北方への旅路――少数精鋭の騎行
翌朝、まだ夜が明けきらないうちから、学園正門の前に馬車と騎馬兵が集結した。アレクシスが信頼する近衛騎士を中心に、わずか十数名ほどの小隊が編成されている。
大規模な軍を動かせば、第二王子派も本気で対抗して内戦になりかねない。アレクシスは“あくまで視察と護衛”という名目で、この最小限のメンバーを率いることにしたのだ。
セレナは戦闘力こそ高くないが、魔法の素養と社交術を心得ている。さらに“転生者として神殿遺跡に対峙する”という意志を胸に、鎧の代わりに動きやすい貴族風の旅装を纏った。
アレクシスは黒い軽装鎧を身につけ、鋭い眼差しでメンバーを見回している。雰囲気はもはや“王子”というより、小隊を率いる騎士団長そのものだ。
「セレナ、無理はするなよ? いざ戦闘になっても、護衛がついている。絶対に俺より前に出るな」
開口一番、アレクシスはそう念を押すが、セレナは小さく笑う。
「わかってる。私が前に出ても、足手まといになるだけだもの。何かあれば回復魔法とサポートに徹するわ」
そう、セレナも多少の魔法なら使える。転生前から魔法少女アニメを好んでいたこともあり、“勉強”を欠かさなかった結果、ささやかながら回復と防御魔法を会得している。攻撃手段には乏しいが、この旅の役には立つかもしれない。
一方、アレクシスは剣術に秀で、前線で戦うのが得意だ。ノエルがいない今、その分の負担を王子が被る形になるが、周囲の騎士も勇猛な者が揃っているから、ある程度は大丈夫だろう。
雲が薄く朝日を透かし始める頃、一行は馬車と馬に分乗して出発した。
北方への道のりは長く、最低でも数日はかかる。その間に第二王子派がどこまで遺跡を掌握してしまうか――気が急くが、無茶な駆け足はできない。
セレナは馬車の中で、アレクシスと共に地図を広げ、ノエルが残した断片情報をもとにルートを再確認する。
「……どうやらこの山脈を越えた先が神殿遺跡らしいけど、途中には魔物が出るという噂もあるわ。気を抜けないわね」
「そうだな。兵が少ない以上、魔物に足止めされるのは避けたい。最短ルートで遺跡まで行き、ノエルと合流して状況を把握する。――それが最善だ」
アレクシスが強い調子で言い切り、セレナは頷く。――リリィとの闘いも激しかったが、今回は“戦争”の可能性すらある。考えるだけで不安が増すが、王子と共にいる限り、心は折れない。
馬車が徐々に街道を離れ、荒野の道へと入っていく。木々が増え、草木が色濃く生い茂る景色へと変化していくのを、セレナは窓から眺めながら決意を強くする。
(転生して得た第二の人生、リリィや第二王子派に壊されてたまるものですか。私の未来は私が選ぶ。絶対に譲れない)




