次なる陰謀――「学園祭の前触れ」
翌日。
学園では、近づく“学園祭”に向けて準備が始まっていた。王立学園の最大行事とされるこの祭りは、しばしば“恋愛イベントの宝庫”としても知られているらしい。乙女ゲームでも、本来ならここでヒロインが攻略対象との親密度を深める重要なステージになっていたはずだ。
リリィは当然、この学園祭を利用して一気に好感度を稼ぐつもりだろう。もっとも、現実の彼女は“聖女”を強調するために企画を仕込み、華々しく活躍を狙っているのかもしれない。
「ゲーム攻略……じゃなくて、リリィは王子との結びつきを公に印象づける場にするんでしょうね。……となれば、私も黙って見てはいられないわ」
私がそう呟きながら廊下を歩いていると、珍しく女子生徒たちが集団で私に近づいてきた。表情には緊張やためらいが浮かんでいる。
「セレナ様、失礼いたします。学園祭に向けて、委員会から各貴族令嬢にも協力をお願いすることになったのですが……その……」
どうやら、実行委員会のメンバーらしい。怖々とこちらを見る彼女たちに、私は「何?」と首をかしげる。
「できれば、セレナ様にも参加していただきたい行事があるんです。『貴族の舞踏』や『ドレスコンテスト』など、例年公爵令嬢は中心的に携わっているもので……」
なるほど、悪役令嬢だからといって無視できない行事があるらしい。前世の私はイベント企画なんてサークル活動でしか経験がないけれど、こういう華やかな舞台なら“公爵令嬢”の立場は重宝されるのだろう。
私は軽く唇を歪める。リリィが聖女として光を浴びたいなら、こちらも貴族の格式を存分に活かせばいいじゃない。舞踏やドレスの部門で私が注目を集めれば、リリィのルートはますます乱れるだろう。
「わかったわ。私にできることがあれば協力する。でも、私が入るとリリィが嫌がるかもよ?」
あくまで軽く警告する私に、女子たちは妙にぎくしゃくした様子で「そ、それは……」と口ごもる。どうやらリリィ派とセレナ派が学園でも微妙に対立しているらしく、委員会としては中立の立場で進めたいのだろう。
(でも、もうそんな中立なんて幻想でしょ。リリィが水面下で私を貶めようとしてる時点で、共存はできないんだから)
私は心中でそう呟きながら、彼女たちに微笑みを向けた。
「大丈夫よ、私が引き受けた以上はしっかりやるから。よろしくね」
こうして、学園祭の準備にも参加することを宣言した。リリィの思惑に対抗するためにも、目立つポジションを抑えておく必要がある。――私は今や、負けヒロインどころか“破滅ルート”さえ自分で手繰り寄せないよう気をつけつつ、積極的に運命を変えようとしていた。




