妹に犯された日
「あはっ、お兄様ったら下品な顔してますのね」
佐武創始郎は実の妹に凌辱された。
手足を縛られ拘束され三日三晩肉体を貪られた。
周りには家族だった遺骸が転がっている。
全て妹が殺害し、残された兄だけを犯していた。
「どれだけ我慢しても、結局は果ててしまうのでしょう?傾国に等しい私を抱いて、諦めてしまえば宜しいと言うのに」
柔らかな肌が強張った筋肉に密着する。
妹の股先から溢れる血の色が家族の繋がりを断っていた。
幾度も超える口付けに、佐武創始郎は殺意を以て声を荒げる。
「お前は、俺の妹なんかじゃないッ!!」
彼の言葉は真実を掴んでいた。
薄ら笑みを浮かべる妹の姿は、今まで見た事の無い悪魔の表情をしていた。
「ああ、バレてたんですの?でも……大切な妹の初めてを貰えて良かったですわねぇ」
妹の皮を被る化物は悪びれもせず言った。
人間の死後。
肉体は再構築され新たな生命が肉体を支配する。
多くの人間はこの現象を輪廻返りと呼ぶ。
馴染みのある名称で言えば『転生者』である。
この事を、佐武創始郎は『再殺』と呼んでいた。
「で、今回の仕事は……?」
葬儀場の一角。
佐武は死体を見据える。
肉体が変貌している死体。
筋肉が膨張し肥大化、上半身だけが筋骨隆々としている。
隣に居る相棒に視線を向ける。
女性ではあるが、男性の恰好をしている。
男装の麗人、と言う奴である。
語り掛けると共に彼女は背広を脱いだ。
ごく自然に、スムーズにである。
白シャツの第一から第二のボタンが無い。
豊満な胸部がボタンを弾いているのだ。
胸元が開かれた彼女の胸部。
たわわに実ったおっぱいである。
下着は着ていなかった。
「山田太郎、九十二歳、死因は老衰だね」
そう言いながら二人は接近する。
彼女はベルトに手を掛けていた。
「イヌ丸」
イヌ丸。
そう言われた彼女は視線を彼に向ける。
屈託のない笑みである。
爽やかな視線の最中、相棒を見詰めた。
「なんだい?我が友よ」
言いながら、永犬丸八広はズボンを下す。
太腿付近まで下した時、溜息と共に佐武創始郎は告げる。
「服を脱ぐな、再三言ってるだろ」
そう言っている間に彼女はズボンを脱いでいた。
白シャツと白のパンティだけである。
窮屈そうにパンティの端に指を滑らせている。
美人である為に一挙手一投足が艶めかしい。
しかし佐武は既に見慣れている様子だった。
彼女の歩く軌跡には衣類が脱ぎ捨てられていた。
衣服版のヘンゼルとグレーテルだった。
「ふふ、おかしな事を言うんだね、我が友よ」
気障な台詞である。
王子様を真似している様にも思えた。
前髪を掻き揚げた状態でイヌ丸は言い放つ。
「聞くが我が友よ、獣が服など着るのかな?」
核心を突いたかの様な台詞だった。
佐武創始郎は彼女の後頭部を平手で叩く。
「きゃぅんッ」
折檻を受けた犬の様な鳴き声が響いた。
「今のお前は人間だろうが、人間は服を着るんだよ」
後頭部を叩かれたイヌ丸は顔を紅潮とさせていた。
気分が高揚している様子が見える。
「なんで興奮してんだよ」
「ボクは主に叩かれると興奮するんだよ」
主の折檻に興奮を抱くタイプだった。
「主じゃねぇよ」
「主だろう?」
昔はそうであったが、今は違う。
イヌ丸が本当のイヌの頃の話である。
今では人間だ、ならば人間として接するのが道理だった。
「がァ!!」
二人で漫才を繰り広げる中。
甲高い声を荒げる化物が走り出す。
標的を見据えて攻撃をしようとしていた。
二人は軽快なやり取りを強制的に切り替える。
「死者の矜持と尊厳を守る為」
「貴様を再殺する」
これは合言葉の様なものだった。
化物を殺害する者が語る祈りに近しい。
佐武創始郎は拳を硬く握り締める。
永犬丸八広は指先からナイフの様な爪を伸ばした。
二人とも、顔に青い光を帯びている。
その光は肉体が罅割れた亀裂の隙間から漏れていた。
「八広ちゃんは外で全裸になったからおしおきね~」
「うぐぅぁああッ」
再殺を完了した後に、佐武たちは会社に戻っていた。
その際に全裸になっているイヌ丸に対し上司はペナルティを与える事にした。
その罰ゲーム染みた内容に、受けたイヌ丸は絶叫した。
彼女はゴシックロリータドレスを着込まされている。
勝手に脱がない様に手首には手錠が掛けられていた。
首元にはプレートが提げられていた。
『私は外で全裸になりました』
とんだ公開処刑である。
イヌ丸にとっては他人に全裸姿を見られるよりも衣服の着用を強制される事が何よりも処刑ではあった。
此処は対化物討伐専門の組織。
死者を弔いあの世へ送る事から『彼岸機関』。
その専門と成る者達は『死弔花』と呼ばれていた。
「んでんで、お仕事お疲れさまだね~、佐武くぅん」
上司はロリであった。
室内では彼女専用のデスクがある。
重厚な座椅子にはチャイルドシートが置かれていた。
その上に座って座高を調整している様子だった。
「人的被害はなくて、施設も破壊されてない、んうんう、合格満点あげちゃうよ~」
良く出来ましたと言う彼女の言葉に佐武創始郎は喜びの感情は無かった。
ただ、仕事を終えた後のご褒美を、彼は待ち侘びていた。
「幽冥さん、俺とイヌ丸の実力は示しました、再殺指定者を制御出来る証明です」
だから。
其処まで言い掛けた時、幽冥と呼ばれたロリは頷いた。
「おきど~き~、佐武くぅんの頑張りには、くららちゃんはちゃぁんと評価してあげるよぉ~」
机の上に設置された内線電話を使い連絡を入れる幽冥。
数分間の沈黙の最中、隣に居るイヌ丸の悶え苦しむ声だけが淀む様に響いていた。
そして。
扉が開かれると共に、佐武創始郎は背後を振り向いた。
褐色肌のボディーガード風のスーツ姿の男の間に女性が居た。
優しい銀色の様な髪をふわふわ使用にくねらせた髪。
自然と仕上がる天然パーマのヘアメイクに沿う様に、その顔立ちは幼い。
華奢な肉体には女性の魅力が詰まっていて、一目見ただけで可憐な少女であると認識出来る。
「士遠っ!!」
佐武創始郎が叫んだ。
彼女の名前は佐武士遠。
彼女の姿に痛ましく思うのは家族として血の繋がりを持つ為であろう。
自らの妹が犯罪者の様に扱われているなど、耐え難い屈辱を感じていたのだが。
「……あら」
顔を挙げる彼女の顔。
一瞬の期待に胸を膨らませた佐武は現実を見せられる。
彼女の姿、形は同じだ。
だが、その瞳は濁っている。
嫌悪する程までに、彼女では無い何かが宿る。
「何処の誰かと思えば……汚ったないお兄様じゃありませんの」
優しかった妹の口調とは違う。
お嬢様の様な口調ではあるが下品な言葉を口にしている。
「ッ、士遠」
再度彼女の名前を口にする。
しかし、佐武士遠は否定する。
「そんなガキみてえな名前で呼ばないで下さいまし、わたくしは飢沙理……テメェの知るアマじゃありませんでしてよ」
……人間は死後、化物に転じる。
見た目は妹だが、その肉体には別の魂が顔を見せていた。
「ふぅ、ふぅ……冷静になるんだ、苦しい、暑い……脱ぎたい、解放、曝け出したい……あぁ、脱ぎたいッ、脱ぎたいッ、うがああああッ!!」
その隣でイヌ丸が雰囲気をぶち壊す程に暴れていた。
ぐだり、としながら幽冥は三人の騒ぎを無視した状態で話を始めた。
それは態度からは考えられない程の内容だった。
「それじゃあ~、三人が揃った事で最終チェックをお願いするねぇ~」
佐武とイヌ丸の二人の実力はまだ示せていない。
これまでの仕事は彼ら二人で何処まで戦えるかを決めるものだ。
彼女の……士遠を含めて仕事を行い遂行する事で晴れて合格基準を満たす事が出来る。
「シヲンちゃんと一緒にお仕事してねえ~、はなまるレベルに達したら、一緒に活動を許してあげる、その代わりにねえ~」
佐武創始郎は黙って見据える。
彼女の言葉に喉を鳴らす。
「もしも、シヲンちゃんが逃げ出す、あるいは、お仕事でばってんレベルだったらねえ~、三人ともの命はくららちゃんでも保証できないよお〜?」
即ち。
反抗的な士遠……飢沙理を制御出来、尚且つ実力を示す事。
それが今回の仕事で見せる事が出来れば良いと、クララは言っている。
「あらあら、と言うことは、わたくしが逃げ出せば……ウザってぇお兄様は処刑って事ですのね、それは素敵なお話ですわ」
ほほ、とお上品に笑うゲスな妹。
「妹の顔で喋んじゃねえ、バケモンが……」
憤りを浮かべる佐武創始郎に彼女は挑発的な様子だった。
「取り敢えず、チョーカーは巻いてるから、逃げる事は難しいんじゃないのかなあ~?シヲンちゃんが首を取り外せる能力を持ってるのなら別だけどお~」
幽冥がボディーガードめいた看守人に目配せをすると、その場から手錠を外して自由にする。
手首をキツく絞められていたので、シヲンは手首を触った後に、佐武創始郎に近付く。
「お兄様、妹の命を救う為にわたくしを助けて下さってありがとうございますわ、その無駄な努力はこれから、テメエの人生を台無しにする方面で返してやるですわ」
口を大きく釣り上げながら、士遠は嘲笑を浮かべて見せた。
これが妹の肉体で無ければ、全力で殴り飛ばしていたのだが。
「おおっと、その様な煽りが、我が友に聞くワケがないだろう?」
しかし。
彼の怒りを鎮めるかの様に、佐武創始郎の背後から悠然とした佇まいでやってくる、イヌ丸の姿があった。
「キミは知らないから教えてあげよう、我が友は諦めが悪い男でね、一度やると決めたら絶対に達成するんだ、キミの中から妹を取り返す、そう決めた以上、我が友のいう事は絶対なのだよ」
幼少期の頃から共に過ごしてきた家族。
だからこそ、イヌ丸は佐武創始郎と言う男の本質に惹かれているのだ。
その様に鼓舞をされた佐武創始郎は改めてイヌ丸と言う家族の存在の有り難さを再確認した後。
肌色の肩にそっと手を置いて言う。
「イヌ丸、服を着ろ」
拘束を解き、ロリータファッションドレスを脱ぎ捨て、生まれたままの姿になっているイヌ丸に対して言い放つ。
例えどの様な状況であろうとも、衣服を着ていれば脱ぐ、痴女の鑑であった。




