表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒髪寺の影   作者: Enes
2/2

第二章:旅路の始まり

週末の朝、彼らは約束通り、ハルの車に荷物を積み込んだ。天気予報では晴れだったはずの空は、重い灰色の雲に覆われ、時折冷たい雨粒が窓を叩いていた。ユイの心は冒険への高揚感で満たされていたが、リナは後部座席で静かに外を眺め、どこか遠い場所にいるようだった。レンは助手席で地図アプリを操作しながら、興奮した声で「あと少しだ」と言い、ハルは、ハンドルをしっかりと握り、一言も発さなかった。


車内は一瞬静まり返った後、ユイが口火を切った。「ねぇ、みんな。少し緊張してる?」と、彼女は明るい声で尋ねた。助手席からレンが笑った。「緊張より、好奇心だよ。この道、スマホの地図には載ってないみたいだ。もうすぐ『鳥居』だね。」後ろでハルが眉をひそめた。「こんな場所、わざわざ地図に載せるわけないだろ。それに、道もだんだん荒れてきた。早く引き返した方がいい。」その時、静かに座っていたリナが小さな声でつぶやいた。「もう、遅いよ。」


しばらくして、舗装された道は終わり、車は細く、くぼんだ砂利道に入った。周囲の木々は徐々に姿を変え、幹は苔むし、枝は奇妙な形で絡み合っていた。雲はさらに厚くなり、昼間であるにもかかわらず、あたりは薄暗く、車のヘッドライトだけが唯一の光源だった。ラジオの音声はノイズに変わり、やがて完全に途切れた。誰も話さなかった。車内の沈黙を破るのは、ハルのハンドルを握る手の軋む音と、ワイパーが時折ガラスを擦る音だけだった。


さらに数分進んだ後、ハルは急にブレーキを踏んだ。車のヘッドライトの先、濃い霧の中に、ついに姿を現した。「あれが…鳥居か。」と、レンが息をのんで言った。それは、朽ちかけ、苔に覆われた古い鳥居だった。かつて鮮やかだった朱色は薄れ、まるで血が流れた跡のように見えた。鳥居からぶら下がる白いしめ縄は、静寂の中、風に揺れていた。鳥居の向こう側は、さらに濃い霧に覆われており、何も見えなかった。


ハルが車のエンジンを切ると、辺りは完全な静寂に包まれた。風の音も、鳥の声もなく、ただ濃い霧だけがすべてを飲み込んでいた。ユイは深呼吸をし、車から降りた。湿った空気が肺を満たすと、奇妙な感覚に襲われた。彼女たちが足を踏み入れた場所は、もはや現実の世界ではないかのようだった。足元の地面は黒く、まるで炭のように見えた。鳥居をくぐると、ユイは息をのんだ。道の両脇には、大小様々な石像がひっそりと佇んでいた。それらはすべて、滑らかで、顔がなかった。


ユイが石像に手を伸ばそうとした瞬間、リナが小さな悲鳴を上げた。「触らないで!」彼女は顔を青ざめさせ、震える声で言った。リナの視線の先には、他の石像と同じく顔のない、だがなぜか少しだけこちらを向いているように見える一体の像があった。ユイは、霧の中にその像の顔に一瞬、人間のような表情が浮かんだように見えた気がした。それは恐怖か、それとも苦しみか。ハルは「リナ、大丈夫か?」と声をかけ、レンはすぐにカメラを取り出してその像の写真を撮り始めた。


石像の列を通り過ぎると、道はさらに暗く、より険しくなった。足元の石段は苔で滑りやすくなっており、ところどころ崩れていた。周りの木々は空を完全に覆い、まるで暗いトンネルの中を歩いているようだった。ユイは、自分の決断に後悔を感じ始めているハルの険しい表情を見て見ぬふりをした。レンは懐中電灯を取り出し、その光で道を照らした。ユイが資料で見た古びた絵とは違い、この場所は生気を失い、時の流れに忘れ去られたかのようだった。


石段を登り切った先に、ついに目的の建物が見えた。それは、絵に描かれた美しい寺ではなく、崩れかけた、今にも倒れそうな建物だった。屋根には穴が空き、壁は黒い染みで覆われ、古い木材から腐敗の匂いが漂っていた。ハルは震える声で言った。「これは…立ち入るべき場所じゃない。」しかし、その時、レンが地面にある何かを指差した。それは、石の床に刻まれた、鳥居の前に見た顔のない石像と同じ、奇妙なシンボルだった。リナがそれを見ると、急に手が震え始め、スケッチブックを取り出して、無意識のうちにそのシンボルを繰り返し描き始めた。


ハルが反対するのを無視して、ユイは一番に古い木製の扉を押した。扉は重く、軋んだ音を立ててゆっくりと開いた。中は外よりもさらに暗く、埃とカビの匂いが充満していた。レンが懐中電灯で内部を照らすと、床には薄く積もった埃の層があり、その上に奇妙な足跡が残されていた。それは人間のものとは違い、どこか不自然に曲がっていた。一番奥には、祭壇のようなものがあり、その前に、何かの儀式で使われたように見える顔のない石像が、無造作に置かれていた。


ユイが祭壇の前の顔のない石像に近づき、手を伸ばそうとしたその時、奥の暗闇から、何かが床を引きずるような音が聞こえた。それは重く、湿った音に似ていた。ハルが「あれはネズミか…」と囁いたが、その瞬間、リナが突然両手で頭を抱え、苦痛に満ちた声をあげた。「やめて…やめて!」と彼女は叫んだ。彼女のスケッチブックのページが、風もないのに素早く一枚一枚めくられていた。ユイは恐怖で凍りついていた。


リナの叫び声が、埃の舞う冷たい空気に響いた。ハルは瞬時に彼女のそばに駆け寄り、肩を掴んだ。「リナ!リナ、落ち着け。何が起こってる?」と彼は必死に尋ねた。リナは震えながら、空虚な目でスケッチブックを見つめていた。そのページは、彼女が無意識に描いたおぞましいシンボルで埋め尽くされていた。レンは懐中電灯を振り、その光で部屋の隅々を探し始めた。一方、ユイはまだ声が出せず、ただ恐怖に満ちた目で、スケッチブックのページがめくられるのをじっと見ていた。それはまるで、リナの頭の中にあるものが、物理的な形で外に漏れ出しているかのようだった。


リナの叫び声が、埃の舞う冷たい空気に響いた。ハルは瞬時に彼女のそばに駆け寄り、肩を掴んだ。「リナ!リナ、落ち着け。何が起こってる?」と彼は必死に尋ねた。リナは震えながら、空虚な目でスケッチブックを見つめていた。そのページは、彼女が無意識に描いたおぞましいシンボルで埋め尽くされていた。レンは懐中電灯を振り、その光で部屋の隅々を探し始めた。一方、ユイはまだ声が出せず、ただ恐怖に満ちた目で、スケッチブックのページがめくられるのをじっと見ていた。それはまるで、リナの頭の中にあるものが、物理的な形で外に漏れ出しているかのようだった。


ハルはリナを静かに自分の方へ引き寄せ、彼女の震えを止めようとした。「戻ろう」と、彼の声は恐怖で震えていた。しかし、ユイは首を横に振った。「いいえ。レンが見つけた資料に何か書いてあった。この印は…リナがそれを描いたのは、理由があるはず。私たちはそこに行かなきゃ。」その瞬間、レンが隅にある石像の下から何かを見つけた。それは古く、湿ったノートだった。レンはすぐにそれをカメラで撮影し、「これは…祖父のノートだ」と呟いた。ユイとハルは驚きで彼を見つめていた。リナはまだ震えていた。この発見が、すべてを変えることになる。彼らは、戻ることのできない道に足を踏み入れたことをまだ知らなかった。

ハルはリナを静かに自分の方へ引き寄せ、彼女の震えを止めようとした。「戻ろう」と、彼の声は恐怖で震えていた。しかし、ユイは首を横に振った。「いいえ。レンが見つけた資料に何か書いてあった。この印は…リナがそれを描いたのは、理由があるはず。私たちはそこに行かなきゃ。」その瞬間、レンが隅にある石像の下から何かを見つけた。それは古く、湿ったノートだった。レンはすぐにそれをカメラで撮影し、「これは…祖父のノートだ」と呟いた。ユイとハルは驚きで彼を見つめていた。リナはまだ震えていた。この発見が、すべてを変えることになる。彼らは、戻ることのできない道に足を踏み入れたことをまだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ