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転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした  作者: はりねずみの肉球
【第五章】崩壊する聖女神話、暴かれる嘘
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深夜の打ち上げ――ノエルと友人たちの祝福

舞踏会が盛大に幕を下ろしたあと、学園の一部の生徒たちが集まる“打ち上げ”が催された。教師の目を盗んで行われる非公式のパーティで、生徒同士が自由に語らい、余った飲食物を楽しむというものらしい。

前世の文化祭打ち上げに似たノリと聞き、私は少し楽しみにしていた。


アレクシスは王子として公務があるため、一時的に王族や貴族たちへ挨拶に回っている。その隙に私もノエルや友人たちと合流し、簡素な打ち上げ会場――学園の裏庭に設けられたテーブルを囲む。

キャンドルと提灯だけが頼りの薄暗いスペースだが、かえって雰囲気があって素敵だ。ここで集まっているのは、貴族も平民も関係なく、学園祭の成功を喜び合う若者たち。

私は火傷を押して参加するのもどうかと思ったが、先ほどの舞踏会で気分が高揚していて、まだ帰りたくなかった。


「セレナ様……本当にお疲れさまでした。リリィ嬢の一件があったから、どうなるかと思いましたけど、無事に終わってよかったです」


ノエルが私にジュースの入ったカップを渡しながら、いつになく柔らかい口調で言う。

「ええ、あなたもありがとう。いろいろと助けてもらったわね。……足手まといにならないよう守ってくれて感謝してるわ」


「とんでもない。セレナ様こそ、学園祭の立役者じゃないですか。まさか王子殿下との婚約をここまで堂々と示すなんて……いやはや、おめでとうございます」


照れくさくて視線を逸らす。周りの友人たちも「あの舞踏会、見てて感動したわ」「リリィの事故があったからか、最後に盛り上がったね」と口々に語りかけてくれる。

ほとんどの人はリリィが禁術を使ったなんて知らないから、ただの事故だと思っているようだ。私としては複雑だが、結果オーライと見るべきか。

ともあれ、今は束の間の休息だ。夜風が気持ちよく、ここで仲間たちと語り合えるのが貴重な時間に思えて仕方ない。


ノエルがふと表情を曇らせ、小声で尋ねてきた。

「……本当に、これで終わりなのでしょうか。リリィ嬢の行為は、学園にとっても王国にとっても重い罪。殿下やセレナ様に何か影響がなければいいのですが」


「それは……わからない。でも、もう大丈夫よ。私たちがリリィの暴走を止めた以上、後は王家や上層部が彼女をどう処分するか決めるでしょう。私は甘んじて受ける覚悟があるわ」


リリィの一件で騎士団や宮廷魔術師が動き、裁判めいた場が開かれるかもしれない。私も強引にリリィを止める過程で書庫に侵入したことなど、責任を問われる可能性はある。しかし、アレクシスが全力で擁護してくれるだろうし、公爵家としても手を打ってくれるはずだ。

最悪の場合、悪役の私が何らかの罰を受けることになるかもしれないが――もうそれでもいい。転生したからには自分の道を貫き、アレクシスと結ばれるためにやれることをやるだけだ。


そう考えると、不思議と怖くはない。むしろ、ようやく「自分の意志で未来を動かしている」実感があって、心が軽くなる。

ノエルも私の表情から何かを感じ取ったのか、「セレナ様、強くなられましたね」と微笑んだ。


「ええ……私、転生してようやく本当の私になれた気がするわ」


その言葉を噛みしめた時、打ち上げ会場の入り口でちょっとしたざわめきが起きた。アレクシスが姿を見せ、何人かの仲間に軽く会釈してこちらに近づいてくる。

貴族の子弟たちも「殿下が打ち上げに来るなんて!」と驚き、道を空ける。まるで憧れのスターが現れたような熱気が走る。

アレクシスは隙を見つけて私に歩み寄り、やや照れた様子で微笑む。


「やあ……少しだけ顔を出せることになった。まだ疲れてないか、セレナ?」


「ええ、まだ大丈夫よ。あなたこそ、いいの? こんな庶民的な打ち上げに……」


「構わない。お前がいるならどんな場所だって……いや、こっちのほうが、ずっと気楽かもしれない」


甘い台詞に顔が熱くなる。周囲からクスクス笑いが起きるが、アレクシスは気にした様子もなく肩をすくめる。

「せっかくだし、一緒に飲み物でも味わおうか。こういう庶民派の飲み物、俺はあまり慣れていないんだけど……」


「あはは、きっと口に合わないかもしれないわよ。甘すぎるとか、香りが独特とか」


「あえて挑戦してみる。お前が好きなものを選んでくれ」


そう言って笑う彼を見ると、王子の立場を一旦下ろして、普通の学生として学園祭の打ち上げを楽しもうとしているのがわかる。私も自然と笑みがこぼれ、周囲の生徒たちも温かい目で見守ってくれる。

――リリィとの衝突や禁術騒ぎがあったなんて嘘みたいな、穏やかで幸せな時間。私とアレクシスが冗談を言い合いながらドリンクを手に乾杯すると、仲間たちが拍手や歓声を上げ、打ち上げ会場はさらに盛り上がる。


ノエルや友人たちに囲まれ、気づけば私の中に“こういう青春も悪くないな”という温かな感情が広がっていた。悪役令嬢として孤立するどころか、今やたくさんの人に祝福されている。

そこにリリィの姿はないけれど、それが逆に切なくもある。もしリリィが普通に学園生活を楽しむ道を選んでいたら、こんな穏やかな打ち上げにも参加できたはずなのに……。


(でも、それはもう失われた可能性だ。リリィが自ら捨てたのだから)


ほんの少し黙想に浸っていると、アレクシスが私の肩を優しく叩く。

「どうした、何か考え込んでるのか?」


「ううん、何でもない。……ただ、今夜こうしていられて、本当に良かったって思ってたの」


ハニカミながら言うと、彼は安心したように微笑む。

「そうか。俺も……。お前と一緒に踊れて、打ち上げも楽しめて、最高の学園祭だ」


二人で目を合わせ、まるで恋人同士のように微笑み合う。周りの人々が、からかい半分、祝福半分の歓声を上げるが、もう気にならない。私は堂々とアレクシスの隣に立てる自分を誇りに思った。

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