第16話 実戦訓練
「ここが実戦訓練場だ」
清政に案内された実戦訓練場。
部屋の大きさは体育館片面コートぐらいのサイズかな。
何も置いていない。真っ白で密閉された空間であった。
「広いっちゃあ広いけど、実戦訓練にはちと狭いんじゃないかな?」
「ところがどっこい。ここが密閉なのはマルチ・エリア・システム。通称”M.E.S”によってこの部屋、様々な状況下の疑似空間を作り出せる。こんな感じで」
清政は腕、腕時計のような物を装着させ、画面より浮かび上がったモニターを操作する。
すると真っ白な部屋が、いきなり東京のスクランブル交差点のど真ん中に移動した。
「東京!?それに人もいっぱい!!」
交差点を人が行き交い、車もバスも飛行機も動いている。
お店もやっている……活気づいている。感染が起こる前のように。
あの時の光景が浮かび上がり、僕は東京の街に見惚れてしまった。
「凄い!こんな事が出来るの!?」
「所詮は疑似空間だけどな」
歩いている人が僕の前を通ると、僕の身体をすり抜けてしまう。
「あっ……」
「リアルに見えてもあくまで人間はホログラムで投影された虚像だ。だがこのフィールドはちと違う」
清政は後ろに飛んだ。
だが、不思議な事に訓練場の範囲を超えた距離を飛んで着地した。
「広くなった!?」
「これがMESの凄さ。疑似空間は一定の範囲内じゃない。その世界そのものの作り出して、そこに転送されているんだ」
「そんな事ができるなんて……まじで未来じゃん」
「未来からの技術者もいるから出来る事だ」
疑似空間。ゲームでも味わった事がないぞ。
こんな臨場感あふれる空間なんて。
すると、上空からアレックスの声が聞こえてきた。
『一通り説明し終えたかい?』
「理解が早くて、文句も無し! 若い奴は見込みがいいねぇ」
『君も僕も若いでしょうに』
「へへ、それもそうだな」
清政が空に手を振り、返事をする。
ボタンを操作して元の真っ白な空間に戻した。
すると、二人とも離れた距離から元の位置に強制的に戻された。
本当に凄い機能だ。これが現実にあれば、新たなゲームが作れそうな技術だと、変な目線で見てしまう。
『準備は良いかい!実戦訓練を開始するよ!今新しいデータを取り込んだから、そのフィールドで戦ってもらうよ』
「よっしゃ来い!!」
『フィールド転送開始!!』
アレックスにより次なるフィールドが転送された。
そのフィールドは、僕が過ごした崩壊した東京であった。
「ここは……僕がいた東──」
「オラァ!!」
僕が空を見上げていると、突然清政に殴り飛ばされてビルに叩きつけられた。
「先手必勝!!」
「いきなり……過ぎる」
「卑怯とは言わせない。敵は待ってくれないからな」
「それは、そうだけさ……」
「お前も遠慮せずに来い!俺は負けないから」
自信満々に言う清政に遠慮はいらない。
今の攻撃もなかなかの一撃。体に染み渡るダメージ。
彼もこのユナイテッドのメンバーと言うなら強さに自慢があるはすだ!
「分かったよ。全力で行かせてもらうよ!」
僕は炎の刻印の力を発動し、身体に炎を纏った。
「やっぱりそれくらいじゃないと楽しめねぇよな!」
「行くぞ!」
猛スピードで清政へと接近、清政が拳を構えた。
二人の距離が1メートルに差し掛かった時、僕は魔法使いの能力を使用して、四人に分身した。
四人に分かれた僕は全方位から一斉同時に攻撃を仕掛け──
「はっ!?」
囲んだはずなのに目の前から清政の姿がない。
何処だ!?
僕は慌てて辺りを見渡したがいない。
まさか後ろに?
本体の僕が振り向いた瞬間に背後から拳が飛んできた。
僕の顔面を真っ直ぐと捉えて、地面に殴りつかられた。
「ぐはっ!」
「初歩的なんだよ!」
清政は僕の身体を思いっきり蹴り上げ、再びビルに叩き付けられた。それと同時に分身達も消滅した。
確実に攻撃する瞬間まで目の前にいたはずなのに。なのに、何故消えたんだ。
何かワープ的な能力なのか?
「どうして?って顔をしてるから答えるが、シンプル。早く移動しただけだぜ」
「早く移動してあんなの!?」
「出来るんだよ。強い奴は」
「くっ!」
信じられない。あの異世界で僕は強かった。
いろんな攻撃を避けてきたし、見切っていた。
なのに、こんなヤンキーみたいな清政の動きを読めないなんて。
まだ僕は信じられなかった。
速度なら僕だって。
僕は炎の刻印を発動したまま、ワープした。
もちろん、清政の背後に!
「これな──」
僕が現れた瞬間に、後ろを振り向こうとする清政と目があった。
ニヤリと笑った清政。まるで僕が後ろから現れるのを分かっているように。
振り向き様に顔面に裏拳をかまされた。怯んだ僕に清政は腕を振りかぶって腹部を突かれた。
「がはっ!!」
斬られても痛くないのに、何だこの痛みは……
ただの拳なのに。
「そらっ!!」
再び大きく腕を振るって僕は顔面から殴り飛ばされた。
車に激突。その衝撃で車は爆発を起こした。
「能力が強いのは正解だ。不死身に刻印にワープと。だが、それだけじゃあ勝てない」
それだけじゃダメなのかよ。
「じゃあ!何が足りないんだ!もっと強い力か!」
「それはお前自身が能力の強さと比例して弱い事だ」
「僕自身が?」
「そうさ。お前はその強さに頼り切っているんだ!」




