放課後の「宣言」―学園を揺るがす一言
放課後。今日の授業がすべて終わった頃、私はアレクシスのもとへ足を運んだ。次の授業があるわけでもない時間帯なので、彼は貴族の仲間と小さく談笑をしていたが、私の姿を見つけるとすぐに立ち上がる。
「セレナ? どうした?」
周囲にいた貴族たちが私を警戒するような目で見ているが、私は構わず王子に近づいていく。胸の奥で高鳴る鼓動を抑え込んで、一息ついてから言葉を放つ。
「アレクシス……いえ、殿下。
――私、あなたのために学園の恋愛ゲームを“壊して”あげるわ。きれいごとやヒロインごっこなんて、全部ぶち壊す」
その意味不明な台詞に、周囲の生徒がどよめいた。そりゃそうだ。何を宣言しているのか分からないだろう。
でも私には確信がある。リリィが仕掛けるシナリオを先取りして、私自身が“この世界のルール”を変えてみせる――それを王子に宣告することで、彼がさらに揺さぶられるはずだ。
アレクシスは困惑したように瞬きをし、そして唇を開く。
「お前は一体、何を言ってるんだ……? ゲームとは?」
「ま、詳しくは追々話すわ。とにかく、リリィがあなたに近づく理由も、私に罪を着せようとしている意図も、全部暴いてみせる。……私があなたを壊すんじゃなく、あなたの周りを形作ってる“おとぎ話”をね」
まるで悪役らしい挑発にも聞こえるが、私は強い眼差しで彼を見据える。もしアレクシスが本当に私に想いがあるなら、ここで逃げ出すことなく受け止めてくれるはず。
一方で周囲の人々は唖然としている。セレナ・ルクレールが自ら悪役を買って出るような発言をしているのだから、無理もない。
「お前……狂ったのか?」
小声でそう尋ねてくる王子に、私はニヤリと笑って返す。
「かもね。だけど、あなたが私を見捨てないなら、私にはやることがあるってわけ。……婚約破棄を望むなら、今すぐ言って」
挑戦的に言い放つ私に対し、アレクシスはしばし沈黙した。そしてごく短く、「言わない」と呟く。
その瞬間、私の胸に妙な安堵が走った。いいのか? 本当にゲームの筋書きを台無しにしてしまうことになるかもしれないのに。
けれど彼はもう、苦しげな表情をしていない。むしろ、何か覚悟を決めたかのように私をまっすぐ見つめ返してきた。
「わかった。――お前がそこまで言うなら、俺も覚悟しよう。リリィの行動が真か嘘か、きちんと調べるし、お前の秘密も知りたい。もし本当にお前の言う‘ゲーム’を壊す気なら、俺もそれに付き合おう」
あちこちから聞こえる学生たちの囁き声が大きくなる。衝撃的なやり取りだろう。でも私は、アレクシスの返事にしっかりと頷いた。




