お母さん若返る
###ヒミコ邸
「はい、完成したわ。ヒミコ様、どうぞ」と星美は完成した着物をヒミコの前に出した。
「随分時間がかかったわねぇ。途中までは順調だったと思うのに、最後の仕上げのところで躓いてしまったわね。まあ、それは仕方ないことだけど」と言いながら、ヒミコは着物を受け取り、袖を通した。
着付けは星美がやっている。しかし着付け終わった途端ヒミコは想像以上の出来栄えに驚愕を隠せなかった。着心地はオリジナルを凌駕していたのだ。
一番の魅力はそのフィット感と軽さだ。比喩ではなく、本当に裸の状態でいるかのようだ。
耐火性能に関しては燃やさないと解らないが摩擦で燃えないだけでも合格点だ。
「凄いわ。今までとは比べ物にならないくらい着心地が良い。これが完成品なの?」とヒミコは星美に聞いた。
「はい。これがヒミコ様のための特製の耐火繊維と、耐摩耗繊維を組み合わせた最高級の和服です。さらに私達の会社が開発した新素材も使っています。軽さと通気性を両立する高機能生地です」と星美は答える。
そしてこの素材の開発にあたっては様々な技術者が協力してくれたそうだ。例えば西レ社では化学繊維や合成樹脂に関する知識と技術を提供して貰った。また帝者社は機能素材に関して全面協力して貰った。
そのおかげで世界で初めて高耐熱高強度カーボン繊維開発に成功したのだ。
「しかし、何と言ったらいいのか、服を着ている気がまるでしないわ。裸でいるみたいで恥ずかしい気分にもなるわね。下着すらつけてる気がしないわよ」とヒミコは感心している。
そんな様子に星美はニヤリと笑みを浮かべた。
「ふふっ。それも計算済みです。何せこの着物には秘密があるんですから」と言うとヒミコの耳元でこっそりと囁いた。
「この着物の素材であるカーボンナノファイバーを編み込んだ下着を身に付けていても快適に過ごせるように調整されているんです」と耳打ちするように言うと、ヒミコは思わず顔を赤くした。
「まあ、なんてこと!そんな秘密があったなんて!本当にすごいわ!」と言って星美に抱きついた。
そんな様子を見ていた玉兎は呆れた表情を浮かべている。
「まったく、ヒミコ様ったら相変わらずチョロいんだから」とぼやいていた。
「そんな事よりも!ヒミコ様、この着物で高速移動をしてみて下さい」と星美が促す。ヒミコは素直に従い、窓際に行き外を見渡してからジャンプした。すると次の瞬間にはすでに別の建物の屋根の上に立っていた。
そしてヒミコは嬉しそうに叫んだ。「信じられない!凄い!こんなに早く走れるなんて夢みたいだわ!」
そして空中を飛びどんどんスピードを上げていった。マッハ2…3…4‥、‥6を超えたあたりで星美達にはもう姿が見えなくなっていた。
10分くらいしてからだろうか‥‥ヒミコが戻ってきた。「凄いわ!本当にすごい!燃えない事もだが、空気抵抗をまるで感じない‥まるで着物の表面を空気が流れていくかのよう‥まるで生まれ変わったような気分よ!」と興奮冷めやらぬ様子で捲し立てていた。
「ヒミコ様の喜ぶ顔を見られてよかったです」と星美は言った。
玉兎はやれやれと言った表情を浮かべつつ「良かったわね、星美さん」と声をかける。
「さて、これで約束は守ってもらえますか?」と星美は改めてヒミコに質問する。
ヒミコは笑顔で答えた。
「もちろんよ!あなたには本当に世話になったわ!あなたのおかげでようやく念願を叶えられるのだから。約束通りあなたを若返らせましょう」と言って星美の手を握った。
すると星美の体が光り輝きはじめ、その姿が変貌していく。年老いた老婆のような姿から、少女のように幼い容姿へと変わっていき、やがてそれは完全な少女の姿へと変化を遂げる。
「まあ!これが私なの?信じられないわ!若返っている!」
「ええ。今のあなたの年齢は19歳よ。どうかしら?凄いものを見せてくれたことだし若さの燃料となる男はサービスね。」ヒミコが微笑みかける。星美は鏡の前で自分の姿をじっくり観察してみた。
「こんな綺麗な髪色になったなんて信じられない。それに肌ツヤもいいし、胸も大きくなってる!まるでお人形さんみたいだわ!」星美は自分の容姿に満足しているようだ。
それを見た玉兎は「ヒミコ様、私も若返らせて貰えませんか?」と懇願するが、ヒミコは首を横に振った。
「ダメよ。うさちゃん。あなたは今で十分可愛らしくて素敵なんだもの。わざわざ若返る必要はないでしょう?」
その言葉を聞いて玉兎は残念そうに項垂れた。「はい、残念です‥‥」
しかし、若くなったことは嬉しいが…自分の子供より若くなってしまって大変そう
‥と星美は心配していた。
「大丈夫よ!星美さんは今後私達の仲間になるの。だから家族だと思って接して欲しいのよ。だから心配することは何もないわよ」とヒミコが慰めるように言った。
「ありがとうございます。ヒミコ様!」星美は感謝の言葉を述べた。
こうして星美の希望は叶ったのだった
###星美邸にて
子供たちに向かって旦那が話しかける。
「今日からお前たちの母親は彼女だからな」と突然の発言に驚く子供たちだが、母親の姿を見て絶句してしまった。そこには19歳の少女の姿があったからだ。
「えっと、お父さんがお母さんを捨てて愛人を連れてきたという解釈でいいのかよ!」と大学生の息子が怒りの表情で声を震わせて尋ねた。
続いて高校生の娘も
「そうだよ!なんでこんな若い女の子を連れてきたんだよ!そんな若い子と結婚するためにお母さんと離婚したの?最悪じゃん!」と抗議している。
しかし父親である夫は平然とした態度で答える。「違うよ。彼女は俺の妻だ。見てわからないか?さっきも言った通り今日からお前らの新しい母さんなんだよ」
「だから不倫していた愛人を連れてきただけだろ」息子が問い詰める。「違うよ。彼女は妻でこれからは家族だからな。彼女が今日からお前達の母さんだ」父親は毅然とした態度で答えた。
それを聞いた子供達はさらに激昂して言い争いを始めてしまった。
そのやりとりを見ていた星美は
(うーん、確かにこんなに若い女の子が母親として登場したら驚くだろうなぁ‥‥でも旦那の愛情は変わらないはずなのに‥‥)と困惑している様子だった。
そしてある事を話し始めた。それは母と子にしか解らない共通の話題だ。父親も知らない事すら話せば納得するだろう。
子供たちも母親の話なので興味を持った様子だ。
そうして次第に会話が弾み、最終的には子供たちも納得したようだった。
「それで本当にお母さんなの?」と娘が改めて確認してきた。
「そうよ。あなたの母親に間違いないわ」と星美は即答した。
すると子供達は一斉に喜び始めた。
「やった!本当にお母さんなんだ!良かったよぉ!」と息子は歓喜の声を上げた。
そして娘も泣きながら「よかった‥本当に良かったよぉ。また家族になれるんだね‥」と嬉しさを噛み締めているようだった。
しかし、父親である夫は複雑な気持ちのようだ。
「しかし、若いころのお母さんてこんなに美人だったんだ。それなのになんでこんな冴えないお父さんみたいな人と一緒になったのかな?」と娘は不思議がっている。
「そうだよな‥言っちゃ悪いけど不釣り合いすぎる」と息子も同意する。
「おい、親に対して酷いことを言うんじゃない。俺だって若い頃はイケメンだったんだよ」と父親は反論するが誰も信じていないようだ。
「もう、いいだろ!その話は…」と話を終わらせてしまった。
★★★★★
「でも本当に綺麗になったね。お母さんが若い頃に戻って嬉しいよ!」と娘は再び喜びの表情を見せた。
一方で息子の方は少し照れているようだった。母親が美少女になってしまったので距離感に戸惑っているのだろう。
そして娘にいたっては自分よりもスタイルがよく若くなった母親に嫉妬していた。母親が高校時代から付き合っていた恋人だったことも知っている娘は嫉妬していた。
だが嫉妬しながらも喜んでいた。そんな複雑な感情を抱えているようだ。




