第35話 竜人の親友
ある日の夕方ごろ姉さんからの手紙が届く。
「もう少しでそちらに行けそうなのだがその前にせっかくだから竜人騎士団の見学でもどうだと思ってな。特にヨラクが来いと言っていたぞ」
ヨラクは唯一ともいえる竜人の親友。昔から姉弟とヨラクでよく一緒に遊んでいたものだ。いつでもいいから来てくれと手紙に書かれている。ハハハ、姉さんと親友の誘いなら断るわけにはいかないな。
「ということなんだ、サラも来る?」
「もちろんです!」
二人で竜人の国へ行くことに。朝起き姉さんたちに会いに行くため飛空船乗り場へ。竜人の国は近いから行くのは簡単だと思っていたがそう甘くはなかった。
「迷った」
乗り場が見つからず自分たちがどこにいるのかもわからなくなる。ひええ、世界各国各街への乗り場があるから非常に迷いやすい。都市部の鉄道を思い出す。
「竜人の国首都行きの船ならあの看板からですね」
「ありがとうございます」
職員さんに尋ねてようやく船にまでたどり着いた。お金を払い乗船、大きな帆船でお客さんも多数いる。飛竜の小屋がある、有事の際は飛竜に乗って船から脱出。水上船でいうところの緊急用ボートのようなもの、人を乗せて運ぶ商売の飛空船では設置を義務付けられているとか。
「これより竜人の国へ出発します。空の旅をお楽しみください」
係留索を解き帆船が空に向かって出発。初めての空飛ぶ船での旅行、子供のように心がはしゃぐ。空港から離れ街が小さく見えるところまで飛んできた。しばらくして竜人の国に到着。近いからあっという間の船旅だった。船から降りて竜人の国へ。
「わー、本当に大きな建物が多いんですね」
「一部は竜の状態でも入れるようにしているんだ」
竜人の国は山脈に囲まれた巨大な盆地にあり、その巨大な建造物群が人気を呼びその物珍しさから一大観光地となっている。この日は観光を楽しみ、次の日に竜人騎士団のある王城へ。向かうと多数の観光客で非常に混雑していた。ここでは竜人の威光を見せる意味もあり一部ではあるが竜人騎士団の訓練を誰でも見ることができるようにしているとか。
「これより実戦訓練を始める」
分身光石を使いPTを分け戦闘開始。観光客の前で全力の竜人たちの激しい戦いが繰り広げられる。
「すげー」
「これが竜人の戦い‥‥」
一撃一撃が地面を揺らす、そんな攻撃を食らってもひるまず反撃、分厚い皮膚で防御力もかなりのもの。口からブレス合戦は圧巻。危険なためかなり遠くからの見学になる。しかも彼らは騎士団の中でも下っ端のようだ。それはそうか全戦力は見せないか。それでも竜人の凄まじさはわかる。通常の人類ではまともに太刀打ちするのは難しいだろう。強さを求める者の中には竜人に生まれたかったと話す人もいるとか。出生ガチャってやつか。
「よーし、昼休憩だ。休んで来い」
訓練が終了。姉さんたちを呼ぼうと受付に向かう途中、見たことがある竜人を発見。
「ダンか。久しぶりだな」
「元気そうだなヨラク」
この竜人の男は親友のヨラク。成人してからは初めて会うな。おでこと背中に傷があるからすぐわかった。成人して茶色い髪の毛に変色している、何のドラゴンだろう。
「土属性のアースドラゴンだったみたいだ。どうだ茶髪はなかなかいいだろう。気に入っているんだ、女の子にも人気よ」
「来たかダン」
「ねえさ、エメル、来たよ」
いけない、エメルって呼ばないといけなかったな。サラを紹介して、ここではなんだからと街に出て食事をすることに。
「聞いてくれ、二人とも入団試験に合格したんだ」
「おめでとう」
難関試験の竜人騎士団の試験に合格したという二人。
「騎士団に受かったってのに辞めるなんてな。もったいないけど訳ありなら仕方がないか」
ヨラクには俺が勇者である件は伝えてない。親友として心苦しいが、知ってしまうと誰にも言えないわけだからな。ともに旅をするわけではないからそれはきついだろうということで話はしていない。
「ダンと一緒に旅をするんだったな。今度はエメルを守ると」
「ああ」
「その言葉本当か?」
今まで向けられたことのない鋭い眼光が親友のヨラクから放たれる。彼の本心だろう、冒険者は生き死にの世界、言葉だけでは生き残ることはできない。本気で心配している彼のやさしさを感じることができる。そう、こいつはいい奴なんだ。
「もちろんだ」
「出来ないことを言う奴じゃない。試させてもらおう」
「いいとも」
「まったく、仲間外れにしやがって。本気で行くぞ」
ここで俺は彼への対応を間違えたことに気が付く。そうだよ、ヨラクは親友だ、教えても問題なかっただろ。失敗したな、余計な気を使いすぎた。力を知られてしまってもいい、全力で戦うことを心に誓う。人の少ないところを選び、分身光石を使って向かい合う。
「レベル的には騎士団に入ったとはいえ新規冒険者を卒業した程度。ほぼお前と同じくらいの強さのはず」
竜人としての強さそして騎士団に入ったくらいだ、かなりの力を持っているだろう。油断をしていると負ける可能性はある。姉さんに開始の合図を言ってもらう。
「始め!」
戦闘開始の瞬間、お互いスキルを発動。
「アースソリッドブレス!」
土属性のブレスがヨラクから放たれる。体に激しくぶつかりながら固まっていく。セメントの吹きつけ、それをもっと固まりやすくしたような攻撃。間一髪、アブソリュートインビンジブルで切り抜ける。
(今のブレスは固めてしまって行動不能になる攻撃。それを涼しい顔で受け普通に動いている。しかも破壊力もそこそこあるんだがな。同じくらいの強さの者たちを一撃で葬り去るくらいの威力が。凄まじい防御性能、あの言葉に嘘偽りはなしか。おいおい、一撃で決めて格好つけてばかりじゃなくしっかり力をつけるんだぞと励ますつもりだったけど本当に強いじゃないか)
攻撃で一番恐ろしいのは状態異常攻撃。もし眠ったり麻痺になったりしてしまうとどれだけ強靭な肉体でも優秀なスキルを持っていようとも簡単に倒されてしまう。あの驚きよう、今の攻撃になにかしらの状態異常攻撃が含まれていたとみていいだろう。
(さて、次の手は)
「参った」
手を上げ負けを宣言するヨラク。
「いいのか?」
「ああ、実際力があるのは見れたしな」
「攻撃力もなかなかある」
「そうか」
戦闘は俺の勝ちで終わる。お互い石を回収。
「お前らに隠し事されてちょっと寂しかっただけさ」
「すまなかった」
泣くふりをするヨラク。姉さんが真面目に慰める。
「エメルを大事にしてくれ」
「もちろんだ」
「またな」
二人に挨拶をしてここで別れる。実家に行こうか考えたが、出てからまだそんなに経ってないし、ホームシックにでもかかったかなど、かえって心配させるかなと思い今回はやめることにした。手紙も書いているしね。こうして俺達はバルトワの街に帰っていった。
(はあ、もしかしたら俺にも芽があるかと思ったけど、ダンと別れて元気のない彼女には違和感を感じていたんだよな。そして一緒に旅をするということでいつもの彼女に戻る。気が付いてしまったんだ、ダンを必死に守るエメルが好き、ダンを好きなエメルが好きだということに。もうこれ絶対勝てないじゃないかよ。あーくそ、絶対にエメル以上のいい女を見つけてやるからな!)




