【外伝集:わたしの外伝あつめ:ユアママ編のダイジェスト】
ラウマとユアが買い出しにいったので、今日はアミュアとノアの二人だった。
ーーーねーねーアミュア。あれみたいよ!つけて。
ーーもう、自分で使い方覚えてくださいねノア。
ーーーどれがいいかなぁ‥‥(聞いてない)
ーーもぅ‥‥
ーーーこれがいい!ユアのママさんのお話だね!
ーーうん‥‥ちょっと悲しいおはなしだよ。
「おかあさん!どうしてあたしにはおとうさんがいないの!!」
あーんと大声で泣き叫び立ち尽くすユア。
「あらあら6才にもなった、おねえさんがどうしたのかな?赤ちゃんに戻っちゃったかな?」
そう言って、からかいながら笑顔でしゃがみ、抱きしめるエルナ。
20代も半ばを過ぎ、ユアを出産してもまだまだ若々しいエルナであった。
「ちがうもん!!」
叫ぶとぷっくりなって泣き止んでしまうユア。
膝を付き小さなユアに視線を合わせるエルナ。
「よしよし。さすがおねえさんだ、涙はもう止まったみたいね?」
ぽんぽんと優しく背中を叩くエルナにユアがぎゅっと抱きつく。
「あたしもおとうさんとお話したい‥‥」
涙は止まったが、悲しみがなくなったわけではなかった。
「よし、じゃあ今日は昔のお話をしてあげるから、ベッドに行こうね」
「うん‥‥」
ユアの大きな目にはまだ涙が溜まっていたが、それ以上流れてくることはなかった。
ーーーほぉ~ユアのママすごい美人だ!カルヴィリスみたいだね。
ーーユアちっちゃくてかわいい~!
ーーーほんとだ!でもちゃんとユアだね。
ーーうんうん!
ラドヴィスがため息とともに話しかける。
「エルナ‥‥機嫌直してよ。枢機卿様の前だけでもいいからさ」
ツーンである。
4頭立ての馬車を二人で交代で操っていた。
「用がないなら話しかけないでください、団長補佐」
エルナの声は硬いを通り越してトゲトゲしい。
騎士団では年齢も近いので、訓練を通しよく話すのだが、エルナは一向に心を開かない。
ラドヴィスも実家やエルナの家の意向を理解してないわけではないが、最初にそこは気にしないで行こうと話してあった。
ーーおああさま‥‥お若い時はこんなに愛らしかったのですね。
ーーーわたし達くらいだね!
ーーそしてユアのお父様‥‥なんて優しそうなの‥‥
ーーーうん‥‥なでなでされたいな!
「戦うしかないの?」
ぐっと言葉をつめるラドヴィス。
しばらく考えた末に結論を告げた。
「もうミルディス公国は、後戻り出来ないくらい影に覆われているんだよ」
うっと嗚咽が漏れてしまった。
泣くまいとこらえていたのに、耐えられなかったのだ。
ぎゅっと抱きしめる力が強くなる。
「エルナを守りたいと思っている」
とても優しい声だった。
「僕も戦うのはきらいだけどね」
とも言った。
知っている。
子供の頃から一緒だったのだ。
ラドヴィスは戦闘訓練よりも、本を読むのが本当は好きなのだ。
魔法を習うより、自然の中に入り草木や動物を見るのが好きな男の子だった。
エルナも同じように思っていた時期も有って、昔は仲良く話もしたのだ。
ーーこの頃から影獣は暗躍していたのですね。
ーーーセルミアもいたのかな?
ーーそれはそう‥‥太古の影獣だもの。
ーーーパパさん達は戦う事にするんだね。
ーーそう‥‥戦いの中で二人は結ばれるの‥‥
アウシェラ湖を望む山裾に陣地を構築し、一旦腰を据えたシルヴァ傭兵団。
ラドヴィスは離れていった仲間を案ずる。
「ここはもう結界を貼りました。ご安心を団長」
「ありがとうエルナ。団長口調もつかれるよ」
19才になったラドヴィスは、世界的にも有名になったシルヴァ傭兵団の団長として、それなりの威厳を示していた。
一時ヒゲも伸ばそうとしたのだが、エルナに大笑いされてやめてしまった。
今このテントには首脳部たる初期のメンバーしかおらず、少し気を抜いたのだった。
17才になったエルナもにっこりと笑い言葉を戻す。
「ちゃんとしてたほうがかっこいいのになラヴィは」
そう言って椅子に座るラドヴィスの両肩に、後ろから手を置いたエルナ。
その微笑みには愛おしさがにじむ。
この二年で一気に距離を詰めた二人は、3日前の襲撃がなければ式をあげ結婚する予定だったのだ。
ーーーママさんしあわせそうだよ。
ーーうん‥‥今のユアと同じくらいですね年齢は。
ーーーパパさん‥‥なんだか疲れてる?
ーーうん、戦いはもう始まっているんだもの。
すっと回りを見渡しながらセリアスがつづける。
「この二人は神の御名において、愛と忠誠を誓い今夫婦となりました。皆の祝福を!!」
わあっと会場全体が揺れるような雄叫びがあがる。
あちこちで涙しながら、もうなんだか判らない叫びがあがる。
セリアスが両手をあげ皆を鎮める。
しばらくして落ち着いた所で、事前に説明のなかったセリフがきた。
「では、神と精霊とシルヴァ傭兵団の皆に示すため、誓いのキスを!」
感動もふっとんでエルナは大声をだしてしまう。
「えええ!!」
そんなエルナのヴェールをそっと後ろにあげて、頬に手をそえるラドヴィス。
「うそうそ。むりなんだけど?!」
真っ赤になったエルナはラドヴィスの唇を片手で押し返す。
「団長がんばれっw」
わいわいと煽る声が聞こえる。
「僕の大事なエルナ、今日これから僕らは夫婦だよ」
まっすぐに見つめるラドヴィスの言葉にポーッとなり固まるエルナ。
すうっと近づきラドヴィスが唇を重ねた。
ーーーキャーーーー!!
ーーキャーーー!!
ーーーママさんうれしそう!
ーーうん(いいなぁ‥‥)
ラドヴィスの側に膝をつくエルナ。
騎士のようにラドヴィスの両手を抱いた。
アイギスの宣言通り、左手にはもう熱がなかった。
エルナはラドヴィスの瞳を見つめ、伝えたかったことだけ告げる。
もう時間がないと気づいたのだ。
「いつかラヴィが語ってくれた夢を覚えているの。小さい頃の話よ」
エルナの唇も声も震えている。
無理に作った笑顔が張り付く。
「森の奥に住み、動物たちと生活してみたいと。草花を育てそこで生きたいと」
せっかくの笑顔だったが涙がこぼれてしまった。
笑顔で伝えたかったのだ。
とても嬉しいのだと。
「あなたの子を身ごもったわ。産み育て貴方の夢を継がせます」
それだけを告げるとラドヴィスの手を押し抱き頭を下げ嗚咽をもらした。
声はなかったがラドヴィスの顔に、久しく見なかった微笑みが浮かんでいた。
ーーーパパさん‥‥ママさん‥‥
ーーおかあさま‥‥
ザンッ!!
かざした聖剣ごとエルナの体が半分に割られる。
その生命がつきる間際にエルナは金色の時間の中に居た。
(あぁ‥ラヴィごめんね負けちゃった)
最後にエルナの脳裏を占めたのは愛する者の、ちょっと困った顔であった。
黄金の時間の中しっかりと抱き合う二人。
ーーーがんばったね、エルナもういいんだよ
ーラヴィごめんね聖剣折れちゃった
ーーーそんなのもう要らないよ。
エルナの姿は若かりし日の面影に戻る。
抱きとめる若いラドヴィスに合わせた姿だ。
ー私がんばったのよ
ーーーしってるよ
ーユアはとてもいい子に育ったわ
ーーーちゃんと見ていたよ。頑張ったね
ーあぁユアどうかお願い
ーーー僕達の宝物
二人の姿が溶け合うように消えていく
ーー生きて
ーーーうっ‥‥クスン‥‥
ーーふええぇぇぇん!!
すっかり泣きつかれた二人が抱き合ってソファに寝ている。
帰宅したユアとラウマは微笑ましい姿に笑顔を浮かべるのだった。
ーーーこうしてるとすごい仲良しなのにね!
ーーはい、本当は仲良しなんですよ!二人は。




