第3話 世界を喰らい
「二人とも動け」
僕が動けと命じると、噛みついたドラゴンと小柄な男が動き出した。
僕が心の中で真っ直ぐ動けと命じると、2体は真っ直ぐと動き、右手を挙げろと命じると右手を挙げた。
やはり動かせる。思い通りに動かせるんだ。
「この能力はつまり……」
噛み付いた者をゾンビ化させて、その力を手に入れられる。
その者を自由にコントロール出来る。
もし本当なら──
「貴様!俺の仲間に何をした!」
筋肉質の男が剛腕を振り翳して殴り掛かってきた。
咄嗟に僕を守れとゾンビ達に命じた。
二体のゾンビはすぐに動き、僕の前に立ち塞がって防御壁となって男の攻撃を受け切った。
「くっ!自由に動かせると言うのか!」
「やはり自由に動かせるんだ!思い通りに!!」
「仲間をよくも!!」
そうか、この力はこんな訳のわからない世界を生き残らせてくれる神の贈り物なのか?
とにかくわかる事は一つ。
凄いパワーを授かったんだ。
無敵で能力をコピー出来て、自由に人を操れる力。
全てが最強だ。全てが最高潮の力なんだ。
これが本当に僕なのか。
冴えない、モテない、強くない僕が持っていい力なのか!?
「ふん!」
僕がこのパワーに見惚れていると、勇者が剣を振い、ドラゴンと小柄の男のゾンビを真っ二つにした。
「仲間を真っ二つにするなんて……」
「仲間だからこそ出来る。盃を交わした時からの約束だった。もしもの時はその命をお前に任せると。奴から託されていた!」
約束か。
僕も獅子野さんに約束したよな。
ずっと守るって……獅子野さんもずっと一緒だよって。
「本当に危険になった時、裏切るかもしれないのによくそんな綺麗事を言えるね」
「綺麗事か……そう聞こえるのも無理はない。綺麗事を守れる生き物そのものが少ない。薄くも深い意味なんだよ約束なんて」
僕だって約束したんだ。守るってそしてずっと一緒だよって。なのに、アイツは裏切った。
僕がをその抱きしめたい手で突き飛ばしたんだ。
信頼なんて、約束なんて無価値だ!
「だから、そんな言葉は嫌いなんだよ。綺麗な言葉なんて!」
そう。あの女を思い出すとむしゃくしゃが止まらない。
そしてそんな綺麗事を言うコイツらが腹が立つ。
「君達も分かるさ。絶望した人間の闇を」
「だったら俺はその闇を切り裂く!!」
やはり、僕にはコイツの考えは合わない!
僕は力を発動した。
すると真っ二つになった二体はまたも立ち上がり、僕自身もドラゴンの姿に変身した。
「みんな!力を倒すぞ!」
「「おう!!」」
勇者の一声で二人は動き出した。
魔法使いが魔法の力でゾンビ達の動きを封じ、勇者が剣に太陽の光を当ててビームソードのように光輝かせた。
「喰らえ!!聖剣の一撃!!」
光の剣で斬られたゾンビ達は斬られた部分から消失した。
その衝撃波を僕は咄嗟に避けた。
右手に炎の力を宿らせて勇者達の前に火球を投げて爆発させた。
「煙か!」
煙の中にいる勇者目掛けて僕は神速で突撃した。
「危ない!!」
「!?」
勇者に噛みつこうとした瞬間、筋肉が勇者を押し除けて自分が代わりに噛まれてた。
まあいい。これでコイツの力を──なっ!
「勇者!!俺ごと斬れ!!俺はもうじき感染する!!」
「くっ!!すまぬ!!」
筋肉は持てる全ての力を使って僕の身体をギュッと掴み、身動きを取らないように地面に叩きつけた。
「離せ!!」
「行けぇぇぇ!!」
奴が地面に僕を押さえつけている間に勇者は再び剣に光を当てて、エネルギーを貯め始めた。
更に魔法使いも涙目を浮かべながら杖を剣に向け、そのエネルギーを送り出した。
「お前の命、俺らが受け継ぐ!!コイツを野放しにはさせない!!喰らえ!!魔導聖剣の超撃!!はぁぁぁ!!」
「や、やばっ!!」
逃げようとした。だが、筋肉の野郎が死に物狂いで僕を押さえつけていた。
自分が死ぬって時なのに!!何で!!
勇者の剣が振り下ろされて、剣から光のレーザーが僕目掛けて飛んできた。
「ぼ、僕は死──」
光が直撃し、草原一帯が大爆発を起こした。
跡形もなく消え去り、筋肉もろとも姿はなかった。
勇者は自分の手を胸に当てて目を瞑った。
「お前の死を無駄にはしない。新たな脅威がここに去った」
「ですが、あれは何だったんでしょうか。あの能力は……」
「分からない。この世界に訪れる新たな脅威やもしれん。神様の元に聞きに行くぞ。他次元からの侵略もありうる」
「はい」
二人は神の元へと向かって歩み始めた。
だが──
僕は生きていた。
飛び散った肉片が一つ一つ引っ付き合い、小さな肉塊へとなった。
そして肉塊は徐々に膨れ上がっていき、両足、腰、両腕、顔。と消えた身体を生成していき、元の僕へと戻っていった。
「神だって?この世界の?」
もしかして、その神に合えば元の世界に戻れる方法が解るやもしれん。
神様に会えば戻れるかもしれない。
安直だが、今の僕に出来る事はそれが限界なのかもしれない。
「……」
だが、僕の心の中にはモヤモヤが残っていた。
あの勇者の言葉一つ一つだ。
仲間だの、約束だの、信頼だの。
裏切られた事が無いからあんな言葉が言えるんだ。
僕は他人をもう信用したくない。
もうこれ以上裏切られたくないんだもん。
それに仲間もここでいっぱい作れる。
僕だけに従え、僕の思い通りに動いてくれる仲間を……
*
それから半年後──
この世界の殆どがゾンビによって崩壊して行った。
あらゆる生命は僕の元にゾンビと化した。より僕の意思の元に細かく動かせるようになった。
それに様々な能力も手に入れた。身体をメタル化する事も、瞬間移動も、飛行能力も分身能力もあらゆる力を我が手にした。
次第にいがみ合っていた人間達は互いに手を取り合って、僕を倒しに大軍を進軍させた。
それでも僕は勝利した。この力を前に結束や信頼なんて意味をなさない。
魔法使いや剣士など人間。それに龍の一族も、天使も、悪魔も、全てをねじ伏せ、全てを掌握した。
いわば最強の軍隊だ。
もうそろそろ頃合いだ。
僕は吸収した天使の力を使い、神がいる天の城へと移動をした。




