再会のノエル――荒れ果てた神殿遺跡
翌朝、一行はついに北方山脈を越え、神殿遺跡近くの平野へとたどり着いた。そこは荒涼とした大地が広がり、古びた石造りの建物が沈黙を守るように佇んでいる。
道すがら、小規模な戦闘もあったが、アレクシス率いる小隊は何とか損害なく乗り越えた。今は遠くの視野に、石の柱や崩れたアーチが見える。そこが“調律石”の眠る神殿らしい。
「ここが……伝説の場所か。本当にどこか神秘的だな」
アレクシスが馬車から降り、周囲を見渡す。強い風が吹き、砂塵が舞い上がる中、騎士たちが警戒を高めている。
すると、少し離れた岩陰から見慣れた人影が立ち上がった。
「セレナ様! 殿下!」
声の主はノエル。旅装と軽鎧をつけ、砂と埃にまみれて疲弊しきった表情をしているが、無事に生きていたことにセレナは胸を撫で下ろす。
彼が駆け寄ると、アレクシスも安堵の笑みを浮かべる。
「ノエル、無事だったか! ここには兵の姿はないか?」
「はい……第二王子派の者たちは、遺跡の内側に陣を張っているようです。周囲を探ったところ、入口付近に見張りが配置されていましたが、私が隠れていた位置までは気づいていないようで……」
ノエルは続ける。「彼らはおそらく大半が遺跡の深部を探索しており、調律石を探しているのだと思います。このままでは発見されるのも時間の問題かと」
アレクシスは目を鋭くし、騎士たちに指示を出す。
「よし、入口を奇襲して制圧し、彼らが石を見つける前に阻止する。……ノエル、ありがとう。お前は怪我はないか?」
「ええ、軽い擦り傷程度です。でも……もし第二王子本人がいるなら、どう対応されますか? 陛下からの正式な命令書はお持ちで?」
「残念ながら、まだ父王に正式な許可は得ていない。……ここは一旦、俺の権限で‘不法な軍事行動を鎮圧する’という形をとるしかないだろう。真実を捻じ曲げられる前に決着をつける必要がある」
隣でセレナが不安げに質問する。「でも、もし第二王子が本当にいたら……それこそ“王家同士の争い”になってしまうわ。大丈夫なの?」
アレクシスは揺るぎない決意を込めて答える。
「大丈夫とは言い切れない。だが放置すれば、やつらが石を手にしてお前を修正するだの、俺の正統性を奪うだの、好き勝手やられる。……今ここで押さえ込むしかないんだ」
セレナは息をのみながらも、アレクシスの意思の強さを感じる。そう――リリィとの事件を経て、彼ももう迷わない。
ノエルは再び頭を下げ、「私も共に戦います」と言って剣に手をかける。こうして、わずか十数名の小隊は遺跡へ向かう。




