第3章第21話温泉に行こう。前編
アサヤマ村を出発してから半日が経った頃、迫夜達は、アサヤマ村の隣町のナガヤ町にたどり着いた。迫夜達は人が居ない、町の外れに下りる。
「結構早く着いたな。秀の作った空を飛ぶ薬は凄いな。」
迫夜が秀に感心していると、秀の近くに居た琴美が。
「お父さんの発明品は凄いでしょ。こう見てもお父さんのIQは210あるんだから。」
「琴美、恥ずかしいから止めてくれ。」
「お父さん、ごめんなさい。」
秀が自慢げに話す琴美を注意する。注意された琴美は謝るが、迫夜達の関心は違う物だった。
「IQ210だと。負けた。」
「師匠、落ち込まないでください。私は師匠の味方ですから。」
「迫夜さんよりもIQがあるんですか。世の中は広いです。」
自分よりもIQが高い事に落ち込む迫夜。落ち込んだ迫夜を励ます未来に、秀に感心する優理。ここに来た目的を忘れている迫夜達に向かって理佐が言う。
「みなさん、ここに来た目的を忘れてませんか? 私達がここに来た目的は春の為でしょ。みなさん気を引き締めてください。」
理佐は迫夜達を叱る。叱られた迫夜達は。
「悪かった、今は、雑談なんてしている場合ではないよな。じゃ二手に別れて春の情報を探そう。」
迫夜の言葉で二手に別れて春の情報を探す事になる。その後の話し合いの結果、迫夜・未来・優理と秀・琴美・理佐のチームで探す事になった。
side 迫夜・未来・優理
迫夜達は通りすがりの人達に春の事を聞く。
「すいません。一つ聞きたいのですが、如月春という女の子を知りませんか?」
「分かりません。私は急いでいるのでこれで。」
迫夜達は聞きまわるが、有力な手掛かりは無かった。
「一旦、秀達と合流しよう。この町出身ではない可能性があるな。」
迫夜達が町の外れに行くと、一人の少女が迫夜達の傍を走り去った。
「今のは、魔法少女だな。」
迫夜の言葉に未来が反応する。
「師匠、何で走り去った少女が、魔法少女って分かるんですか? 中学生の女の子が普段着ているような服を着ていたんですよ。」
疑問に思った未来が迫夜に聞く。
「未来、こんな人の少ない所に、女の子が一人で居る訳ないだろ。」
迫夜の答えに納得する未来。秀達はまだ居なかったので、迫夜達は待つことにした。
side 秀・琴美・理佐
迫夜達と別れた秀達は、迫夜達と同様、通りすがり人に聞きまわっていた。しかしこちらも有力な手掛かりは得られない。
「秀さん、有力な情報はありませんね。一度、迫夜さん達と合流しましょう。」
理佐の提案で迫夜達と合流する事になった秀達は、町の外れに向かっていた。
「はぁ、はぁ、ちょっとそこの人、どいて、どいて。」
秀達が後ろを向くと、迫夜達が会った少女とは別の少女が、猛スピードでこちらに走って来た。秀達はとっさに避けると、少女は秀達を通り越してどこかに行ってしまった。
「全く危ないですね。」
「一体何だったんでしょうか?」
「私にも分かりませんが、今は迫夜さん達と合流するのが先です。」
秀達は、猛スピードで走り去った少女の事を気にするが、迫夜達と合流する事を先に選ぶ。秀達が町の外れに行くと。
「秀さん、琴美、理佐さん。こっちですよ。」
未来が遠くから手を振って叫んでいた。手を振っている所に行くと、秀達は迫夜達と合流する事となる。
「そっちは何か、春について有力な情報を聞けたか?」
迫夜が秀に尋ねると。
「残念ながらこちらは何にも。んっ、という事は、迫夜達も何も情報を得られなかったと。」
秀は迫夜に報告するが、お互い何も情報が得られなかった事に気付き、苦笑する。
「これからどうしようか。この町でこれ以上探していても、何も情報は得られないだろう。」
迫夜がこれからどうするか迷っていると。
「師匠、次の町に行きませんか? 他の町に行けば、春の情報も何か分かるかもしれませんよ。」
未来が迫夜に提案するが。
「未来、もう今日は日が落ちる。それに次の町までは歩きで三日かかる。一日分の用意しかしていない俺達には得策ではない。」
迫夜に提案を否定され、未来は落ち込む。その後の話し合いで一晩この町に泊まる事になった。迫夜達は今日、泊まる旅館にやって来た。旅館の玄関に行くと、中からここの女将さんと思われる年配の女性が出てきた。
「ようこそ、【美麗の園】(ビレイのソノ)へ、お客様は六名様でいらっしゃいますか?」
「六名で大丈夫です。二人部屋と四人部屋をお願いします。」
迫夜は、女将さんに注文する。女将さんは、迫夜達を連れて、まず二人部屋に案内した。
「こちらが二人部屋でございます。」
「ここの部屋は俺と秀でいいな。」
「いや、私は娘と同じ部屋がいいです。」
迫夜は、自分と秀が泊まる予定でいたが、秀に断られる。更に、迫夜が秀を見ると、莉佳(元の姿)になっていた。
「ちょっと待て、何で元に戻ってんだ。じゃ、俺は一人か。」
「師匠、私が一緒に泊まりますよ。」
秀(莉佳)に断られて自暴自棄になった迫夜に、未来が言った。迫夜と未来はここで一旦別れ、優理達は女将さんに連れられて、四人部屋に案内された。
「ここは四人部屋でございます。私は用があるので、これで失礼いたします。何かご用件がありましたらお呼びください。」
女将さんが居なくなった後、優理達は部屋に入った。部屋の中は、和室とふすまによって分けられた板敷の部屋があるという構造になっていた。
「理佐さん、こっちに来て、窓の外を見てください。絶景です。」
「うん、いい光景だよ。琴美。」
「私を見るんじゃなくて、外を見てください。」
琴美の言う通り、窓の外にはこの旅館の名物と呼ばれている、遠くの山々が見え、山々の近くには透き通った湖も見る事が出来た。
「先輩、遊びに来ました。一緒に温泉入りに行きませんか?」
「未来、二人だけっていう訳にはいかないわ。みんなの意見を聞かないと。」
未来が優理達の部屋に来て、優理に一緒に温泉に入ろうと頼むが、優理は他の人の意見を聴いてから判断する事になった。
「私も温泉に入ろうかな。ここの温泉は体に良いとパンフレットに書いてあったし。」
「理佐さん、ここにあったパンフレットを読んで判断しないでください。」
「私も行きたいですね。ここに居てもやる事ないから。」
「お母さんまで、行くの? じゃ私も一緒に行く。」
「結局全員行く事になりましたか。じゃ、みんな早く準備して温泉に行きましょう。」
ここに居た全員が温泉に入る事になり、準備をする未来達。準備とは浴衣を着る事なので、浴衣姿になる。浴衣姿になった未来達は、温泉へ向かった。
「未来まで行ってしまった。もういい、俺は一人で温泉でも入るぜ。」
迫夜の声は、虚しくも誰にも聞いてもらえず、意気消沈しながら、温泉に向かっていった。ちなみに男湯と女湯は場所が離れている為、迫夜と未来達が会う事は無かった。
「風華さんと春ちゃんには悪いですね。私達だけこんな温泉に入ってしまって。」
「仕方ないよ。春の情報を得るため何だから。」
「はぁ、心が癒される。ここ数年、研究ばかりで旅館なんて行かなかったからなぁ。」
温泉に入って気持ち良くなっている優理・理佐・莉佳、しかし温泉の端っこで未来と琴美が雑談していた。
「琴美、どうしてあなたのお母さんはあんなに胸が大きいのよ。私なんて小さい時から牛乳は毎日飲んでいるのに……。」
「未来、私に聞かれても分かりません。何故、私に敵意剥き出しにするんですか。」
「だって最初に会った時は、私と一緒くらいだったのに、今じゃ、優理先輩や理佐さんに、並ぶような感じになっているからよ。」
胸のサイズで琴美に敵意剥き出しにする未来。未来達が温泉に入ってからしばらくすると、未来達を呼ぶ声が聞こえた。
「未来・琴美、そろそろ出ないの? 私達先に部屋に戻っているね。」
「先輩の声だ、琴美さっさと出ましょう。」
「未来、私を置いてかないでください。」
優理の声で、琴美を置いて温泉から上がる未来、未来を追いかける琴美は、一緒に脱衣場に行くと、先に出ていたとされる理佐がコーヒー牛乳を飲んでいた。
「理佐さん、コーヒー牛乳を私にもください。」
「そこの冷蔵庫に入っているから、自分で取って。」
未来は、冷蔵庫の中にあったコーヒー牛乳を一本取り出し飲む。一方琴美は。
「琴美ちゃん、はい、これ。」
「理佐さん、ありがとうございます。」
理佐がどこに隠してあったか分からないが、コーヒー牛乳を一本、琴美に手渡す。それを見ていた未来は理佐に怒鳴る。
「理佐さん、どこに隠してあったんですか? そのコーヒー牛乳。なんで私には自分で取りに行かせるんですか?」
「だって、琴美の分しか取ってなかったからよ。」
「理由はそれだけですか?」
「うん、それだけだよ。」
未来の怒りが頂点になろうとしたとき、琴美が未来を止める。
「未来、止めてください。せっかく温泉に来たんですよ。冷静になってください。」
「そうだよ未来。琴美が言った事は正しい。」
琴美の言葉を聴いて、怒りを抑える未来。しかし理佐の余計な一言で、
「「あんたのせいでしよ(理佐さんのせいでしよ)」」
未来と琴美が同時に言う。
「理佐さん、未来に謝ってください。謝らないと私、理佐さんの事嫌いになります。」
理佐は琴美の言葉を聴いて慌てて未来に謝る。
「ごめん、私が悪かったね。はい、もう一本のコーヒー牛乳、これで許してくれないか?」
「今回は許すけど、次は無いですよ。」
理佐は未来に謝ると同時に、どこに隠してあったか分からないコーヒー牛乳を一本未来に上げる。未来がコーヒー牛乳を受け取って理佐の事を許す。
脱衣場の事は水に流し、部屋に帰る三人。そして待望の夕食の時間がやって来た。




