第2話 肉喰らい
僕は重くフラフラする足で立ち上がった。
重い足取りで、その匂いへと向かった。
ゾンビになった影響なのか、ぎこちない。
でも、血の匂いが僕の心に何かを刺激させる。
そして数分後。その臭いの正体が分かった。
「ど、動物……じゃない?」
それは動物。ではなく漫画やアニメに出てくるドラゴンの死骸であった。
「やはりここは天国、でも無さそうだ。じゃあ何処だ」
と考えたいところ。だが、心は目の前のドラゴンに興味を示していた。
ハエが少し集っているだけ。
死んだ間もないドラゴンなのだろう。
牛サイズの大きなドラゴンは、体の肉が抉れておいた。更には骨が丸見えであり、グロテスク。
だが、僕のお腹がゴロゴロと鳴った。つまりは腹減り状態である。
何故ドラゴン?がこんな所に。と言う考えは頭の中に浮かばなかった。
それよりも腹が減って仕方ない。
こんなの気持ち悪い。なのに身体はまるで高級ステーキを目の前にしているようだった。
涎をだらし、顔を近づけた。
「いただきます!」
そ思いっきりかぶり付いた。肉を引きちぎり、しっかりと噛んだ。
牛すじ?のような硬さ。いや、親鳥くらいか?
少し硬めの肉だが美味。
「う、美味い!」
生の死肉なのに美味い。
今まで食ったことのない美味い肉だ!
まだまだ腹が減っている。僕はどんどん食べ漁り続けた。
「ふぅ、腹いっぱいだぁ」
無我夢中で食べてしまった。
身体が冷たかったのに一気に暖かくなった。
腹も膨れたし、これからどうするかと顔を上げると。
「貴様!ドラゴンを食べたのか!?」
僕を囲むようにハロウィン仮装かと思う奴らが囲んでいた。
西洋の鎧の男。ローブを着た魔女。上半身裸のマッチョなパワー系の男。軽装で小柄で中性的な顔をした男。
計四人組のパーティがいた。
「くっ!ゾンビめ!」
「ちょっ!ちょっとま──」
リーダーらしき鎧を着た男がいきなり剣を抜いた。
話を聞く耳を持たない男に僕は抵抗すら暇もなかった。男に斬りかかられ、首に横に一振り。
僕の首に赤く小さな筋が刻まれた。ゆっくりと赤黒い血が流れ落ちた。
首が斬られた木のようにゆっくり、地面に落ちて転がった。
「ゾンビめ。人の討伐対象を捕食しよって」
魔女がドラゴンの肉を調べた。
「半分近く喰われてますが、運びますか?」
「そうするか、まぁ。報酬はもらえるからよしとするか。一応は討伐完了だな」
その時、全員が唖然とした。
筋肉質の男が冷や汗をかいて叫んだ。
「お、おい!ドラゴンが!」
僕が捕食したドラゴンは首がない状態なのに、生きているように、立ち上がった。
「蘇ってやがる!」
「リーダー!あれを!」
小柄な男も別の方向に指を差した。
僕の首の血管より触手が伸びて、落ちた頭に巻きついた。
そして触手は首に戻って行き、頭と首が合体し、意識も戻った。
僕の意思ではない。身体が勝手に生存を選んだのだ。
「再生能力持ち……」
次に魔法使いが前に出た。
杖を僕に突きつけると、杖の先端からビームが放たれた。
ビームが僕の眼前に迫った時、無数に枝分かれを起こした。右左上下背後。全ての方位にビームは拡散して、僕の身体を全て貫通した。
「が、ががが……」
原型をギリギリ保っている僕。
だが、今度は筋肉質の男が巨大な岩を両手で抱えるように持ち上げた。
「うおぉぉらぁ!」
岩を思いっきり僕に向けて投げ飛ばし、僕は呆気なく押しつぶされた。
「これで再生してももう戻ってはこれまい」
「人の話を聞いてくれよ。少しは」
潰された僕だったが、苛立ちを感じた。
自分でも驚くほどのパワーで少しずつ岩を持ち上げ始めた。
片手で持ち上げて勇者達に投げ返した。
勇者は剣を抜き、岩を綺麗に真っ二つへと切り落とされた。
「ちっ、これは再生能力じゃない。不死身の能力とでも言うべきか」
「こんなの初めて見たわよ。こんなの」
「あぁ、過去にいくつもゾンビと戦ったが、これは異例の異例だ」
身体が闘いを欲しているのか?僕の身体がどんどんパワーが膨れ上がっている気がする。
四人が目を疑った光景で僕を見つめていた。
「だが、今始末しないとこの世界の危機となろう!」
「本当はここで使いたくなかったが、炎の刻印を発動する!!」
小柄な男が身体に力を込め始めた。すると手の甲に炎の文字を浮かび上がった。
炎が身体を包み込み、男は灼熱の炎を身に纏った。
「喰らえ!!」
両手を突き出した。手から炎の渦が放たれた。
何が起きたのか分からなかった。僕は炎に飲み込まれて、のたうちまわった。
「あ、熱い!!」
熱い、熱い!でも、何故だが死ぬほどは熱くない!
僕は足に力を入れた。すると、足がバネのようにビヨンと跳ねた。
それは自分でも驚くほどに空高く飛び上がっていた。
何故、こんなジャンプ力があるんだ?
そう思って体を確かめた。すると僕は先程食ったドラゴンと同じ姿になっていた。
翼も生えた。何も考えずとも羽ばたいている。
それに焼かれた肌はもう完治している。
僕の姿に勇者一行は驚きを隠せていなかった。
「な、なんだコイツは!?ドラゴンに変身しただと!?」
「スキルを発動する!サーチ!」
勇者のスキル。敵の力を可視化する能力"サーチ"。
魔女のパワーは300。刻印戦士は1700。筋肉質の男が2000。そして勇者自身が3000。
そして僕の計測をした。
「パワー10100……あのドラゴンのパワー10000を吸収していやがる!」
「くっ!厄介なのが産まれやがった!」
吸収?やはり、僕はドラゴンの力を手に入れたのか?
どうやって?あのドラゴンを食べたからなのか?
それよりも、彼らからも良い肉の匂いがする。
まだ、身体が欲しているのか。満たされていないのか?
無意識に僕の脳は彼らを食す事を選んでいた。
「食う!」
僕は猛スピードで勇者一行目掛けて突撃した。
全員戦闘体制に入る。だが、龍のスピードは予想以上だ。
鳥の眼はめちゃくちゃ凄いとは聞いた事あるが、その気持ちがよく分かる!
スピードと目の反応速度が人間とは違う。
人の表情が変わるのがゆっくりと伝わってくる。
敵の動きもどう動くのかもハッキリこの目で目視できる!
「来るぞー!」
彼らが構える前に僕は炎の刻印とやらを使って来た男に噛みついた。
そのままの勢いのままに木へと叩きつけた。
「ぐわぁぁぁ!!」
小柄な男は必死に僕に殴り続けるが僕は噛み続けた。
すると筋肉質の男がタックルを喰らわせ、僕は弾け飛んだ。
「大丈夫か!」
「あ、がが……」
仲間達が小柄な男に寄る。
男は口から泡を拭いて白を剥いており、意識が朦朧としていた。
「この野郎!俺の仲間を!」
「リーダー!あれは……」
全員が再び驚いていた。
そうか、なるほど。理解したよ。
なるほど、僕の能力……何故ドラゴンになれたか。
「な、何故お前が。炎の刻印の力を持っているんだ!」
「パワーも上昇を!!」
僕の手の甲には炎の文字が宿っていた。全身が赤く燃え上がって、パワーが膨れ上がる。
焼けた皮膚も再生しており、完全に元通りだ。
僕は不死身の能力。そして噛み付いた者の力を得る力が備わったんだ。
自分の作品をご覧いただきありがとうございます。
是非とも最新話まで読んでもらうとありがたいです。
面白ければ、評価やブックマーク。感想などを書いてもらうと思ありがたいです!




