断罪の幕開け
「公爵令嬢セレナ・ルクレール! 貴様がリリィ・エトワールに行った数々の非道は、看過できぬものだ!」
王子の高らかな宣言が、会場の中心に響き渡った。その言葉に反応するように、周囲の貴族たちがいっそう騒ぎ立てる。
「これでセレナ様もおしまいね……」「彼女はやりすぎたわ……」「王子様、リリィ嬢をお救いください!」
あちこちからそんな声が上がると、身に覚えのない罪で断罪される恐怖が押し寄せてくる――はずなのに、私の心は何故かそこまで強い焦りを感じていない。むしろ、「ああ、ついにこのシーンが来てしまったんだ……」という観客めいた他人事の感覚さえある。
(ここで婚約破棄が言い渡されれば、私――セレナは“ゲーム通り”に破滅を迎える。でも、ちょっと待って。これゲームのクライマックスなら、私もう少しでほんとに終わるよね……?)
しかし不思議なことに、ここで感じるのは絶望ではなく、どこか冷めた好奇心に似た感覚だ。転生前に恋愛シミュレーションゲームは好きだったけれど、肝心の恋愛経験は皆無だった私。ゲームのルートを攻略するヒロインの側に憧れはあったものの、悪役令嬢になったからといって何か思い入れがあったわけではない。むしろ「断罪イベントってこんな感じなんだ」と冷静に眺めている自分がいる。
「リリィがどれほどお前に怯えていたか……どんなに苦しんでいたか……!」
王子は声を震わせ、憤怒の表情を作っている。けれども、その瞳の底には奇妙な悲しみが宿っているように見えるのは私の勘違いだろうか。心のどこかで「本当は私を恨んでなどいないんじゃ?」と思ってしまう。
――いや、そんな甘い期待をしてはいけない。ゲーム的にはここで私が断罪され、王子とヒロインが結ばれるのだから。