そして、新たな幕開けへ――揺れる想いと決意
こうして、宝飾品盗難の濡れ衣は未解決のまま消化不良の形で終わったものの、それをきっかけに学園内では“セレナか、リリィか”という二分の空気が生まれつつあった。
リリィ派は“聖女”の奇跡を信じ、私を悪役だと決めつける。一方で王子やノエルが私の味方を続けていることで、少なくとも完全な孤立は避けられている。
――平民と貴族、聖女と悪役令嬢という対立が、以前にも増して明確になり始めたのだ。
一方、私は王子に背中を押され、“学園祭での舞踏会”に全力を注ぐ決意を固めている。これは、リリィが用意する“聖女イベント”への対抗でもあり、私自身が“この世界で生きる意味”を確認するための一歩でもある。
――そう、もう私はただの悪役令嬢じゃない。前世で恋愛に縁のなかった私が、この転生を機に“本当の恋”に目覚めるのか……それはまだわからない。だが、アレクシスの強い視線を受け止めるたびに、心は確かに揺れている。
リリィのご都合展開を壊し、自分の意思で運命を選ぶ。――口で言うほど簡単ではないとわかっている。
それでも、第二王子派や宮廷魔術師、さらにはリリィを支持する貴族たちなど、いずれ表舞台に姿を現すであろう強敵が待ち構えているかもしれない。
だが、もう引き返すつもりはない。
“勘違い”と“無自覚”のすれ違いラブが、ここからさらに加速し、新たな局面を迎える――その予感を抱きながら、私は静かに夜の街を見つめる。
どこか遠くで鐘の音が響き、私はそっと目を閉じた。
(リリィ、あなたも全力で来なさい。私があなたを倒すのか、それともあなたの本音を暴くのか……どちらにしろ、もう‘ヒロインの独り舞台’は終わりよ)




