第1章第7話人には話したくもない過去が誰にでもある(ヒーローと権力者)
あれから三日後、迫夜達(風華は居ない)は、横沢科学室に来ていた。
「迫夜か。出来たぞ」
賢二がそう言って部品を迫夜に手渡す。
「ありがとう。今度は、お土産を持って来ます」
部品を手渡された迫夜はお礼を言い帰ろうとしていた。
「所長、はぁ、はぁ、大変です」
いきなり将太が息を切らしながらやってきた。
「どうしたんだ。そんなに慌てて」
賢二が慌てて、やって来た将太に聴くと。
「この建物の前で若い女性が倒れています。私が声を掛けた所、迫夜の知り合いと言えば分かると言っています」
迫夜がその言葉を聴いて急いで横沢科学室の前に行くと不良に絡まれていた女性が倒れていた。
「大丈夫か」
迫夜が聞くと、女性は小さいながらも返事をした。迫夜・賢二・将太に運ばれベッドに寝かされる女性。女性の顔が赤く、体も熱くなっている事から熱があると分かった。
「状況が分からん。迫夜何か知っているようだな。俺に教えてくれ」
状況の分からない賢二に、三日前の事を喋る迫夜。それを聴いた賢二は。
「話は分かった。でも何で大きな荷物を持っていた経緯は分からないという事だな。そこは直接彼女に聞くしかないな」
迫夜・賢二・将太・未来の四人が女性が起きるまで看病をしていた。女性を発見してから一日が経った時、女性が目を覚ました。
「ん、ここは」
女性が目を覚ました事に気付いた未来は、迫夜・賢二・将太の三人を呼んだ。三人が駆けつけると女性はベッドから起き上がり、椅子に座っていた。
「大丈夫か、元気になったか」
「昨日何があったんだ? 」
「熱は下がりましたか? 」
三人が同時で話をするので未来は。
「あんたたち、同時に喋っても聞こえる訳ないじゃない」
三人は未来の言葉を聞き、三人が話し合いをし、順番が決まった。最初に将太が喋った。
「おはようございます。熱は下がりましたか? 」
「はい。おかげさまで」
体調の具合を聞く将太に、良くなったと答える女性。将太はもう少し喋りたかったようだが順番が来たため、二番目の迫夜が次に喋る事になった。
「大丈夫そうで良かった。俺は鬼堂迫夜と言う。お前の名前を聞かせてくれ」
いきなり敬語を使わずに喋る迫夜に将太は、大胆な人ですね、と思っていた。対する女性は。
「三日前に会った人ですよね。私の名前は古村優理、と言います。この度は、助けて下さってありがとうございます」
優理は迫夜に二度目のお礼を言った。もう少し話したかった迫夜だが、将太と同様順番の為、次の賢二が喋る番になった。
「優理さん。昨日何があったんだ。私に教えてくれないか? 」
賢二の質問に口を濁らす優理。それを見た賢二は。
「私では駄目という事か、だけど皆君の事心配しているんだ。私は仕事に戻らないといけない。何かあったらそこの迫夜くんに頼むといい」
賢二は優理の事情を思い、この場を離れる事にした。
「迫夜くん後の事は任せた。多分私のような中年の男に少し怯えているんだと思う。私の力ではどうしようも無い」
そう言って賢二は仕事に戻った。更に将太も、いつの間にか居なくなっていた。
「迫夜さん、未来さん、どうもすいません。さきほどの男性にも謝っておいてください。今は、迫夜さん達しか、喋りたくありません」
優理の言葉にいつの間にか名前を教えている未来に、驚く迫夜だが、優理の真剣な表情を見て、何か重い過去があると思った迫夜が口を開く。
「俺達にしか話せない事か。辛い過去なら無理して話さなくてもいい。人には話したくもない過去なんて誰にでもある」
迫夜は優理に無理して話さなくていいと言うが……。
「私の事を心配して頂いてありがとうございます。ですが、自分にも責任があります。迫夜さん達には聞いておいて欲しいんです」
優理が深呼吸して気持ちを落ち着かせると、優理の口が動く。
「この町のヒーローについて何か知っていますか? 」
優理の問いかけに対して二人は。
「ごめん、何も知らないわ」
「この町の専属ヒーローの事か」
ほとんど知らなかった。
「私は、この町の専属ヒーローのブルーをしていました」
突然のヒーロー発言に驚く二人。だが何かに気付いた迫夜は優理に尋ねる。
「していた?つまり今はヒーローではないのか」
「はい。私はヒーローでしたが、ある失敗をしてクビにされてしまいました」
ヒーローをクビにされたと聴いてショックを受ける未来。迫夜はまたある事に気付き優理に尋ねる。
「ある失敗っていうのは何なんだ。民間人に被害を与えてしまったみたいな事か? 」
迫夜の言葉を否定する優理。
「いえ。怪人との戦闘で、足を引っ張ってしまって」
優理はこの時、自分が悪いと考えていたが、迫夜は違った考え方をしていた。
「何度も聴くが、その戦いは得意な方々で戦っていたか? 」
迫夜の質問は一見、話が逸れそうな質問だったが。
「いえ。司令官に言われて一度も扱った事もない、銃を使いました」
優理は何故こんな事を聴くのか分からなかったが、それを聴いた迫夜の感情が怒りに満ちていた。更に隣の未来も苛立っていた。
「優理、お前は騙されている。普通、初めて使う武器を扱える人間などいない。同じ物を何度も使う事で人は上達していくんだ。優理、お前をクビにしたのは誰だ? 」
迫夜に言われて、可笑しな所に気付く優理。
「私をクビにしたのは私の司令官で今川範鎧です」
その言葉を聴いた未来は。
「迫夜、私そいつぶん殴りに行く。迫夜も手伝うでしょ」
しかし迫夜は思いがけない言葉を口にする。
「未来、残念だが俺は行かない」
迫夜の言葉に理解できない、未来が言う。
「何で、優理さん騙した奴、どうして放って置くの」
未来の怒りに満ちた言葉に対して迫夜の言葉は。
「未来、今川がどんな奴か分かっているのか、奴はサイカイ地区のヒーロー支援団体のトップで凄い権力を持っている奴だ。俺達の今の力じゃ倒せない。仮に倒せたとしてもヒーロー全員が敵になるんだ。未来はそいつら全員に戦える力があるのか」
二人の口喧嘩に発展しそして。
「迫夜、あなたって人は……」
未来が迫夜に手を出そうとした瞬間。
「未来ちゃん、止めるんだ。迫夜の言う事に間違ってはいない」
突然部屋に賢二がやってきて未来を止める。
「賢二さん、どうして」
未来の失望したような言葉に。
「未来ちゃん。残念だがここは、未来ちゃんが悪い。今川はサイカイ地区では一二を争う権力者なんだ。迫夜もそれを分かっている。今、未来ちゃんが戦えば未来ちゃんは確実に死ぬ。迫夜は、未来ちゃんを失いたくはないんだ。分かってくれ」
賢二の必死の説得に怒りを抑える未来。
「未来、俺もアイツ(今川)には怒ってる。だから今は我慢してくれ。いつかアイツ(今川)を地獄に送る」
迫夜の言葉を聴いた未来は迫夜と仲直りする。それをすぐ側で見せてしまった優理に対して、二人は。
「すまない。優理」
「ごめんなさい」
迫夜と未来が謝ると、優理は。
「私のせいですよね」
落ち込みながら言う優理を見た賢二は。
「迫夜、責任を取ってお前の会社に雇え」
優理はその言葉を聴いて、迫夜に言う。
「私なんて居ても、邪魔にしかなりませんよ」
完全に落ち込んでいる優理に。
「そんな事ない。俺の所に来てくれないか」
「私もだよ。優理さんの事、私好きだよ。」
迫夜と未来が言うと。
「本当にいいんですか。足を引っ張るかもしれませんよ。それに……」
優理が自分の存在を否定しながら言っている途中。
「優理さん。自分に嘘をついてはいけない。世の中このチャンスを失えば、もう二度とチャンスは来ない事がある。それは今だ」
賢二がひと押しすると。
「私、迫夜さん達と一緒に居たいです。お願いです。私を迫夜さんの会社に入れてください」
優理の思いに迫夜と未来は声を揃えて。
「「はい。こちらこそ」」
優理が入った所を見た賢二は。
「俺の入る隙は無いな」
賢二が立ち去って少し経ち、迫夜達は横沢科学室を後にしていた。
「優理に一つ、言って置きたい事がある」
迫夜が突然喋る。
「はい。なんですか?」
優理が聴くと。
「俺は会社の社長じゃないんだ。悪の組織【美学道】のボスなんだ」
優理は迫夜の言葉に驚いてはいたが、嫌悪を感じてはいなかった。不思議に思った未来が聞く。
「優理さん。普通そこは何か言う所でしょ」
「別にもういいかなって。人って見た目だけじゃないしね」
優理の言葉に納得する未来。そして迫夜達は瞬間移動マシンを使って、風華が待っている家に帰って来た。
「入るのが怖い。少し休憩して……」
迫夜が、扉を開けるのを戸惑っている間に。
「風華さん、ただいま」
未来が扉を開ける。未来の声に気付いた風華がすぐにやって来る。
「未来ちゃん、お帰り」
風華は迫夜と未来の他に見知らぬ女性が居るに気付いた。
「あの、今日からこの組織に入る事になった、古村優理です。よろしくお願いします」
優理が自己紹介をすると、風華も自己紹介する。
「私は【美学道】の最高幹部の空中風華です。さま付けは嫌いなので、しないでくださいね」
お互いの自己紹介が終わると未来は、優理と共に中に入っていった。そして残った迫夜に対して風華は。
「迫夜、どうして一日も連絡して来ないのかしら」
怒りの形相になりながら言う風華。何も言える雰囲気ではない迫夜は、その場に立っている事が出来なかった。
その後迫夜の悲鳴が聞こえたが、未来達は無視していた。次の日から優理の地獄の訓練が行われたが、優理は苦しそうな顔を一度もせず、未来にショックを与えていた。
優理の属性検査の結果は、格闘術D・刃物術(剣のみ)A・ 遠距離攻撃E・付加属性(雷のみ)Aという事が分かった。