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悪の首領(ボス)の世界征服術  作者: 黒牙 透
第5章何無荒野編~三地区編【壱】
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第5章第74話『回想編』冬の激突(4)

三日連続投稿。


 栄蔵博士は窮地に陥っていた。研究所にいる黒烏隊は全てやられ、部下の研究員はほぼ全滅。前方にいるあの男は自身を消そうとしている。あの男からどう逃げる……、なんとか思考を働かせるもののいい案は思いつかない。


 「一つ聞く。何故だ」


 「死にゆく者には理由なんていらんだろう?」


 仕方なく会話で時間稼ぎしようするが、男には通用しない。それどころか、背中から一対の翅を出し、なんと空中に浮遊した。


 「鎌鼬(かまいたち)で切り裂かれがよい」


 その直後、部屋全体に風の刃が襲いかかる。


 「忌まわしい【デスインセクト】め。さすがに三人の最高幹部の一人というだけのことはある」


 自身に襲いかかる風の刃を避けながら、謎の男に近付いていく。この男の正体は【デスインセクト】の三人の最高幹部の一人である。【ヴェノム】のアジトに居た幹部も、実は最高幹部の一人であった。


 「至近戦か、いいだろう。かかってくるがよい」


 幹部の男は接近する栄蔵博士に気付いた。栄蔵博士の狙いを見抜いた男はあえて利用してやろうと、栄蔵目掛けて突進する。


 「この状況どう見る?」


 「そんな死にかけでのんびり(しゃべ)るな。隙を見つけて逃げ出すぞ」


 幹部の男と栄蔵博士の戦いを傍観している二人。それは秀元とナイトレッドの二人である。ナイトレッドは戦いの余波で飛んできた風の刃を、ろくに動けない秀元を守るため、自身が盾となり喰らっていた。

 ナイトレッドは隙を見るものの、幹部の男が隙を見せることはなかった。したがって、ただ傍観することしか出来なかった。


 「こんな時だからこそ冷静に分析するんだ」


 「……そうか。なら言わせてもらうと、あの幹部の男が勝つ。今はどうやら相手に合わせてるようだが、本気になればあの栄蔵って奴は簡単にやられる」


 ナイトレッドの言うとおり、謎の男と栄蔵博士の戦いは謎の男の優勢で続いている。栄蔵博士が必死の形相で奮戦しているのに対し、一方の男はどこかに余裕を感じさせる表情をしている。今も攻撃を喰らっているのは栄蔵博士だ。


 「ハァ、ハァ」


 最初は拮抗していると思った栄蔵博士。しかし、実際には遊ばれていただけに過ぎないと身体を持って痛感させられる。けれども男が自身を見逃さない限り、生き延びれない。頭をひねればひねるほど、詰んでいると分析される。そんな自身にヘドが出る思いだ。


 「そろそろ終わりにしよう」


 男は先ほどまで桁違いの数の風の刃を栄蔵博士へと繰りだした。その(すさ)まじい風の刃に、栄蔵博士は避けることが出来ない。


 (……こんなところで、こんなところで、死ぬわけには。私の……計か……)


 数百、数千の刃を身体を受けた栄蔵博士は、ゆっくりと後ろに倒れていく。そして地面を倒れた栄蔵博士は二度と立ち上がることはなかった。栄蔵博士は死んだのだ。

 三十二年前とは違い、本当の死。例え、幾多のもの命を(もてあそ)んだ栄蔵博士であっても逃れられない宿命。それが今日だったに過ぎない。享年八十二。ちなみに彼がもし天寿を全うした場合、あと十年は生きることが出来たという。


 幹部の男は栄蔵博士の死を目視で確認すると、ゆっくりとナイトレッドと秀元の方を向く。


 「一人逃げたようだが、俺からは逃れることは出来んぞ」


 そこに立っていたのは秀元一人だった。ナイトレッドは秀元に説得され、一人で逃げ出した。秀元が最期に見た彼の姿は泣き顔であった。そんな彼を無理矢理、追い出すように逃げさせた。秀元に悔いはなかった。


 「さて、何か遺言でもあるか?」


 一人残された秀元に対し、幹部の男は話しかける。


 「一つだけある。お前らは絶対に滅ぶ」


 「戯言(たわごと)だな」


 幹部の男がそう言った直後、秀元の胸を変化した槍が貫いていた。即死だった。空中秀元も栄蔵の死から二分と経たずに後を追うように死んだ。ただ幸いなのは自分の娘は一人若い女性の手によって守られたことであるだろう。享年四十。






 「ふは、いつの間に子連れになったんだぁ? 【聖光(ホーリー)】」


 総司と呼ばれた男はひかりの後ろで隠れている白夜と風華を見て、目をぎらつかせて言う。


 「こいつら……」


 「そんなに大事にしてるってなら、俺がぶっ壊しってもいいよな?」


 ひかりの話も無視して、総司は白夜と風華の後ろに立っていた。この間、三秒。さらに、標的を風華に決め、蹴りを入れる。ひかりもそれに反応して、魔法少女時代からある技を使う。


 『聖域(ホーリーガード)


 総司が風華に放った蹴りは、目の前の光に覆われた壁によって防がれた。


 「そんな弱っちいガキ二人を守るだけに大層な技を使ったもんだな」


 「なら真正面からかかってくるんだな。私が怖いんだろ。前に不意討ちしたのもそういう理由なんだろ?」


 総司はひかりを言葉を(あお)りながら、攻勢の手を止めない。ひかりも負けずと(あお)り返しながら攻撃する。お互い、パンチ、キックを織り交ぜて戦う。しかし、白夜と風華を守りながら戦うひかりは徐々に劣勢に追い込まれる。


 (このままではまずい。せめて、動きを封じなければ……)


 「もらったぁぁぁ」


 総司はひかりのちょっとした隙に入り込み、懐に渾身の一撃を叩きつけた。


 「それはこっちの台詞だ。『聖鞭拘(スレイプニル)』」


 ひかりの言葉と共に、総司は光で出来た鞭によって身体をがんじがらめに縛られた。総司を身体に力に入れ、引きちぎそうとする。けれど、その光の鞭はびくともしない。


 「へっ、辛そうだな。お前の体力じゃあ、せいぜい二、三分しかもたねぇな。俺は自然に消えるまで、ここで休憩でもしてるわ。ははははは」


 敵を拘束するという便利な技だが、拘束している間はひかりの体力を消耗させてしまう。さらに現在、ひかりは魔法少女でもないし、ヒーロースーツを身に(まと)っているわけでなく、完全な生身である。そんな状態では総司の言うとおり、二、三分拘束するのが限界だった。


 (残された時間は少ないか……、今のうちに)


 ひかりはある二つのブレスレットを二人に渡した。さらに白夜には追加で黒い箱状の端末みたいなものを渡される。


 「ひか(ねぇ)、これは?」


 「ひかりお姉ちゃん?」


 いきなり、ブレスレット(と黒い箱状の端末)を渡された二人は困惑する。


 「今からお姉ちゃんの言うことをよく聞け。そのブレスレットを腕にはめて、そこのボタンを押すと、私の隠れ家に移動できる。二人はその別荘に行って、そこにいるおじさんにこの壊れた変身デバイスを渡してくれ」


 ひかりは先ほどから早口で喋っている。


 「ひかりお姉ちゃんは?」


 「お姉ちゃんはついていけない。」


 「なんで? なんでよ? ひかりお姉ちゃんが残るんだったら私も残る」


 勘のいい風華はひかりが一緒に付いてこないことを察していた。だからこそ、直接、ついていけないと言われた時、風華はひかりに泣いて抱きついてしまった。風華はもうひかりに会えないと思っていたから。


 「風華、聞いてくれ。白夜はまだまだ危なっかしい子なんだ。隣で風華が支えてほしいんだ。これはお姉ちゃんと風華の約束事だ。聞いてくれるよな?」


 ひかりは風華の耳元で風華だけに聞こえるように、ひそひそと話す。


 「うん、分かった。約束する」


 風華は泣き止み、ブレスレットを装着した。


 「白夜、お前はヒーローになるんだったな。男ならここは黙って言うことを聞け。そして泣きたいなら後で泣け」


 ひかりは、泣きべそをかいている白夜に強い口調で(しか)った。


 「うん」


 白夜は頷いた。そしてブレスレットを装着していくが、ある男が横槍を入れてきた。


 「ははははは、ヒーローになるだって?これはお笑い草だ。世間の知らねぇガキに大人の俺が教えてやろう。悪の秘密結社の首領(ボス)の息子はヒーローになれねぇんだよ。ははははは」


 その男は拘束されている総司だ。総司は縛られたまま、ゲラゲラと笑っている。


 「……ひか(ねぇ)


 白夜は子犬のような声でひかりを呼んだ。白夜を安心させるため、ひかりは目と目を合わせながら、白夜の肩に手を置いて言う。


 「大丈夫だ。成れるさ。私が保証する」


 そんなひかりを嘲笑(あざわら)うように総司が割り込んでくる。


 「団体で禁止されてるのに、だーれが成れるさだ。【聖光(ホーリー)】は大道芸人にでもなったのか。」


 これ以上この男の悪口を二人に聞かせるわけにはいかない。ひかりは二人のブレスレットのボタンを押した。すぐに二人は光に包まれていく。数秒後、ひかりの前から二人は消えていた。


 (白夜、風華。私はこの5ヶ月間、二人からたくさんのことを学んだ。また会えたらいいな)


 ひかりはもう居なくなってしまった白夜、風華との思い出を回想する。そして自分に向かって、聖癒(キュア)を使った。


 「へっ、これで邪魔されずに戦えるなぁ~」


 総司は光の鞭から脱出していた。ひかりもまた聖癒(キュア)により傷と疲れがなくなった。お互いに間合いを持ちながら、近付いていく。両者の戦いが再び、始まった。





 「がぁぁぁ、ちくしょー、俺の顔がぁ、顔がぁ~」


 数分後、この場に居たのは総司だけ。だが、その総司が顔を押さえて、(うな)っている。これは最後にひかりが光の剣で、総司の顔を一閃(いっせん)したからだ。

 不意討ちぎみに浴びせられたその攻撃に、怒りと痛みで我を忘れた総司は、直後に何十発の拳と蹴りを浴びせ、近くの崖から突き落とした。

 しかし、ひかりを倒しても、顔の傷が治るはずがなく、今こうして彼は(うな)っている。


 崖から突き落とされたひかりのその後を知るものは誰もいない。ただ、総司はひかりの遺体を確認することを忘れた。普通は確認するはずなのに……







 

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