〔8〕涼風そよりと学園の謎
ある日、先生が急に出張になり自習になりました。私とユキとカスミは、いつも通り集まってなんでもない話をしていました。いつもは図書室で勉強する涼風そよりさんが、珍しく教室で読書をしていたので、話を聞いてみることにしました。
「そよりさん、ちょっとお話してもいいかな?」ユキが誘いました。
「あら? いつもは三人で集まっているのに、私を誘うなんて珍しいわね。何?」
「そよりさんに聞きたいことがあるの」私は、思い切って話しました。
「話せることなら、お答えしますよ」笑顔で答えてくれました。唇がつややかでした。
「私たち三人は、小学生の時の記憶が曖昧なんだよね。『そよりさんも同じかな~?』って気になったの」
そよりさんは、ふふっと笑って言いました。
「知らなくてもいいこともあるわよ」と、前置きしてから話してくれました。
「ここの学園は、特別な場所なの。中学から入学出来るのは、小学生の時に『入学選抜試験』に合格できた人だけなの。アナタたちは、小学生の頃に試験に合格できたから中学からここに通えることが決まったのよ」
「そんな、試験を受けた覚えはないわ」と、ユキが言いました。
「覚えていないかもしれないわね。小学一年生からここにいるのは、私とここあちゃんだけです。あとは、みなさん脱落しました。時々転校してきても、ドンドン脱落していくの」
「『脱落』ってな~に?」カスミが聞きました。そよりさんは、ニッコリ微笑んで、
「元の世界に戻るだけです。ここの学園の記憶は、一切なくなります」と言いました。
「? 元の世界?」ユキが言いました。
「そうです。元の世界よ。元の世界のアナタたちは、今も普通に公立の中学校に通っているの。言わばここは、『仮想世界』のようなものなの」
「? 仮想世界?」カスミは疑問に包まれました。
「アナタたちは、ここの世界と現実世界を同時に生きているの。ですから、記憶が曖昧なのは仕方がないことなの。これからの選択次第で、どちらの世界で生きるべきか決まるでしょう」
「これからの選択次第?」私が言いました。
「小学生の頃、外人の女の子がいたのを覚えているかしら?」
「あ~、フェリシアって子がいました」私が答えました。
「いたの? そんな子?」ユキが言いました。
「覚えていない」カスミが言いました。
「そ~よね。覚えていないわよね。性格がきついから、男子の誰からも気にされなくなったので脱落しました。今は、故郷のシロアチアに帰っていると思うわ」
「その子は今、何をしてるの?」カスミが聞きました。
「何をしているかは知らないけど。ここの学園にいた記憶は無くなっていると思うわ」
「ふ~ん」ユキが言いました。
「『脱落』とか、『選抜試験』って言うけど、ここの学園の目的って何なの?」私は聞きました。
「『触れ合いドーブツデー』って定期的にあるけど、校長先生が時々言うように、結婚相手を見つけるのが目的かな? 多分よ、絶対ではないわ」
「見つからなかったらどうなるの?」
「もちろん、結婚しない選択もあります。それは私たちの自由なのです。だけど、校長先生が言っていたように、ここに選ばれてくる男子たちは、将来有望なことは確からしいの。『私たちの育て方次第』ってところかしら? 頑張って相性の良い相手に育てるのも、元の世界に戻るのも自由なのよ」
「私たちが相手を育てるの?」ユキが聞きました。
「自分が育てられるかもしれないわね。相手に要求するばかりじゃなく、自分たちもそれなりに努力しなきゃ!」
「ふ~ん」カスミは理解できていない様子でした。
「先日暴れていた『ミイラ男』さんを覚えているかしら?」
「あ~!」三人とも、思い出しました。
「世田谷区に住んでいる、高級官僚の息子さんだったそうです」
「え~! だから何なのよ~。官僚の息子だって関係ないわよ~」ユキが言いました。
「校長先生がねじ込んだらしいわ。脱落したけど」
「脱落したの?」私は聞きました。
「そうね。女子が全員一致で興味を無くしたら脱落になります。もうここには来ないでしょう」
「それを聞いて安心したわ」私は、安心しました。
「だけどドラキュラは、また来るわよ、きっと」
「え~!」ユキが嫌な顔をしました。
「モデル系になるか、ホスト系になるか、これからの私たちの育て方次第よ」
「私は、遠慮するわ~」ユキが言いました。
「そよりさんは、男子たち全員を知っているの?」私は質問しました。
「知らないわよ。未来が分かっていたら、面白くないもん」と言って、微笑みました。
「(あ~、やっぱりこの人は、私たちのリーダーだ)」と私は思いました。
「『選抜試験』ってな~に?」カスミが聞きました。
「カスミちゃんが、一番いい点だったわよ。覚えてない?」
「おぼえてな~い」爛漫に笑いながら答えました。
「昆虫が、目の前でドーブツに変わったでしょ? あれよ」私たちは、小学生の頃を思い出しました。




