第4話 旅立ち
全ては順調、というわけではなく竜人の社会という特別な環境だったためそれなりに苦労をした。そんな時は家族や友達が俺を守ってくれた。皆いい人たちだ。こうして成長していき拾われてもうじき15年となるある日。
「ダン、人間の街を見に行こう」
「いいよ」
エメル姉さんの誘いを受けて近場の人間の街へ繰り出すことにする。俺達が暮らしている場所から人間たちが住む場所はそこまで遠くはない。そうはいっても姉さんが変身して飛んで三山越えるからかなりの負担はかかる。準備をして家族に話し出発。山のふもとまで来て竜に変身。人が四、五人乗れるくらいの大きさの竜になる。休憩を多めに取りながら山を越え人間の住む地域に入る。大きな木に降り立ち頂上から街を見る。この場所は街を一望できる俺達が見つけた秘密の場所。ピクニック気分で出かけてここから街をよく眺めていた。
「相変わらず大きな街だ」
「世界最大だからな」
この世界で一番大きな超巨大都市バルトワ。ジェンバという国の首都で王都でもある。経済的に位置的にも世界の中心として機能している街だ。上空から空気を切り裂く音が聞こえる。その正体は船、この世界では空飛ぶ船、飛空船が存在する。俺達の頭上を通り過ぎ街に向かって白い帆をなびかせ飛空船が飛んでいく。
「子供の頃からよく来ていたね」
「そうだな」
「子供の頃といえば思い出すな、よく姉さんが俺を守ってくれたことを」
「弟だからな」
竜人は人間よりも力が強い。子供の社会は残酷なもので力社会だから弱い俺はよく標的にされていた。そこへ姉さんが駆け付け代わりに喧嘩するというのがよくある日常だった。
「何回助けてもらったかわからないよ」
「おかげで喧嘩が強くなった」
笑いながら冗談を飛ばす姉さん。いや、冗談ではなくかなり強いとの話を聞いている。この世界は15歳で成人。竜人は14歳なると学園に通うことを強制される。勉学や戦闘訓練、特に社会性についてしつこいほどに教えていくのだとか。基本力任せのやんちゃな種族だからそのまま社会に出るとすぐに喧嘩になりまとまるものもまとまらないからだ。姉さんは学園を主席で卒業している。文武両道の自慢の姉さんだ。
「冒険者になる、それでいいんだな? ダン」
「ああ」
冒険者とは世界で暴れる魔物を退治等の仕事をして報酬を受け取り生活する者達のことだ。魔物は人類と敵対する狂暴な怪物たち。遥か昔の古代文明が発展している時期につくられたとされている。昔の人は厄介なものを生み出してくれたな。俺は家を出て冒険者になり自分で稼いでいこうと考えていた。いつまでも厄介になるわけにはいかないからな。
「姉さんは騎士団だったね」
「そうだ」
姉さんがこれから入団する騎士団は世界最強の軍団と名高い竜人騎士団。各国に協力しこの世界の守護者ともいえる存在。友達も入るって言っていたな。現在は試験に受かりこれから騎士団見習いとなって騎士団入りを目指す。かなりの狭き門だとか。
「きっと姉さんなら騎士団に入れるよ」
「ふふ、ありがとう」
笑顔で答える姉さん。しかしいつも思うけど姉さんはこの世界に来るときに選んだ子にそっくりなんだよね。だけど決定的に違うところが髪の色、選んだ子は赤色の火の属性の竜人。ここは少々ややこしいところで、竜人は子供の頃は皆黒髪、現在の姉さんは黒髪。成人すると親の属性どちらかの属性になる。父さんは雷で母さんは水だから火の赤は遺伝しない。だから姉さんは赤髪の竜人ではなく他人の空似なんだよね。
「どうした? じっと見つめて」
「いや」
恐らく竜人であろうその人物は、冒険者として力を付けたらまた竜人の国に戻ってきて探すとするかな。世界に来る前に事前ガチャのSSRとして選んでおいて彼女はいませんてことはないと思うけど。
「なあダン」
「ん?」
「いや、いい」
少しうつむくがすぐいつもの凛とした顔に戻る。騎士団は大変って聞くから流石の姉さんも迷いが生じるたのかも。しかし一瞬で心のもやをとりはらってしまったかな、やはり強い。それから二十日が経過、十日後に十五歳となる今日、城を離れ人間の街に向かうことに。今までずっと竜人の世界で生きていたから人の世界に慣れておけという家族の助言を受け早めに行くことに。父さん母さん弟に見送られ城を出る。姉さんの背に乗り竜人の国を出発、人間領にあるあの大木へ。木から降りて荷物を持って準備完了。
「そうだ、フレンド登録機能ってのがあるんだ。落ち着いたら手紙出すからさ、また来てよ」
「私のおもりが必要か?」
「ちぇっ、わかったよ姉さん」
「ではな」
素っ気なく飛び去っていく姉さん。最近冷たいんだよね。そうか、早く姉離れしろってことだな。非力なのもあるけど今まで頼りすぎてしまっていたところはある。自立していつかは姉さんを守れるくらい立派な戦士になりたいな。