本当の愛――転生を超えた未来へ
その夜、学園の騒動を受けたアレクシスは教師たちと緊急会議を開き、第二王子派の生徒数名を“退学処分”にする決定を下した。もちろん、背後にいる大人たちの動きを断絶できるわけではないが、学内の秩序は守られる形となった。
“転生者デモ”を煽った彼らに、私とアレクシスが毅然と対応したことにより、大半の学生は「あんな馬鹿げたデモには乗らない」と距離を置き始め、結果的に第二王子派の策は失敗に終わったと言える。
私は学園寮の一室で一人、窓の外を眺めながら深く息をつく。…今日は本当に疲れた。ノエルが不在の今、アレクシスが細心の注意を払ってくれているが、気苦労は絶えない。
廊下を歩く足音が近づき、部屋の扉がノックされる。応じると、そこにアレクシスが立っていた。
「夜分にすまない。……一応、騎士を増やしておいたが、何か不都合はないか?」
「ううん、ありがとう。むしろ申し訳ないわ。あなたに余計な負担をかけてしまって」
素直な気持ちを伝えると、彼は微苦笑を浮かべ、テーブルの椅子に腰を下ろす。
「まったく……この学園は、お前とリリィがいなければ、こんな大騒ぎにはならなかっただろうに」
「あはは、そうかもね。最初はリリィがヒロイン、私は悪役令嬢……ゲームのセオリー通りだったのに、全部ひっくり返したから」
お互い苦笑して、静かに目を合わせる。リリィの破滅と第二王子派の策動。それでも私たちはこの“バグ展開”を貫いている。
アレクシスの瞳がやがて優しい光を帯び、私の手を握る。
「セレナ……お前が転生者だろうと関係ない。俺はお前と一緒にいたい。その覚悟は変わらない。例え世界が修正しようとしても、俺は絶対に手放さない」
思わず涙がにじむ。ここまで言い切ってくれるなんて――悪役令嬢だった私にはもったいないほどの愛情だ。私は彼の手を強く握り返し、震える声で応じる。
「ありがとう、アレクシス。私もあなたを一人になんてさせない。たとえ世界が敵に回っても、悪役である私があなたを守ってみせるの」
二人で微笑み合うその瞬間、まるで“転生”などという異常事態が些細なことに思える。リリィが失墜し、第二王子派が暗躍しても、私たちの絆はそう簡単に壊れやしない。
――この“無関心”だった私が、いつの間にか誰よりもアレクシスを愛しく思っている。そんな奇跡を起こしたのは、転生者だからではなく、私自身の意志に他ならない。
扉の外では騎士が見張っているが、今だけは二人の世界がここにある。静かな夜の学園寮で、私はアレクシスの体温を感じながら微笑む。
――これが“本当の愛”だと、ようやく気づいた。前世では得られなかった温もりが、今ここにある。誰が“修正”しようと、決して奪われたりはしない。
「おやすみなさい、セレナ。明日も一緒に学園へ行こう。……転生者説なんて吹き飛ばしてやればいい」
「ええ、おやすみなさい。あなたがいるなら、私はどんな噂にも負けないわ」
そう囁き合い、彼は部屋を出る。ノエルがいなくても、私はもう十分に戦える。――新しい朝が来れば、また次の事件が待つかもしれない。だけど、それでも私は前に進む。
リリィが“ヒロインとしての道”を狂わせたのは自業自得。第二王子派が“転生者を排除”と騒ぐのも勝手だ。私は私の人生を、私が作る。
そんな決意を胸に、私はベッドに身を沈め、そっと目を閉じる。




