番外編クリスマスの過ごし方 伊縁・真由美編 (4/4)
それからボク達は商店街を歩き回った。
ゲームセンターのUFOキャッチャーで1000円も使ってぬいぐるみを取ったり
・・・・・伊縁が
アクセサリーショップでもよくわからないキャラクターのキーボルダーを買ったり
・・・・・伊縁が
・・・・ボクは何もやってない
お金なら少しはあるけど・・・でも、使おうと思えることがなかったから
不意に伊縁が口を開く
「先輩?」
「ん?どうしたの?」
「楽しいですか?」
「え?」
聞いてきた伊縁の顔は不安そうに見えた
「僕と一緒にいるのって・・・」
「・・・楽しいよ」
「そうですか?」
「なんでそう思うの?」
「いや、先輩、笑ってないなって思って・・・」
そういえばそうかもしれない
伊縁と一緒にいるだけでうれしい
そう思っていたけどなぜか笑顔になれない
でも、それが伊縁に心配をかけるのなら・・・・
「そんなことないよ。伊縁の考えすぎじゃない?」
そういって無理に笑顔を作る
完璧とまではいかなくても今までいろんな人に見せてきた顔だ
たぶん、伊縁も・・・・
「・・・・・そうですかね」
伊縁も軽く笑って答えてくれる
でも、なんだかそれが・・・・本当の笑顔だって思っているってことが・・・・切ない・・・
それでも、明るく振舞う
「そうだよ。伊縁こそ楽しめてる?」
「・・・・はい」
伊縁の元気がないことが気になるが本人が楽しめてるって言ってるんだから楽しめてるのかな?
そんな風に考えながら商店街を歩く
ふと、店先に張ってあるポスターが目に留まった
「クリスマスツリーの展示会?」
「ああ、それ今日だったんですね」
伊縁もポスターを見て言う
「時間は・・・・11時か・・・今って何時?」
「今ですか?えーと今は・・・・11時半ですね」
「じゃあ、ギリギリ間に合うじゃん!」
会場の建物までは歩いて15分くらいだろうか?
別にクリスマスツリーが見たいわけじゃない
ただ・・・ただ伊縁と見れたらいいかもって思っただけ
でも、すっごく行ってみたかった
「行きたいんですか?」
伊縁がボクの目を見て聞いてくる
なんか子ども扱いされてるみたいで嫌だったけど
ちゃんと見てくれてるって事が伝わってきた
「うん、いい?」
「先輩が行きたいのなら」
言い方がちょっと恥ずかしいけどついてきてくれるんなら別にいいかな?
「ありがと」
伊縁の手を引いて歩き出そうとしたとき、目線の先の人影を見て足が止まった
「先輩?」
伊縁が心配そうに声をかけてくるがボクの耳には入っていなかった
なんで・・・なんでこんなときに・・・あいつがいるの?
目線の先でこっちをみてニヤニヤ笑ってるやつ
そいつは顔をニヤつかせたままこっちに向かってきた
自然に足が震えてくる
そいつの声は変わっていなかった。
「よう、真由美」
「・・・・・・・」
「あれ?もしかして忘れちゃった?俺だよ・・・・中学のときのお前の彼氏・・・三山弘だよ」
忘れるわけないじゃないか
ボクが人を信じられなくなった元凶のことを
「いやーそれにしてもお前ますますかわいくなったじゃん。どう?俺とより戻さねぇ?」
「・・・・なんで・・・」
「ん?」
「なんで、今更そんなことが言える」
ボクのことを騙して、苦しめて、人を信じられなくしたくせに
「は?そんなの・・・・・好きだからに決まってんだろ?」
「・・・・・・」
信じられるか!!
でも・・・・・・
「すいません」
会話に入ってきた人物・・・伊縁だ
「あ?なんだよお前?」
「僕ですか?僕は真由美先輩の高校の後輩です」
「はぁ?後輩?」
弘はうざったるそうに伊縁を見ていたが何かに気がついたような顔をしてボクと伊縁の顔を交互に見て二ヤつく
「そっか・・・真由美・・・これ、お前の彼氏か?」
弘の言葉に顔が熱くなる
ボクと伊縁が付き合ってる?そんな・・・・そんなわけ・・・
「ん~そうですね。付き合ってます」
弘の言葉に答えたのは伊縁だった。
「ち、ちょっと伊縁!」
伊縁の言葉に耳まで熱くなっていることを実感する
「そうか、なら・・・・・お前がいなければ真由美と付き合えるわけだな」
え?
「おい、出番だぜ」
弘の声に周りにいた若い男の何人かが反応して集まってくる
「とりあえず目障りだからお前死ねよ」
弘が合図をすると男の一人が殴りかかってきた
迎え撃とうとするが伊縁にとめられる
「先輩はそこにいてください」
「で、でも」
「いいから、先輩はただ俺を信じていてくださいよ」
そういうと伊縁は男に体を向ける
男はまっすぐに伊縁の顔を狙って拳を繰り出す
「伊縁!」
男の拳が伊縁の顔を捉える直前で拳が止まる
周りで見ているほとんどのが状況を把握できていない中
男はゆっくりと倒れ、動かなくなった
「次、こないんですか?」
伊縁の余裕の発言が気に障ったのか男達がいっせいに飛び掛る
だが、伊縁はそれらを全て紙一重でよけ、男達を蹴り飛ばす
「す、すごい」
あまりにも一方的な展開に驚きを隠せない
伊縁がこんなに強かったなんて
「・・・・軍人格闘のひとつ、サバット」
男達は全員が倒され弘だけになる
「く、くそー!!」
弘はがむしゃらに突っ込んでくる
「あんたは・・・・真由美を苦しめた・・・ただ気絶させたりはしない」
そういうと伊縁は突っ込んできた弘の顔に蹴りを入れる
そして、顔を抑えて悶絶している弘の腹を蹴り続ける
伊縁は冷ややかな表情で弘を見下ろし
そして、弘のポケットの中から携帯を取り出すとそれを何度も何度も踏みつける
画面が割れ、ただの鉄くずと化すまで何度も何度も
完全に壊れたことを確認すると再び弘へ目線を戻す
腹を押さえて立ち上がる力もなく顔を血だらけにした弘
その頭を踏みつけようと足を上げる
そして、その足が弘の頭を・・・・
「やめて!!」
伊縁の足が止まる
後、2,3センチほどで頭を踏みつけていただろう
ゆっくりと伊縁がこっちに顔を向ける
その顔を見て思わず息を飲む
表情がなかった
怒りも憎しみも蔑みさえもなかった
ただ無表情だった
いつも、明るい伊縁
いつも、優しい伊縁
そんな彼がこんな顔をしている
ボクのせいだ
伊縁の体を抱きしめる
伊縁の温かさを感じる
「ごめんね・・・もう・・いいんだよ」
目から涙がこぼれる
終わりのないかのように絶え間なく
「ごめんね・・・ボクのせいで・・・・ごめんね・・・ごめんね・・・」
「謝らないでください」
顔を上げ伊縁の顔を見るとその顔はいつもの彼に戻っていた
優しくて温かい彼の表情に
「・・・・僕は・・・笑っててほしいな・・・真由美には・・・」
そういって彼は微笑む
そして、それにつられて・・・僕も笑顔になる
作り物じゃない本当の笑顔に
たくさんの男達が倒れている中で二人は笑いあっていた
「あ、そういえばクリスマスツリーは?」
「大丈夫、僕の時計、1時間早いですから」
「じゃあ、まだ間に合うね」
「行きますか?」
「もちろん!」
二人は目的の会場へと歩いていく
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