第3章第30話【恐怖の時間】最期の抵抗 前編
第3章終盤へ突入しました。
莉佳がテレイ地区営第一学校に初めて行った日から二週間、迫夜達は平和な日常を過ごしていた。その間、遊びに来た桃に【恐怖の時間】の動向について聞くが、幹部がキューラしか居なくなったことで、悪事を働いても迫夜達の援護は必要ないとのことだった。
迫夜達はこの日、テレイ地区の首都テレイシティに観光に来ていた。
「サイカイ地区とはまた違った趣がありますね」
優理のいう通り、サイカイシティは悪の組織に対応するため、観光名所が無かったのに対し、テレイシティはショッピングモール、遊園地、動物園、ゲームセンターといった娯楽施設が多く存在していた。
迫夜達はまず、莉佳が勤めているテレイ地区営第一学校に寄ることにした。
テレイ地区営第一学校はテレイシティの中央部から南東に歩いて三十分の所にあり、四方は全て林に囲まれて、約十万平方メートル(東京ドーム約二・五個分)の広大な敷地を持っている。
校舎は五階建てと三階建ての二棟に別れており、二棟を結ぶ渡り廊下が各階に一つずつ設置されている。
そのうちの一つ、五階建ての建物の方が生徒棟と呼ばれ、小学一年から中学三年までの全ての学級の生徒がこの棟で授業を受ける。
もう一つの棟は三階建てで実技棟と呼ばれ、実験室、調理室、図書室、職員室などの施設があり、基本的に用件のない生徒は入れない棟となっている。
生徒棟の東側には体育館があり、西側には実技棟、北側には校門、南側には校庭があり、実技棟の南側には五十メートルプールが設備されている。
「師匠。ここがテレイ地区営第一学校ですか?」
「ああ、そうだろうな」
迫夜達は三十分の道のりを経て、現在、テレイ地区営第一学校の校門の前に居た。すると、学校の中から数人の男性が現れ、迫夜達を取り囲んだ。
「すいませんが、警備の一環でこちらに来た目的を教えてください。」
「分かりました。」
男性の一人が迫夜に話しかけてきた。未来や琴美はビクビクしていたが、優理と理佐は平然とした態度を取り、迫夜はここに来た目的である「秀に会いたい」と男性に伝える。すると男性達はコソコソ話し始め、しばらくして先程言葉を交わした男性が再び、迫夜に話しかけてきた。
「仲間と相談したところ、申し訳ないのですが、ここで待ってもらえませんか。只今、静波秀先生をお呼びいたしますので……」
「はい。分かりました」
男性の言葉に従い、迫夜達は校門の前で待つ。五分後、学校内から秀がやって来た。
「みんな、私に何かようかな?」
「いや、テレイシティを寄ったついでだ」
迫夜達は秀と三十分ぐらい雑談していた。
「もうそろそろ授業をしなければならない。あとはまた今度な」
「ああ」
秀が学校に戻っていった後、迫夜達は男性達に不審に思われぬよう、すぐさま学校から離れた。
「はぁ〜怖かった。」
「大丈夫。琴美は私が守るから」
「でもどうして学校の前にあんな人達が居るんだろ」
「ん、琴美知らないの?」
琴美は知らなかったようだが、他の全員には理由が分かっていた。
「琴美は分かってないみたいですね」
「優理先輩。つまり琴美は学校に通ったことがないということですか?」
「そうなりますね」
優理の言った通り、未来はサイカイ地区営第三学校卒業、優理はサイカイ地区営第一学校卒業、理佐はサイカイ地区営第二学校卒業と琴美以外の女性陣は学校に通った経験があった。
「琴美、学校にああいう人が居るのは学校に通っている子供たちを守っているからよ」
「へぇ〜知らなかった」
普段とは違い、真面目に琴美に対して話す理佐。琴美も理由が分かって
納得した表情をしていた。
迫夜達は再び中央部に戻り、テレイシティの名物の一つであるヒーロー博物館に訪れていた。
ヒーロー博物館は古今東西の引退したヒーローやヒーロー達を支援した今は亡き科学者達が祭られていて、それらを拝見するため、多くの人が訪れている、テレイシティ屈指の観光名所である。
「この施設無料なんだ〜」
「お金取ったら気軽に入りにくくなるからな」
迫夜達はヒーロー博物館の出入口である大きな回転ドアを通過すると、正面に堂々と男性の銅像が飾られていた。
この銅像のモデルは真義 誠という男性である。真義は初代ヒーローであった。
当時はヒーロー支援団体という組織は存在せず、警察という組織が市民を守っていた時代、真義は警察の中に設立された特殊危険団体排除部隊の初代隊長を任命された男である。
その功績は人類に希望をもたらしたと言っても過言ではないといえる。
なぜなら、真義は現在の悪の組織や悪の秘密結社の先駆け・元凶である【暴君・ノーヒューマン】を壊滅させた人物であるからだ。 そんな真義は人類の英雄として人々から崇められたが、最期は【暴君・ノーヒューマン】の残党に心臓を刺され、二十九歳という若さでこの世を去った悲しきヒーローでもあった。
真義の死後、再び悪の組織・悪の秘密結社は表舞台に出るが、彼の意志を継いだ者達によって、今へと繋がれている。
「この人が真義 誠さん……」
「初代ヒーロー……」
未来と優理が真義の銅像の前で感傷の浸っている頃、理佐と琴美は博物館の中を見て回っていた。
ヒーロー博物館に飾られているヒーローは真義だけではない。【暴君・ノーヒューマン】の消滅後に残党によって設立された【デスインセクト】【野蛮地帯】【狂悪】を壊滅させ、ヒーロー界最強の称号を持つ近城愛斗、三年前まで現役ヒーローで滅ぼした悪の組織は数知れず、ヒーロー界の大御所、獄陽輝、魔法少女最強の称号を持つ、魔夜、ヒーローと魔法少女を兼任したとされ、今なお謎に満ちた女性といわれる、聖光姫、など様々なヒーローの英雄伝がこの博物館には集められていた。
その他にヒーロー博物館には滅んだ悪の組織・悪の秘密結社の情報も掲載されているエリアがある。そこには【暴君・ノーヒューマン】を筆頭に、【デスインセクト】、【野蛮地帯】、【狂悪】など百を越える組織の名前が記載されている。
「楽しかったぁ〜」
「そうですね。私も来て良かったです」
「私は普通だったけど……」
「今度また行きたい」
博物館を三時間くらい見学した後、迫夜達は次の目的地を決めようと近く街路樹に移動した。
「おい、次、どこに行きたい」
「遊園地」
「私はどこでも平気です」
「琴美と一緒なら私もどこでも」
「す水族館」
「ヒーローを呼ぶんだぁぁぁぁ」
迫夜達は次に行く場所を相談していると、いきなり博物館の前の通りを大量の汗をかきながら、全力疾走してくる太った男が通っていった。
「うわぁぁぁぁ」
「みんな逃げろぉぉぉぉ」
太った男以外にも走って逃げていく人々が大勢居た。徐々に逃げる人達を見て後を押されたのか、周りに居た人々も逃げ始め、辺りは無法地帯と化していた。
「師匠、これは」
迫夜達は何かが起きていると考え、逃げる人々とは逆方面へと進んだ。
迫夜達が物事の発端となっている、中央部のターミナル跡地に着くと、そこには沢山の球体関節人形達が列を成し、その場に停止していた。
「こいつらは!」
「恐怖の時間の」
「下僕ども」
迫夜達は球体関節人形達を倒しにかかろうとした時、突然、球体関節人形達の一部が炎で焼かれ、見るも無残な姿になった。
「一般人さん。ここは危ないから下がってて。こいつらは相手は私がするから」
迫夜達が声のする方を見ると、ターミナル跡地に設置された小屋の屋根に一人の少女が立っていた。
少女の外見は黒髪のショートヘアで、頭に赤いリボンをつけ、白と赤で彩られたドレスを身に纏い、白いロンググローブとロングブーツで手足を覆った、十七〜十八歳くらいの少女であった。
「では、お言葉に甘えて」
迫夜は少女に球体関節人形達を任せて一人でこの場を立ち去ってしまった。未来達は迫夜の行動に疑問を持ちながらも迫夜の後を追った。
「さっきの人達は逃げましたか。ではこれで安心してあなた達を倒せます」
迫夜は博物館の前に戻ってきた直後、後ろから追跡してきた未来達に追いつかれる。
「師匠、どうして逃げるんですか? 私達も戦いましょうよ」
「あそこは彼女だけで十分だ。それより、この近くに敵の基地があるはずだ。」
「「「「えっ」」」」
迫夜の思いがけない言葉に他の全員が愕然する。
「こっちだ」
迫夜が突然そう言い出すと、どこかに向かって駆け出していった。未来達も迫夜の後をついていく。
迫夜が向かった場所は中央部の中でも人通りが少なく、周りの建物の影になり日も当たらない小さな一軒屋だった。
「あのぅー、師匠。勝手に人の家に入っては……」
未来の制止を無視して、迫夜は一軒屋に入ろうとしたが、
「来たわね。ウフフフフ」
中から今まで戦ってきた【恐怖の時間】の幹部の一人、キューラが数十体の球体関節人形を連れて現れた。
「「「「キューラ」」」」
「そう易々とアジトに入られても困るのよねぇ〜」
キューラは連れてきた球体関節人形達に命令を出し、迫夜達に襲いかかった。
「ここを突破して基地の中に入り込むぞ」
「はい」
迫夜の掛け声と共に未来達が球体関節人形達へ雪崩れ込んだ。
解説
この話で出てきた娯楽施設で、動物園は全ての動物では草食動物(大型種は除く)と一部の雑食・肉食動物しか飼育、公開はされていません。また遊園地は観覧車やジェットコースターなどはなく、良くてもゴーカートくらいしかありません。




