断罪の中断
「セレナ・ルクレール! これ以上、お前の傲慢を放置するわけにはいかない。よって、婚約を……」
そう言いながらも、アレクシスはまたしても言葉を途切れさせた。今度は一瞬、私の目をまっすぐ見つめる。その深い蒼い瞳に映る感情は、ゲーム上のデータにあったような“冷酷な断罪”ではない。どこか未練があるような、寂しげな光が混じっているように見えて――私の胸がかすかに痛む。
「殿下、どうかはっきり申し渡してください!」
「そうですわ、セレナ・ルクレールに断罪を!」
「リリィ嬢をお守りください!」
周囲の貴族たちが煽るように叫び、王子を急かす。先ほどまで寡黙だった人々も、ここぞとばかりに意見を述べ、スキャンダラスな展開を期待している様子が見え隠れしていた。
リリィも「殿下……」と潤んだ瞳で上目遣い。まるで「私を救ってください!」と引き立てるようなポーズだが、アレクシスはその様子を見てさらに眉をひそめる。
「……殿下?」
私のほうが思わず問いかけると、王子は困惑したように小さく首を振った。そして決然とした調子で言い放つ。
「ここでは、公平な判断ができない。――セレナ、お前と話がある。別室へ来い」
え? と私が声に出せないうちに、アレクシスは私の手首を掴む。反論する間もなく、そのまま私を舞踏会場の出口へと引っ張っていった。取り残されたリリィや貴族たちは、どよめきと怒号を浴びせながらこちらを追おうとするが、王子付きの近衛兵がさっと動いて制止する。
ばたばたと騒ぎが起こる中、私は一瞬だけ振り返った。リリィは呆然と口を開き、私たちを見送るしかない様子だ。
――これ、完全にゲームの想定と違う流れじゃない?