悪役令嬢セレナの自覚
リリィが王子にすがりつく様子を横目で見ながら、「ああ、本当に私は『悪役令嬢』になっちゃったんだな……」と呆然とする。人ごとのように思っていたが、こうして強烈な視線を浴びると、嫌でも実感せざるを得ない。
(確かに、私は元々はただの大学生だった。恋愛シミュレーションゲームは好きだったけど、この世界に入り込んだらどうなるかなんて想像でしかなかったし――)
正直、まったくピンと来ていない部分も大きい。でも、今はそんな悠長なことを考える暇もない。周囲から突き刺さるような視線。今にも私をつまはじきにしようとする空気。ああ、これが“断罪”される側の気持ちか……と妙に冷静に理解してしまう。
ただ一方で、なぜだろう。私はそんなに取り乱してはいない。むしろ、「あれだけ大騒ぎしていた断罪イベントって、こんな感じなんだ……」と観察している余裕さえある。
もともと政略的に決められた婚約で、アレクシス王子に恋をしていたわけではない。気づいたら“悪役令嬢”の身体に入っていたからには、この展開も仕方ない……と、どこか達観してしまうのだ。
「セレナ・ルクレール! お前の罪は重い……ここで……」
アレクシスが改めて断罪の言葉を綴ろうと口を開く。が、そこでまた声が詰まる。こっちを見つめる視線が苦しそうだ。まさか、本当にこの王子は私を……?
一瞬、胸がざわついたが、すぐに頭を振って振り払う。そんな、まさか。私が悪役令嬢だという時点で、そんな都合のいい話はないはず。ゲームでは、最後には婚約破棄されて“破滅”する結末しか用意されていないキャラなのだ。




