宣戦布告の先に――静かなる闘志
学園祭に向けて多くの生徒が忙しなく動き回る中、リリィは例の“聖女行事”を計画している様子だと耳にした。具体的には“祈りのステージ”を設け、そこで王子とともに“慈愛の宣誓”を行うとか……。あまりにロマンチックな響きに、周囲は大いに盛り上がっている。
(やれやれ、これぞ乙女ゲームのイベント感。まさにヒロインの独壇場になりそうね)
だが、私は負けない。私も学園祭の“舞踏会”で派手にドレスを着こなし、王子と踊ってみせる。――そうなれば、リリィの計画は一気に崩れるかもしれない。
むろん、王子が私とのペアを受けてくれるかどうか分からないが、ここまで一緒に行動してきたのだから期待してもいい……と思いたい。
帰り際、私は中庭でアレクシスを見つけ、こっそり近づいた。そろそろ学園祭について話をしておかなければならない。
彼は数名の貴族仲間と立ち話をしていたが、私が姿を見せると「ちょっと失礼」と言ってすぐに離れてきた。
「セレナ、どうした? 何かあったのか?」
「あのね……学園祭の舞踏会だけど、私、貴族令嬢として中心になって準備に携わることになったの。殿下はどうするの?」
核心をつく質問に、アレクシスは少し考え込む。学園祭では王子も公務の一環で行動が制限されるし、リリィに誘われる可能性も高い。
けれど、私が視線をそらさず彼を見つめると、やがてアレクシスは毅然と告げた。
「もちろん、俺はお前と舞踏会に参加する。……リリィの誘いがあったとしても、それを受けるつもりはない。お前との協力関係を公に示す絶好の場になるだろう」
その頼もしすぎる言葉に、私の心臓が一気に跳ね上がる。
(こ、ここまで言ってくれるの……? 彼は本気で私をパートナーにするつもり?)
思考がぐるぐるするが、同時に喜びと不安が混じり合う。一方で、すぐにリリィの悔しそうな顔が目に浮かんで、“やってやった”という気持ちもこみ上げる。
――ご都合展開を叩き潰すために、王子の隣を奪ってやる。それが私の新たな決意でもある。
「……わかったわ。じゃあ、私のほうも準備を頑張る。あなたと踊るためのドレス、最高に仕上げてみせるから」
アレクシスは一瞬だけ驚き、それから微笑む。
「楽しみにしている。お前がどんな姿を見せてくれるのか……想像するだけで、胸が高鳴るよ」
まるで恋人同士のようなやり取りに、私は頬を熱くしながらも誤魔化すようにぷいと顔を背けた。――こんなやり取りがリリィの耳に入ったら、どれほどの反応をするだろうか? 想像するだけでちょっと怖いが、それでこそ“ゲームを壊す”醍醐味があるというものだ。
「ヒロイン様、ご都合展開は終了です。私はあなたの‘運命の相手’にだって、遠慮なく割り込んでやる――」
胸の内で改めてそう宣言し、私はアレクシスとともに学園を後にした。遠くに霞む夕日の赤が、嵐の前触れのように校舎を染め上げていた。




