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転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした  作者: はりねずみの肉球
【第六章】ヒロイン、覚醒。そして暴走
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馬車での勧誘――第二王子派の提案

放課後。人通りが少なくなった裏門。

私とノエルがそこへ向かうと、さりげなく王家の紋章を彫り込んだ馬車が停まっており、先ほどの青年・エルマーが待っていた。顔を出すと、彼は「お越しいただき感謝します」と一礼し、馬車の中へと誘う。


「安全のために、そちらの護衛も同席してかまいません。……もっとも、これからお話しする内容は機密ですので、外部に漏れないようご配慮お願いします」

ノエルはすぐに座れる態勢を取り、私の両脇を守るように構える。エルマーも対抗意識を見せず、落ち着いた態度で口を開く。


「単刀直入に申し上げます。私たち第二王子派は、殿下(第一王子アレクシス)に偏重している王宮体制を改めたいと考えています。そのため、殿下の婚約者たるセレナ・ルクレール様にご協力いただければ、大きな力となるのです」


思わず苦笑が漏れる。まさか“殿下の婚約者”である私を取り込もうなんて発想、随分強気じゃないか。

「でも、私が殿下を裏切って、第二王子を支持するというの? そんなこと、まずあり得ないわ」


エルマーはニヤリと笑みを浮かべ、扇子を軽く開いた。

「ええ、もちろん。それは承知しています。私たちがお願いしたいのは、セレナ様が‘転生者の噂’に関して証言していただきたいということ。――殿下が“異端”の人物を婚約者にしている、という情報を公に示してほしいのです」


瞬間、血の気が引いた。やはり“転生者”の噂を使って、アレクシスを引きずり下ろすのが目的か。

ノエルも察してか、声を荒げかけるが、私は手で制してエルマーを見据える。


「それはつまり、私が自分で‘転生者です’と認め、殿下が私を庇っていると暴露しろと? そんな馬鹿な話が通るわけないでしょう」


「まあ、そうおっしゃらず。もしセレナ様が証言を出してくだされば、我々は聖職者と協力して‘異端者排斥’の流れを作ることができます。すると殿下の婚約が破棄される可能性が高い。そして、代わりに第二王子が王位継承の最有力に躍り出る……」


無茶苦茶な論理だが、彼らにしてみればそれが狙いなのか。私が転生者として自爆すれば、アレクシスは当然ダメージを受ける。いずれ破談になって、私が“悪役令嬢”として断罪される――最悪のルートが想定できる。

エルマーは続ける。

「セレナ様が王子の隣に立つことは、正直難しい道ではありませんか? いずれ派閥の圧力も強まるでしょう。ならば、いっそ退場していただき、それなりの保証を受けて静かに暮らす道を選ぶのも悪くないかと……」


「ふざけないで」


私の声が低く響く。アレクシスを裏切れと? 転生者の暴露と引き換えに安全と金を得ろと? …そんな道、あるわけがない。

ノエルが睨みを利かせ、「そろそろ失礼します」と言おうとするが、エルマーはひるまず扇子を閉じた。


「セレナ様、よくお考えを。リリィのように破滅する前に、賢明な選択をされるべきだ――これは忠告です。もし殿下との道を歩むなら、あなたは‘転生者’としていつか裁かれるかもしれませんよ?」


脅しに等しい言葉だが、それを覚悟して私はアレクシスを選んでいる。私は鼻で笑い飛ばし、馬車の扉に手をかける。


「ご心配なく。私が破滅するかどうかは、あなたたちの思い通りにはさせない。……殿下を裏切ることは絶対にないわ」


エルマーは苦々しい表情で何か言いかけるが、私とノエルは一切耳を貸さず馬車を降りる。

馬車はそのまま裏門を出て行き、私はただ息を荒げたまま見送るしかなかった。ノエルが不安そうな声をかける。


「セレナ様、やはり第二王子派が‘転生者の噂’を握っているのは確実のようですね。……大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫。でも、これでハッキリしたわ。あの人たちは私を利用して、殿下を貶めようとしてる。絶対に許せない」


言葉に込めた怒りが震える。アレクシスに報告すれば、すぐに動いてくれるだろうが、第二王子派もそう簡単には引かないはず。ここから先、私たちはより激しい攻防へ突入するのだ。

(悪役令嬢と王子の未来を潰そうなんて、させるわけない。私はリリィを倒した先に、この道を選んだのだから――もう絶対に譲らない)

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