第3章第26話戦いものの平穏は、短いのが運命(さだめ)。
恐怖の時間によるナガヤ湖での作戦を失敗に終わらせた日の翌日。
「ふぁ〜、よく寝た」
未来が自分の部屋のベットで目覚めると、周りに未来の容態をずっと心配していた、優理・理佐・琴美がベットの傍らで眠っていた。
未来が三人を起こさないようにベットを下りた時、いきなり未来の部屋の扉が静かに開いた。
「その様子じゃ大丈夫のようだな」
未来の部屋に入ってきたのは、迫夜だった事を確認した未来は、
「みんな、心配してくれてたんですね。師匠、一つ話があるので聞いてもいいですか?」
「ああ、じゃあここで話すのも寝ているみんなに悪いし、居間に行ってそこで話そう」
頼み事を聞いてほしいと言った。未来は迫夜に話を聞く為、自分の部屋を後にし、居間に向かった。
居間に入ると、居間のテーブルの椅子に風華が座っており、未来を見た瞬間に安堵の表情を浮かべていた。
「風華さん。ご迷惑おかけしました」
「謝らなくていいのよ。謝りたいのはこっちですし、未来が何ともなくて良かった」
未来は風華と話をした後、居間にあるじゅうたんの上に正座で座った。次に未来の前に迫夜が胡座をかいて座った。
「で、話したい事って何だ?」
「昨日の戦闘の際に起こった変身の事です」
未来は迫夜にキューラと戦った時の、謎の変身について問いただす。
「ああ、近くで見ていたから大体分かってはいたが……。話を進めるとあれは対ヒーロー用の秘密兵器だ」
「対ヒーロー用の秘密兵器?」
迫夜は未来に昨日の戦闘で使った戦闘服の名前を言うが、機械に詳しくない未来が名前だけで、概容が分かるはずもなく困惑していた。
「簡略して言うと、俺達がヒーローのみたいに変身出来るようにする為に、瞬間移動マシンが付いてある指輪に取り付けた発明品だったんだが……俺が試しに着けても何も起きず、失敗したと思っていた発明品だ」
迫夜は対ヒーロー用秘密兵器を簡略化して話すが、話の途中から音調が変わり元気のないような口調で喋っていた。未来は迫夜の口調が、徐々にしおらしくなっていくのに気付いて、迫夜の事を思い、迫夜の話が終わるまで静かに話を聴いていた。
「ん、もしかして俺に気使ってた?」
「えっ! いや、はい、すみません」
迫夜に急に聞かれた未来は反応に遅れて、とっさに答えてしまう。
「いや、別にいい。あの変身装置に選ばれたんだからな。聞きたいことはこれだけか? もうすぐみんなが起きてくるぞ。みんな心配してるから元気な姿を見せてこいよ」
迫夜は話を締めくくった後、立ち上がってこの場から立ち去ってしまった。
それから三十分が過ぎた後、居間に優理と理佐がやって来て、未来を見ると、すぐに未来に駆け寄って来た。未来は二人の表情がとても未来の事を心配していたように見えた。
「未来〜、心配したんだよ。もう大丈夫なの?」
「あんな所で無茶をしないで……」
「優理先輩、理佐さん。ご迷惑おかけしました」
未来は二人に迷惑をかけた事を謝った。この日はその後、琴美が起きてきて、優理・理佐と同じ行動を取ったのは言うまでもないが、未来はこの日、みんなにとって自分が大切な仲間に思われていると感じたのであった。
次の日、世間の学生は休日なのか、二日前にナガヤ湖で別れた桃と由奈が家の前にやって来ていた。
その時出迎えにいった迫夜は二人の髪型が変わっている事に驚いた。桃はツインテールではなくツーサイドアップになっており、由奈はポニーテールではなくトリプルテールになっていた。
「お久しぶりです。迫夜さん」
「おとといはどうも失礼しました」
桃と由奈は敬語を使って挨拶をするが、二人の敬語はたどたどしく、無理して敬語を使っている様子だった。
「おとといの事は別にもういい。それより髪型変えたのか?」
迫夜は自分が思っている事を率直に言う。迫夜の言葉に、二人は顔を合わせくすくすと笑っていた。
「どうしたんだ。急に笑って」
「ごめんなさい。私達が髪型を変えたって聞いて、つい。迫夜さんにはまだ話していなかったのですが、私達がツインテやポニテになるのは魔法少女に変身している時だけです。普段はこの髪型で過ごしています」
桃は不思議に感じている迫夜に丁寧に説明していた。だが、この時話していた敬語も他の人が聞くと、たどたどしく聞こえていた。
「説明ありがとう。後、慣れない敬語は止めといた方がいいぞ」
迫夜は二人を家の中に入れた。二人は前回、迫夜の開発した発明品によって、ナガヤ湖に転送させられ、一階や二階へ行くことはなかった。その為、初めて一階に来た二人にとって、この場は新鮮そのものであった。
「あっ、未来さん。こんにちは」
「こんにちは」
廊下を歩いていく桃・由奈は前から擦れ違いさまに来た未来に挨拶をし未来も挨拶で返す。その時、未来は修行を終えたばかりだったのか、顔や身体中汗まみれになっていた。
「未来、身体を冷やさないようにしろよ」
「はい」
迫夜は未来に忠告して、桃・由奈を連れて居間に向かっていった。
居間に到着すると、桃・由奈は並んで椅子に座り、迫夜は桃と由奈の真正面にあり、桃と由奈に向かい合っている椅子に座った。
「なあ、おととい俺達が消えた後、大変じゃなかったのか?」
二人が座って早々、迫夜がナガヤ湖の事件が終わった後の事を聞く。
「あの後ねぇ」
「いろいろ大変だった」
二人はおとといの事を思い出していた。この時、いつの間にか敬語ではなくなって、普段の喋り方をしていた。
「あの後、すぐヒーロー支援団体の人達が来て、迫夜さんが倒したオニマバヤを捕まえていったわ。だけど……」
「ん、どうしたんだ。捕まえた後……」
「記憶を消されたのか分からないんだけど、恐怖の時間の事を何も覚えていなかったわ。更に、あの科学者の男も、昨日湖を捜索したらしいんだけど、見つけられなかったみたい」
桃はナガヤ湖の事件で、恐怖の時間の情報を得られると思っていたようで、芳しくない結果に落胆していた。
「敵の情報は手に入らなかったようだが、敵の幹部の一人を捕まえる事が出来たのだから落ち込むな」
「迫夜さんもこう言っているんだよ、桃、元気出そう」
迫夜は落ち込んでいる桃を励ます。更に隣に居る由奈も声をかけて励ます。
「うん」
迫夜と由奈に励まされ、元の調子に戻る桃。そこへちょうどお茶と茶菓子を持った風華がやって来た。
「どうぞ召し上がって下さい」
「あっ、カステラだわ」
桃は風華が持ってきた茶菓子を見て、すぐにテーブルの上に置いてあったフォークを手にとり口の中に入れていった。
「私も食べていい?」
「もちろん、構いませんよ」
カステラを食べるのを戸惑う由奈に対し、優しく声をかける風華。
「はぁ〜、美味しかった」
「うん。美味しい」
カステラを食べ終えた二人は迫夜達の家に夕方まで居させてもらう事にした。
二人は優理や理佐に会って雑談したり、春と遊んだりしている内に夕方になり、帰る支度をして帰ろうとしていた。
「みなさん、今日は失礼しました」
「今度は私達ところに来て下さい」
二人は迫夜達に見送られながら、自分達の家に帰っていった。
桃と由奈が迫夜達の家に来た日から三日後。迫夜達の所に再び桃と由奈が慌てた様子でやって来た。
「みなさん。助けて下さい。私達の所にこんなものが送られて来ました」
由奈がそう言って迫夜達の前に取り出したのは一枚の紙であった。




