにより、ナイトレッドが動きが鈍くなる。
「次で終わりだぁ!」
再び、ナイトレッドの胸ぐらを掴んだ白夜はそのまま回転し出す。
『胴構え・一乃型』
ナイトレッドもここから抜け出そうと白夜を攻撃するものの、胸ぐらをがっちり掴んでいる様子からなにがなんでも離そうとはしない決意がみてとれる。ナイトレッドの必死の抵抗も空しく、次第に目が回り、反撃すら出来なくなる。
「うぉぉぉぉぉ」
回転は突然終わる。白夜の掛け声と共にナイトレッドは空中に投げ飛ばされる。ここでナイトレッドは体勢を整えるべきだったが、目が回っていて出来なかった。ナイトレッドが最後が見た光景はこちらに向けて風を生み出す拳を振る白夜である。
『竜巻流拳』
白夜の拳から出た風は竜巻となってナイトレッドを襲いかかる。竜巻に飲み込まれたナイトレッドは、消えるまで空中を回転していた。竜巻が消えると同時に重力に従って地面に落ちていく。もう既に意識のないナイトレッドにきれいな着地など不可能だ。従って、地面に叩きつけられることになる。
「ふぅ、はぁ、勝った……」
地面に叩きつけられたナイトレッドを見届けた白夜はそのまま意識を失って倒れた。白夜が目が覚ますのは次の日になる。
次回予告
ナイトレッドとの戦いに勝利した白夜。目を覚ました白夜の前に正気に戻ったナイトレッドが現れる。警戒を強める白夜に対し、ナイトレッドがとった行動とは? 次回第80話 後始末① ナイトレッドという男




