「どうでもいいわ」の本音
「……セレナ、お前のような人間とは、これ以上――」
アレクシスが決定的な一言を投げようとしている。周囲の貴族たちも、固唾をのんで見つめている。今ここで“婚約破棄”が正式に言い渡され、私は社交界から追放されるのであろう。
だけど、どうしても私は慌てる気になれなかった。さっきまで「怖い」と感じるはずだったのに、いざとなると冷めた心が顔を出す。
(……正直、婚約破棄されるのは嫌だけど、私はもともと王子に未練なんてなかったし。)
そもそもここに来るまで、王子が好きだった記憶もなければ、前世でも恋愛にのめり込むタイプでもなかった。頭のどこかで「悪役令嬢なら、いずれ追い出されるポジションだろう」と達観してしまっている。それに、ゲームのシナリオとやらがしっかり存在するなら、もともとこの結末は決まっていたはずだ。
「……まぁ、別に、どうでもいいわ」
そんな投げやりな台詞が、私の口からすっとこぼれ落ちた。取り繕う気力もない。ぼそりと言ったつもりだったけど、思いのほか会場は静まり返っていて、その言葉はよく響いたらしい。
途端に、あちこちが再びざわつき始める。
「何という高慢……!」「やはり反省などしていないのか」「悪役令嬢は最後まで醜悪ね……」
貴族たちの嘲笑や軽蔑が耳を突き刺すけれど、私自身は奇妙に心が落ち着いていた。ここで泣いて取りすがるようなキャラでもないし、ましてやヒロインのように愛を求める気持ちもない。無関心だなんて自分で言うのもどうかと思うが……それが正直な心境なのだ。