【序章】
私たちが通っているのは、私立『夢見が丘・希望の星・自ゆう愛学園』
幼稚園から大学まで通える、都内の一等地にあるお嬢様学校なのです。ごく普通の家庭で育った私が、なぜここに通えているのか分かりません。
中1の夏休み明けの集会で、体育館に全校生徒が集められました。全校生徒と言っても、うちの学校には、女子ばかり七人だけしかいません。集会前に先生たちが並べたパイプ椅子に座りながら、校長先生の長い話を聞いていました。前列に四つ、1mほど間を開けて後列に三つのパイプ椅子が並んでいます。私は後列の真ん中に座っていました。左に座っている少し背の高いのがユキで、右に座っている少し背の低いのがカスミです。ともに吹奏楽部のメンバーです。
【琴葉きよ美】通称キヨ。好きな色は緑。ショートボブで眼鏡をかけている。絵画と動物を愛する平和な性格。細かいことにはこだわらない。
【桜美雪】通称ユキ。好きな色はピンク。私よりも身長が少し高い。肩まで伸びたストレートヘアーが特徴的で人当たりが良い。そのため面倒な仕事をよく頼まれる。
【霧谷霞】通称カスミ。好きな色は白。ツインテールで私よりも身長が低い。幼く見えるため、三人の中では妹的な存在。性格は天然で、喜怒哀楽がハッキリしている。
「・・・ですから、世界は危ないところがまだ多いのです。日本でも危険なことが先日ありました。新聞やテレビで騒がれているような、危険な事件でした。ですからみなさんも、外を歩くときは、気をつけてください・・・」
「校長先生の話、相変わらず具体的じゃないね」左に座っているユキが言いました。
「いつも同じ話ばかりだしね~」私は言いました。
「あは~」カスミはいつもご機嫌でした。
「外を歩くなって、うちの学校は、校外に外出禁止じゃん。都内にあるのに全寮制だし」ユキが言いました。
「そうだね~。変だよね~」私は言いました。
「なんで、校長先生はあんな格好をしているんだろう・・・」カスミが疑問に思いました。
「さぁ?」私には分かりませんでした。
「夏休み期間中に、校長会で旅行しまくっていたらしいよ」ユキが答えました。
「頭にかぶっているのは、何? 帽子かな? マゲのないお侍さんみたいな頭が嫌なのかな?」カスミが疑問に思いました。
「さぁ?」私には分かりませんでした。
「アラビアの衣装なんだって。クーフィーヤって言っていたわ・・・」ユキが答えました。
「この暑いのに、毛皮を着ていない? 上半身だけモコモコしているね」カスミが疑問に思いました。
「何だろね?」私には分かりませんでした。
「イヌイットが着るアノラットなんだって。世界一の防寒着だそうよ・・・」ユキが答えました。
「毛皮を脱げばいいのにね。よっぽど暑いんだろうね。下は腰巻じゃない? スカートかな?」カスミが疑問に思いました。
「あれ、何だろね?」私には分かりませんでした。
「マオリの民族衣装のピウピウよ」ユキが答えました。
「校長先生は、あちこち旅行したんだねぇ」カスミが感心しました。
「したんだね~」私は答えました。
「どこに旅行したか、聞かれたいのよ。質問されまくって飽きるまで逃がさないのよ。いい迷惑だわ・・・」ユキが説明しました。
「もしかして、聞いてみたの?」カスミが質問しました。
「しくじったわ・・・。三十分も捕まったわよ・・・」ユキは思い出してげんなりしていました。
【回想シーン】
ユキが職員室の前を通りかかったときなんだけど、にゅばっと、校長先生が現れたの。
てててて~と近づいて来て、ものすごい勢いで話し始められたのよ。
もう、逃げられないわよね。
「これは、これは、美雪さん。おはようございます」
「おはようございます・・・」と私は、仕方なく話をする覚悟を決めたわけよ。
「あいかわらず、可愛らしい。さすが我が学園の生徒です」
「ありがとうございます・・・」と言うしかないでしょ?
「・・・」校長は、突っ込まずにはいれない服装をしていたんだけど、自分からは何も話し始めないわけよ。
たぶんその沈黙は、服装に触れてくれという合図だと思ったから、仕方なく服装の話を始めたわけよ。
「あら? 校長先生。素敵なお帽子ですね」この一言がマズかったわ。校長先生が食いついたの。
「そ~なんです! 分かりますか~? 流石ですね~。これはアラビアのクーフィーヤなんですよ~」顔に似つかわしくないまつ毛がピクピクしていたの。
「白地なのに、ピンクのハートが素敵です」
「特注で作らせました~。ここに気付くなんてさすがですね~」
「個性的で素敵です~」と、笑顔を引きつらせながら誉めはしたけどね~。校長のグイグイ突っ込んでくる性格は、やっぱり苦手だわ~。
「ターバンは布が固まっているのに対して、クーフィーヤは布が固まっていません。ですから首筋まで日差しから守ることが出来ます。もっとも、日本の日差しはそれほど強くはありませんが・・・」
「(なら、そんなもん被んなっつ~の)」と、心の中で思っていたけど言えないわよね。
「勉強になります・・・」と、一応は答えたの。だけど校長は、目をぱちぱちさせながら、会話の続きを欲しがっていたの。だから仕方なく、
「今日はとても暑いですね~。毛皮は暑くないですか?」と聞いたら、校長は得意気に言ったの。
「んっふ~、良い質問です。これはイヌイットが着るアノラットなのです。世界一の防寒着なのです。この暑い日に敢えて防寒着を着る! 暑さに堪えて涼しい顔をしている私は凄いのです! これぞ、まさしく英国紳士の伊達気風なのです!」
「(あっちゃ~。本気で言っているのかしら? あなたは純粋な日本人じゃないですか~)」と思いながらも、
「校長先生の振舞い方は、現代人の鑑です。みんなも真似するべきです」と付け加えたの。分かるでしょ? だけど会話は終わらなかったの。目をぱちぱちさせているから仕方なく言ったの。
「下はスカートなのですか? アボリジニの衣装でしたっけ?」
「んっふ~、違います。これはマオリの民族衣装のピウピウです。アボリジニはオーストラリアの先住民ですが、マオリはニュージーランドの先住民なのです」
「勉強になります・・・」って、たじたじしながら会話を続けたの。
「都会のど真ん中で、こんな格好をしているのは私だけです!」
「(そら~、そうでしょう)」
「非日常的経験! 大都会の中での開放感! 他人とは異なる圧倒的かつ、個性的な生き方の追求~~~! この学園の中だからこそできる素晴らしい体験です。存分に楽しみましょう!」と言って、スッキリした、にこやかな顔つきになったのよ。そして思い出したように時計を見て、ワザとらしく慌てるの。
「あ! こんな時間です! 行かなければ! それでは、全校集会で会いましょう!」と言って、校長はスキップしながら行ってしまったの。あれだけ個性的な服装をしているのに、時計は3,000円ほどの安物なのよね~。
「(ありゃ~、大丈夫かしら? この学園・・・)」と、少し自分の将来が不安になった自分がいたわ。
「・・・という訳よ」
「大変だったね~」わたしはねぎらいました。
広い広い体育館は、バレーボールのコートが8面もとれるほどの広さでした。その体育館の真ん中に私たちは固まって座っていました。生徒よりもずっと多い数の先生たちは、体育館の壁に沿って立って校長先生の話を聞いています。だから私語をしていても、今まで注意されたことはありませんでした。それでも集会では毎回、一応静かに話が終わるのを聞いていました。
セミが、みんみん鳴いていました。
風は、すこしだけ優しく吹いてくれました。
体育館の中は、ごあいさつ程度の冷房が効いていました。
だから、汗が滴り落ちるほど気温が鬱陶しくはありませんでした。
ですが、過ごしやすく感じるほど快適でもありませんでした。
「(エアコンを動かしているんだから、窓を閉めて欲しいな~)」校長先生は、街なかの危険性を強調する話をしていました。
「(そう言えば、私は、今年の夏休みに、何をしたっけ・・・?)」と考えているうちに、頭がボ~ッとしてきました。この感じは、小学1年生だった頃の夏休み明けの全校集会の感じと似ていました。だから私は、その時のことを思い出していました。
【回想シーン】
「・・・ですから、外の世界は危ないので、決して学校の外には出ないで下さい」
「(あれ? 校長先生は、また同じ話をしているの?)」私は、校長先生の話を聞き流しながら妄想していました。
「は~いい!!」
「(そよりさん、かわいい~)」
「わ~!」
「(ここあちゃんは、相変わらず素直ね~。か~わいい)」
「あは~」
「(カスミは、相変わらず同じ反応だ。かわいいね~)」一人ひとりの昔の面影をみていると、突然、みんなの歓声がわき上がりました。
「やった~!」ユキが大喜びしていました。
「ええぇ~! 今から~?」ここあちゃんは、戸惑っていました。
「だれだろう~」私は、となりで喜んでいるユキに聞きました。
「ユキちゃん、ど~したの?」ユキはニコやかに答えました。
「校長先生の話を聞いていなかったの? 今から、私たちみんなに結婚相手を紹介するんだって!」
「! え? 何言ってるの?」私は、驚きながら喜びました。




