第3話 異世界転生
自分の部屋ではないどこか知らない場所に来てしまっている。服を身につけている感覚がなく全裸で背中は冷たい土の地面の上。じめじめと湿っていて青臭い草木や土のにおいがする、薄暗く鳥や獣の鳴く声が聞こえる、どうやら森の中のようだが。また夢を見ているのか? 裸で森の中、危険と判断し移動しようと思ったが寝起きのせいか体の動きが悪い。両腕を動かしてみると目の前に小さな手が出現、これは赤ちゃんの手? おいおいまさかな。試しに前後に振ると揺れる小さい手。ということは現在赤ん坊になって小さくなっているのか。どおりで身動きできないわけだ。自分が置かれた状況を把握し背筋が凍る。このままでは野生の肉食動物に食べられてしまうかも。どうして赤ん坊になってしまったかは今は置いておいて、生き残るために行動をしなくては。動いてここから脱出することは不可能、唯一できることは泣くことだけ。俺は心の底から声を出し必死に泣き叫ぶ。
「おぎゃぁ、おぎゃーー!」
運が良ければ人間に届くかもと考えたからだ。すると森の奥から大きな音が聞こえた。重量物が落下したような音、これはもしや足音か。歩くたびに地面が揺れる、よほど大きな生物のようだ。振動が徐々に大きくなり巨大な生物がこちらに近づいて来ていることがわかった。
(ま、まずいのでは)
飛び上がるほど大きな振動があり、思わず泣くのを止める。猪か熊か、いやもっと大きな生物だ。恐る恐る音がした方向を見るとそこには巨大なドラゴンが。
(どうしてドラゴンが!?)
ファンタジーな世界の住人が突然現れ驚く俺。日本のどこかの森かと思っていたがどうやらとんでもないところに飛ばされてしまったようだ。いや、今はそんなことを考えている場合ではない、一刻も早くここから離れなくては。逃げようとしたも手足をバタバタさせるだけ、赤ん坊だから力がなくてどうあがいても逃げられない。ドラゴンは口を開けいよいよ俺の体に噛みつこうとする。そしてキバで挟み、俺を持ち上げながらゆっくりと閉じていく。キバが俺の体をかすめる、終わった、俺の人生!
(って、あれ?)
噛み潰されるかと思ったが優しく包んでいるといった様子。アゴを上にあげると滑るように口の中へ。まさか丸飲みかと思ったがそんなことはなく舌を使って飲み込まないよううまいこと口の中に留めた。ドラゴンは木々の隙間を見つけるとそこに向かって羽ばたき飛び立っていく。俺に対して敵意はない? いや、巣に帰って生きたまま子供達にということも考えられる、まだ助かっていない可能性はある。震えながら歯の隙間から景色を見ていると、森の中に西洋風の大きな城があるのが見えた。ドラゴンは城に向かって一直線に飛んでいく。あの城に住んでいるのかな。巨人でも住んでいるのかと思うほど普通の城よりもはるかに大きく、ドラゴンが飛びながらそのまま入っても問題ないほどの巨大さ。入り口から城の中に入っていくドラゴン、中は廃墟ではなく手入れが行き届いている。口の中からやさしく俺を地面に降ろすとドラゴンは徐々に小さくなっていく。そして最終的に人に変身。背には翼が生えていて太い尻尾を持っている男性。俺を抱え城の奥へと入っていく。通路奥の扉をノックして部屋の中へ。中には赤ん坊を抱いた同じく羽と尻尾が生えた女性がいて言葉を投げかけながらあやしていた。
「ヘラ、森の中で人間の子供を拾った」
「あら大変」
日本語ではないようだが彼らの会話が聞き取れる。話の内容からしてどうやら安全な場所のようだ、食い殺されなくてよかった。
「あらあら、震えているではありませんか。ではエメルをベッドに寝かせてその子をこちらへ」
ヘラさんは俺を抱き軽く揺らしながら子守歌を歌う。安心したのと小気味のいいリズムに眠気が俺を包む。
「この子は人間の子だ、どうしようかな」
「ふふ、多い方がにぎやかでいいじゃありませんか、育てましょう」
「そうだな、では我が子だ」
「名前を付けないといけませんね」
急にスマホの画面のようなものが目の前に現れ名前を入力してくださいと指示される。先ほどまでの緊張のおかげで考える力が全く出てこない、それなら本名のダンにしよう、入力すると画面は消えた。ふあーあ、眠くなってきた。
「うん? 急にダンという名前が思い浮かんだぞ」
「ではダンにしましょう」
「よろしくな、ダン」
自分の名前を呼ばれている気がしたが眠気に負けそのまま就寝。
(んー、よく寝た。けど赤ちゃんのままか)
その後目を覚ましても現代に戻っていなかった。夢にしては長いな、もしかしてゲームの世界に飛ばされたのかも? とにかく戻れないのならこのまま生活していくしかない。かくして俺はドラゴン一家に育ててもらうことになった。愛情を注いでもらい俺はすくすくと育っていく。一年後には弟も生まれた。家族構成は父母に姉俺弟の五人家族。俺以外は竜人という種族で、竜に変身できる特殊な人種。大きな城に使用人が複数人いる貴族の一家だった。父さんは元々は一般の竜人だったが竜人の国を支配しようと大暴れしてした竜人をこらしめて力を認められ貴族になったのだとか。