【中3編】第Ⅱ話*馬鹿の移動中*
『すっ飛んで当日☆』
「新幹線って、ウチの何倍の速さで走ってんの……」
「そうだな、何億倍とかだろうな。超特急だし。」
「でもおかしいじゃん! ウチそこまで遅くないし!!」
ついに修学旅行当日です。まず新幹線に乗って、向こうに着いたらバスで移動といった感じ。
そういえば新幹線の、この席はボックス席だった。後ろに行動班の4人が乗っているため、ウチと海翔の前に座っている2人は、A組だと思われる、知らない、本当に知らない人たちだった。そして様子を見る限りでは、前に座ってる2人も知らない同士っぽかった。なんというか、お互いのパーソナルスペースが広い気がする。決して肘置きを利用しない。
しかし基本人との関わり合いに対して消極的な海翔に、人見知りのウチ。微妙な空間が微妙に広がっている気が微妙にした。
「あ、あの、えーっと、中原さんと山崎君ですよね?」
とか、思っていたら私の正面に座っている女の子が話しかけてきてくれた。
「あ、はい」
「そうだけど」
「私小磯美羽って言います~。よろしくです」
はっ、何この子可愛い。
「よろしくお願いします!」
「……よろしく」
それにしても、初対面の人には敬語になってしまうという自分。
「あ、待って、俺も自己紹介、宮脇浩二っす!」
「あれ? っと、野球部の?」
「あ、知ってるんすか?」
「キャプテンだよな? 総会とかで聞いたことあるなーって」
「おぉ、そうっすか! 俺も山崎さんのことはサッカー部で大活躍してるってことを聞いてるっす!」
何だかスポーツ会系つながりの話に発展していきそうなので、耳をたてるのは一旦中断。それにしても、意外とフレンドリーなんだなー。2人の距離がやたら広いから海翔みたいな人たちかと思ったけど……。
「そういえば何で2人ともウチと海翔の苗字知ってたんですか?」
「あぁ、何か隣のクラスまでたまに噂が聞こえたり、体育の時間とかはむしろお2人の声が聞こえたりするんです」
「「え゛」」
そんなに、騒いでたっけ。そんなに、目立ってたっけ。
とにかく、そんなこと、知りたくなかった。
『詩乃ちゃん達結構うるさいもんね☆』
まさか、そんな風に見られてたなんて……!
しかし噂とはなんだろうか。中学校とは怖いものだ。だから聞かない。
「そ、そいやー何で小磯さんと浩二はそんなに距離開けて座って――」
思いっきり話そらしたなとかいつの間にか浩二呼びし始めてたのかとか思ったその時。
「「だってこいつの隣とか嫌ですもん(っす)!!」」
「お、おぉ……」
「あえ?」
何だ、知り合いだったのか。しかも、声揃えちゃって、結構仲良いのか、げへへ。
「大体、どうして私が浩二の隣なんですか……」
「俺だってなりたくてなったわけじゃないっすよ。周りの人たちが勝手に……」
「え、2人って、どういう関係なんですか?」
「「恋人同士です(っす)!」」
意味が、分からない、ぞ、お前ら。
まぁ、何はともあれその距離は照れ隠しで、こっちのクラスは全体的にまとまってて仲良いという結論でいいのだろうか。可愛いなぁこの2人。
海翔とはいつでも話せるしね、この2人とちょっと仲良くなりたいとか思っている。頑張って話しかけてみようか。そしてそろそろ敬語は美羽ちゃんとかぶってるからやめようと思う。
「ところで2人の馴れ初めは?」
「え、いや、馴れ初めってほどじゃないんすけど、俺らマネとキャプで――って、もう恥ずかしいっす!」
「そうですよ私たちそんな何となく喧嘩したり何となく乗せられたり色々あって何となく付き合ってるだけですし!」
何となく……だと!? それでもリア充爆発すればいいのに感が何となく生まれ始めたウチは、そこで会話を終了させた。飽きというのは、唐突にやってくるのだな……。
「俺はもうさっきの話の時点でもう疲れた」
「マジか」
だが人の心読むな。
正面の2人は喧嘩を始めた。何なんだろうこのカップル。ツンデレ×ツンデレか……。最近割とそういうの増えてるよね。流行りなのかな?
「海翔海翔」
「あ?」
「関西弁しかしゃべっちゃいけないゲームやらへん?」
「やらん」
ずばっと。会話終了。
「ひどいんとちゃいますー。これからせっかく大阪いくんだよ?」
「お前の関西弁(笑)の方がひどい」
「かっこ笑いってなんだよう! 言えてないって意味でしょ! だって生まれもそだちも関東……やねん」
「言いだしっぺが忘れてどうすんねん」
珍しくノリがいい海翔だった。修学旅行だもんね。