第9話 破壊神の尖兵
「おお、目を覚ましたか。大した高さじゃないから軽い怪我で済んだ。ん? どうした、そんなに怯えて」
「ひぃっ、ば、化け物が出たんです。それで逃げたんですけど崖から落ちてしまって」
「なんだって!?」
眠気と吐き気と頭痛に苦しみながら昼にようやく目を覚ます。
「またやってしまった‥‥」
ライトボードを見ると残金はゼロ。お酒の勢いもありついつい賭けごとで熱気を帯びてしまい金がすべて吹き飛ぶ。おまけにツケでヤケで飲み食いしたからゼロどころかマイナス域にまで到達していた。このままでは宿が取れずご飯も食べられない。野宿するにもテント等は持っていないから野ざらしで、着の身着のまま大地に抱かれ眠ることになる。これは盗難などの被害に会う可能性があるからできれば避けたい。しかし現状は体調が非常に悪くていまにも寝落ちしそう、普通に狩りをするのは不可能だ。
「へへへ、すでに解決策は立ててあるぜ、うっぷ」
この危機を乗り越えるその策とは!? オート戦闘という勝手に動いて狩りを続けてくれるシステムを使う。スキルはSPがある場合即発動、使用するスキルはランダムで選ばれる。討伐の証は回収してくれない。しかし黒獣石は入手してくれるためその分のお金は稼ぐことが可能だ。一見非常に便利に見えるが人が多いところでオートをして取り合いの喧嘩になったり、オートが終わる前にダメージが蓄積され死んでいたという状況になることがあったためギルドは非推奨にしている。だけどここなら人はいないしリジェネで死ぬことはない。俺ならオートをやっても問題はないだろう。今から行ってある程度の時間狩るだけでも宿代と飯代くらいは余裕で確保できる。
「オート前に昨日受付さんが言っていた滝だけは確認しておこうかな」
けだるい体を引きずりながら狩場に移動。狩りをしている人はいないな、いいぞ。狩場の周りを歩くと小川を発見、小さな橋を渡り少し進むと滝が見えてきた。思っていたよりも小さく高さもそこまでない。これならディフェンダーで回復持ちの俺なら落ちても大丈夫か。
「一応試しておくか、飛び降りてからオートオン!」
崖から勢いよく飛びオートスタート。直後俺は水面に叩きつけられ大きな水しぶきを上げる。少しダメージが入ったがすぐに回復したしいけるな。意識を失った子は打ちどころが悪かったのかも。では始めるか、そのままオートに任せ狩り開始。いきなりは寝ない、狩りを問題なくできるか確認だけはしておかないと。それにしても体が勝手に動くのは不思議な感覚だ。レッドビークを発見し近づき倒しにかかる。スキルを使い瞬殺、次! 動きとしては獲物を探すときは通常時の速さで戦闘が始まると高速移動もするといったところ。スキルを発動しながら自由に狩りをする俺の体。数匹倒してこれならいけると確信、いよいよオートに全てをゆだねることに。
「オートさん後はお願いします」
こうして俺は眠りについた。ある程度狩ったところで目を覚ます。寝ぼけまなこでライトボードを取り出し袋の中を確認すると黒獣石がいくつか入っていることがわかった。順調だからこのまま続けて狩るとするか、おやすみなさい。
「ふあーあ、よく寝た。一応寝床は人目のつかない場所にしたがめんどくせえな。うん? 昨日は逃がしちまったがまたうまそうなガキが入ってきたじゃねえか。ククク、魔物や獣じゃ味気ねえ、やっぱり人間を食わねえとな。破壊神様の尖兵ロマジラ様の食料となるんだ、光栄に思えよ。よし、余興としてひとつ驚かしてやるか、空から近づいてと一気に地上に降り振動を起こし両腕を広げ威嚇。どうかな、俺の巨体に腰を抜かしたか? あれ、驚く様子はまるでねえな、気にせず狩りを続けてやがる」
現在俺は夢の中、体調が悪い時に見る夢を堪能中。謎の巨大生物に追われる夢だ、走って逃げなきゃ!
「このガキ様子がおかしいぞ。狩りをしながらまるで眠っているようだ。口を開け移動するたびに頭が力なく垂れている。呼吸をしているから生きてはいるようだが。まあいい、人間は人間だ、味は変わるまい。フン、こんなガキ一口だ、それではいただきます、あ~ん、ガブリッ! おかしいな、感触がない、って避けられた!?」
体を激しく動かす感覚を覚える。ああ、敵の攻撃をかわしたのか。目を覚ますこともないな、寝るとするか。
「ちっ、意外と素早い。ん? こちらに向き構えた、まさかこの俺とやろうってのか、面白いその度胸だけ認めてやろう。俺の一撃は大岩をも軽く砕く、くらえ、死んだことに気が付かないほど一瞬で殺してやる! って刃が通らない、どんだけ硬いんだ、こうなったらキバで、(フガフガ)キバでも歯が立たない!)」
息苦しくなり意識が少し戻る。辺りが真っ暗だ、巣穴に頭から突っ込んだかな。よいしょっと、何とか抜け出せたな。魔物が近くにいたからかオーバーフォーススラッシュが自動で発動した。まだ眠いからもうひと眠り。
「グギャーー! 雑魚の分際でこの俺に大ダメージを! 俺の体は頑丈で高レベル冒険者でもかすり傷を付けるのがやっとだというのにどうなってやがる!? ぐ、このままでは殺される、スキルの効果かこいつをぶちのめしたい衝動に駆られるがもはや戦っている場合ではない、逃げなくては。速度を落とされたが幸い俺は空を飛べ奴は羽がないから地上のみだろう。よし、空中に脱出でき距離も離したぞ、これで助かったか‥‥ぐふっ、馬鹿なっ、空中にいてかなりの距離があるのにスキルを当ててきやがった! 破壊神サーガス様ー!!」
しばらくして目を覚ます。まだ頭痛はするが先ほどよりはだいぶマシな状態だ。黒獣石を確認する。ふむ、たくさん入っているな、これなら食費と宿代の心配はなさそうだ。街に帰るころには目が覚め冷静に物事を考えられるようになってきた。オートにして寝ている間息苦しくなった時があった、おそらくは巣穴に頭から突っ込んで動けなくなっていたのだろう。もしあのまま眠っていた場合、窒息死していた可能性もある。そう考えるとオートはかなり危険だな。眠ったままオートしてそのまま死亡なんてかなり間抜けな死に方だ、悪い意味で語り継がれることだろう。ギルドが非推奨にするのはわかる。今後は眠りオートはやらない方針でいこう。かなりの無茶をしてしまったな。その後は石を清算して宿を取り晩御飯を食べ一日が終わった。
「調べましたが巨大な魔物はいなかったとの報告です」
「滝の上は草木がうっそうと茂っている。魔物や野生生物が草木をかき分けると大きく動くときがある。見間違えたのだろう、特に処置は必要ないと判断する」