古傷とは舐め合うもの
「ハァッ!!」
「おっと」
危ね!!先輩って、もしかして剣道有段者?
だったら俺危なくね?
「どうしたの?遠慮なんかしないで来なよ」
「遠慮ねぇ・・・・」
確かに今回は遠慮してたらやばいかもね
でもさ
「俺って、女の人は殴ったりしないって決めてるんですよね」
これで少しくらいは先輩も加減してくれるかな?
「へ~そうなんだ」
あれ?興味なしですか?
「・・・・君には少し期待してたのにな・・・・・残念だよ」
残念って・・・・・
「・・・・行くよ」
次の瞬間、先輩は俺の前から消えていた
「消えた!?」
「やっぱり君も他の人と変わらないんだね」
パァン!!
「いッ!!」
ヤベッ!今のもろに腹入ったな
「まだだよ」
先輩は突きの構えを取る
「フッ!!」
「二度もやられませんよ!」
先輩が竹刀を突き出す前に横に跳んでそれを避ける
「どうかな?」
ドスッ!!
「ぐっ!!」
今のは避けきったはずなのに!
「不思議そうだね?何が起きたかわからない?」
「・・・・・」
「ボクは別に何も特別なことはしてないよ?単なる力の差さ」
・・・・・力の差ねぇ?
本当のところ別に先輩の竹刀を避けることなんて簡単だ
先輩の竹刀を取って先輩を倒すことなんてもっと簡単
それをしないのは只単にめんどくさいから
だってさ、本気出すのってめんどくさくない?
どっかの科学者だか教授だかが言ってたけど人間って別に一生本気出さなくても生きていける生き物なんでしょ?
それなら、俺は本気を一生出さない!
別に生きていられるならそれでいいんだから
長瀬目線
何でだろう?
今、勝ってるのはボクのはずなのに勝ってる気がしない・・・・・
相手は今までと同じ種類の人のはずなのに
・・・・・・そうか、目だ
青山君の目からはやる気が伝わってこない
手加減でもしてるのか?
それなら!
「ハァッ!!」
パァン!!
え?何で?普通、頭を狙われたらガードするでしょ?何でしないの?
何で?何で?分からないよ
「先輩、今なんで俺がガードしなかったかって思ってます?」
「ッ!!」
「当たってました?」
何でボクの思ったことが分かるの?
何で?何で?
「先輩、そんな怖がらないでくださいよ」
「え?」
ボクが怖がってる?
そんなわけない・・・・・でも
やっぱりわかんない
何で攻撃してこないの?
何でやられっぱなしで平気なの?
何で?何で?何でなの?
「先輩」
「・・・・・」
「すいません」
「え?」
いつの間にか彼の手には何個かの何かが握られていた
そして、それを全て・・・・
ガラッ!
「おう!助っ人に来」
教室が強烈な光に包まれた
反射的に目を閉じたがそれでもまだ眩しいほどだった
「マブシッ!前が、前が見えな・・・・ぎゃぁぁぁ!!」
何だろう?今の悲鳴
光はすぐに収まった
う~まだ目がチカチカするよ~
ってあれ?竹刀は?
さっきまで持ってたはずなのに
「先輩、探してるのはこれですか?」
そういう青山君の手には竹刀が
「いつの間に!?」
「いや~スタングレネードってスゴイんスね」
つまりさっきの強い光の間にってこと?
とにかく代わりの竹刀を・・・・・ってあれ?
「ああ、そういえば他の竹刀は校舎の外に捨てときましたよ?」
「・・・・・・それも今の光の間に?」
「ハイ」
・・・・・・早すぎでしょ
そんなことより竹刀!
「それ返してよ」
「先輩が取れたら返してあげますよ」
馬鹿にしてる?
「そんなのすぐに・・・・・・」
「すぐにどうしたんですか?」
・・・・・・届かない
ボクと青山君とじゃ身長が違いすぎる
「もしかして、届かないんですか?」
「そ、そんなことないよ」
このくらいジャンプすれば
「えい!」
よし!あと少し
「とお!」
指先が当たった!
「やあ!」
よし!取れ
「残念!」
届く寸前に手を動かしてそれを避ける
「も~避けないでよ!」
「もーもー言ってたら牛になりますよ?」
「言ってないもん!」
「あ、でも先輩だったら牛じゃなくて羊かな?」
「人の話聞いてる?」
「え?何か言ってました?」
「・・・・・・・・・」
なんか相手のペースになってるような
ガラッ!
「俺も仲間に入れ」
「すっこんでろ変態」
ブンッ!
「ゲハッ!!」
竹刀が直撃か・・・・・痛そう
ん?竹刀?・・・・・あ!
ヒョイ
「先輩、行かせませんよ?」
「猫みたいにしないでくれる?」
「だって先輩、猫みたいにかわいいじゃないですか」
「褒めても何もしてあげられないよ?」
「じゃあ、せめて先輩の彼氏くらいに」
「ない」
「まずは先輩の両親にご挨拶ですね」
「人の話を聞いて!」
ボク、何でこんなのに苦戦してんだろ?
「それにボクの両親はもう死んでる」
「え?そうなんですか?奇遇ですね。俺もなんですよ」
え?俺も?
「話し聞きたいですか?」
「話してくれるなら」
「たいしたことじゃないんですけど、俺って中学の時って外国の軍隊で過ごしてたんですよ」
「軍隊!?」
中学で軍隊に入ってたの?
「いや、俺じゃなくて親が入隊してたんですけどね?」
つまり、戦死ってこと?
そんなのボクに比べれば・・・・・
「そこで敵軍に俺の家を占領されちゃって、それで親と一緒に捕まってたんですけど・・・・そこで敵の暇つぶしとして両親死んじゃったんですよ」
「・・・・・・・」
「あ!恨みとかないですよ?だって親を殺したのって・・・・・俺ですから」
「え?」
親を・・・・・殺した?
自分の手で?
「いや~あっけないもんですよね。銃で撃ったらすぐに二人とも死んじゃって今度は俺か?なんて時に仲間が入ってきて・・・・・遅いですよね・・・・ホントに」
「・・・・・・・・」
「別に親に恨みがあったとかじゃなくて只、自分が助かるためだけに親を殺して・・・・そんで全部が終わって涙流して周りからは親殺しって言われ続けて・・・・・」
話を聞いているうちに分かったことがある
彼のことがおかしく見えた理由
それは彼とボクが
「・・・似てる」
「へ?」
「君とボクって似てるね」
「そうですか?」
「うん」
「先輩の両親も?」
「軍隊じゃないけどね」
ボクは今まであったことを青山君に話した。
他の誰かとこんなもゆっくりと話したのは初めてかもしれない
でも、青山君はずっと黙って聞いてくれた。
それがうれしかった
うれしくてうれしくて話し終わるころには涙が止まらなくなっていた
「・・・・・・先輩は強いんですね」
「・・・・・・え?」
「だって、ずっと一人でがんばってきたんでしょ?」
「それは・・・君だって」
「俺?俺はもう悲しいとかの感情もなくなちゃいましたよ」
「・・・・・悲しいね」
「でも、」
「でも?」
「先輩の話を聞いて少しくらい取り戻せたかも知れません」
そういう彼の目には涙が
「・・・・・・ねぇ、青山君?」
「何ですか?」
「本当は何でボクを倒そうとしなかったの?」
「なんだ、そのことですか・・・・・前に言ったじゃないですか、じゃあもう一回いますよ?」
「うん」
「先輩が困っていたら俺に知らせてくださいって言ったでしょ?その俺が先輩を困らせてどうするんですか」
「・・・・・・違ってるよ」
「違ってる?」
「言葉間違ってるよ」
「あれ?そうでしたっけ?」
「・・・・・・でも、間違ってない」
「どういうことですか?」
「・・・・・・教えない」
「先輩?」
「ねぇ・・・・ふたつくらいお願いしていい?」
「・・・・・・何ですか?」
「一つ目は・・・・君の事、伊縁って呼んでいい?僕のこと真由美って呼んでいいからさ」
「・・・・・・いいですよ」
「ありがと」
「二つ目は?」
「・・・・・一緒にいて」
「いつまで?」
「・・・この対決が終わるまででいい」
「・・・・俺でいいんですか?」
「・・・君だからいいんだよ」
「・・・・そうですか」
剣道場の真ん中で敵同士で先輩後輩で性別も頭のよさも全部違う
でも、いろんなところが同じ二人はお互いの古傷を話し始めた
ありがとね
ボクに人を信じることを思い出させてくれて
ありがとう
俺に悲しみを思い出させてくれて