〔6〕脱落したスケベ怪物
その日は、朝から校長先生が教室にやって来ました。ベレー帽を被って、エジプトの民族衣装のガラベーヤを着ていました。足元は、何故かエナメルの靴でした。
「さてみなさん、今日は『触れ愛ドーブツデー』です」
「え? あれからひと月すぎましたっけ?」ユキが言いました。
「美雪さん、良い質問です」
「(そらぁ、質問するでしょう)」ユキは、心の中で言いました。
「今日のドーブツさんたちは、非常に情緒不安定になっています。しごき過ぎました。鍛え過ぎました。厳しくあたり過ぎました。ですからドーブツさんたちは、みなさんと遊んで元に戻らなければいけません」
「元に戻る?」全員がこの一言に食いつきました。
「みなさんは、それぞれ、どのドーブツさんと遊んでいたか覚えていますか? はい、美雪さん」と、ユキを指名しました。
「私はいつも、白黒のブチ猫と遊んでいました」
「はい、きよ美さん」続けて私を指名しました。
「私はいつも、ハリネズミさんと遊んでいました」
「はい、カスミさん」続けてカスミを指名しました。
「あは~、やぎさんと遊んでいました」
「はい、そよりさん」続けてそよりさんを指名しました。
「私は、ゴールデンレトリバーと遊んでいました」
「はい、ここあさん」続けてここあちゃんを指名しました。
「わたしは、その他のドーブツさんたちと遊んでいました」
「はい、その通りです。みなさんは、いつもどのドーブツさんと遊ぶか決まっています。ですが、それではいけません。時には、違うドーブツさんと遊んでみるのです。これも一つの経験です。姿が同じならば同じ人、姿が変われば違う人なのです」いつも、『世間の危険さ』しか話さない校長先生が、いつもとは異なる一面を見せていました。
「こころが同じならば同じ人、こころが変われば違う人なのですか?」と、そよりさんが質問しました。
「そよりさん、良い質問です」と、校長先生が言いました。
「態度が良ければ同じ人、態度が悪いと違う人とも言えます」もう訳が分からなくなりました。
「見てくれ良ければイケメンで、見てくれ悪けりゃブサメンだ、
女性にマメならモテるのよ、アレコレ欲しがる欲張りや、
優柔不断はダメですよ、しっかり決断しておくれ・・・」話を聞いていて、みんなウンザリしてきました。
「そよりさん、ダメよ~。校長先生は喋り負けしたくない性格なんだから~」とユキが言いました。
「そうなの~? しくじったわ~」そよりさんは、反省していました。
「トンカツ乗ってりゃカツ丼で、
テンプラ乗ってりゃ天丼だ
卵で包めばオムライス
近ごろ食べておりません!
うお~! 盛り上がって来たぜ~!
・・・
・・・」
「みなさん、そろそろお時間です。ドーブツさんたちと触れ合いましょう。ここは、私に任せてください」と、松柳先生が促してくれたので、みんな助かりました。
「校長先生は、そばに誰かいればいいのです」と言って、校長先生を体育館のステージ上に誘導し始めました。私たちもその後をついて行きました。
体育館に行くと、中央にブルーシートで覆われた巨大な檻が準備されていました。ステージ上には、日傘がさしてあり四畳半ほどの茶室セットが組まれていました。校長先生がそこに座ると、着物を着た女性がお茶をたてはじめました。お茶の準備ができると、三味線を弾き始めました。校長先生は、ゆったりとお茶を楽しみ始めました。
「(何をしているんだろう・・・?)」私たちは、校長先生の謎の行動が理解できませんでした。
松柳先生は、巨大な檻の前に立ちブルーシートを取りました。
檻の中にいたのは、ミイラ男、パンダコアラ、ペガサス、ケンタウロス、ドラキュラ、一反木綿、ぬりかべでした。
「! 何これ?」そよりさんは驚いていました。
「! え? 怪物なの? ドーブツじゃないの?」ユキも驚いていました。
「! え? どーするの?」私は、混乱していました。
「・・・」ここあちゃんは何も言いませんでした。
「あは~」カスミは状況を理解していませんでした。担任の先生は、例によって、体育館の端っこで携帯電話をいじりながら動画を見始めました。
ジリジリと、ミイラ男がにじり寄って来ました。包帯のすき間から片目だけ見えましたが、網目状に充血していました。白目は黄色でした。右手の包帯がほどけており、左足の包帯を引きずっていました。
「うへへ、うひひ、ぐへー」と言いながら、そよりさんのスカートのすそを引っ張りました。
「や゛め゛て゛よ゛―!」とそよりさんが強めに言うと、ミイラ男は逃げていき、檻の中をドタドタ走り回った後にユキにも同じことをしていましたが、ビンタをされてひるんでいました。ミイラ男はそのまま、私のところにジリジリと近づいてきました。
「ガバッ」と私に飛びつき抱きついてきました。
「! (気持ち悪い! やめてー!)」虫唾が走りました。すると、ここあちゃんが近づいて来て、ミイラ男の肩を触りました。
「ダ・メ・よ!」無表情ですが、怖い顔をしていました。たちまちミイラ男は、ダンゴムシに変わりました。
『がばぺと!』
「残念ながら、この子は脱落ね・・・」ここあちゃんは何故か、淋しそうな表情をしていました。
【坂端潔彦】『幼少期から優秀で、最終的に財務省事務次官まで出世を果たす。後に、とある資産家の令嬢と結婚するが、DVと浮気をくり返し離婚。結果として、生涯年収は参加者の中で一番高かった』と言う人生を歩む運命かも知れない。
「(何を脱落したんだろう・・・? それは、ここあちゃんが決めたのだろうか・・・?)」私はずっと疑問に包まれたままでした。




