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転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした  作者: はりねずみの肉球
【第二章】恋愛ゲーム、壊します宣言
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気まずい昼休み―「王子のアプローチ?」

午前の授業をなんとか消化したものの、学園内の空気は重苦しかった。貴族たちは私を遠巻きに観察し、平民出身の生徒はリリィの味方をしようか、王子の意向に従うべきか戸惑っている様子。

この国の階級社会は複雑で、王子と公爵令嬢の対立に巻き込まれたくないという心理もあるだろう。


昼休み、私は一人で食事をとろうと屋外の中庭へ出た。学食やカフェテリアに行けば、嫌でも人目につく。できるだけ静かな場所で息抜きをしたい。

春の陽気が柔らかく、遠くの花壇では色とりどりの花が咲き誇っている。前世の感覚で言えば中世の学園なんて不便そうだが、こうして優雅に散策できるのは悪くない……などと考えながらベンチに腰掛けた、そのとき。


「セレナ、ここにいたのか」


声をかけてきたのはアレクシス。まさか昼食時まで私を探しているとは想定外だ。

彼は片手に豪奢なランチボックス――というより、宮廷料理の詰め合わせらしきバスケット――を持っている。そして当たり前のように、私の隣に腰を下ろした。


「え、な、なに?」


驚く私に、王子は普通の顔でこう言う。

「お前、今日は食堂に行かないだろうと思った。俺が作らせた弁当がある。一緒に食べないか?」


嘘でしょ、と思わず目を見張った。断罪しかけてきた相手が、なぜこんなに気を利かせた昼食を用意しているんだ?

周囲を見れば、中庭の茂みの影からこっそりこちらを見ている学生たちがいる。どうせ噂になるに決まっている。だけどアレクシスは意に介さず、さっさとバスケットを開け始めた。


「これは……お前が好きなメニューだと聞いて、宮廷の料理人にお願いした。サンドイッチと、スープを保温して持ってきている。冷めていないうちに食べるといい」


次々と取り出されるのは、彩りの良いサンドイッチやポタージュ、デザートの小さな焼き菓子など、明らかに高級路線の軽食だ。

私は思わず口をつぐんだ。確かにセレナの嗜好として、こんなメニューを好んでいたのかもしれない。でも転生して間もない私には、こんな贅沢なランチは落ち着かない。


「え、えっと……ありがとう。でも、どうして?」


そう尋ねると、彼は少し考え込んでから短く答えた。

「お前のことが気になるから、だろうな」


あまりにもストレートな返事に、一瞬言葉が出ない。彼は続ける。

「俺は、お前のことを誤解していたのかもしれない。実際に、リリィが言うような凶暴な悪役には見えないし……もともと、俺はお前を、そういう人間だとは思いたくない部分があった」


ゲームの知識では、王子ルートのアレクシスは冷淡な態度で主人公ヒロインに接するタイプで、悪役令嬢を一刀両断する頼もしさを持っていた。だが現実の彼は違っていた。

不器用に自分の感情を吐き出し、私との距離を模索しているように見える。振り返れば確かに、昨夜も“どうしてお前を断罪するのにこんなに心が痛むんだ”と苦しんでいた――。


(……まさか、最初から私に想いがあった……? そんなバカな。だって、ゲームの悪役令嬢は王子に嫌われているのが定石なのに)


戸惑いが渦巻く中、私は申し訳程度にサンドイッチをかじった。高級な香りが鼻腔をくすぐり、確かに美味しい。転生前にこんな豪華な料理は口にしたことがなかったから、新鮮な感動がある。

アレクシスは私の反応をうかがい、少しだけ安堵の笑みを浮かべる。そんな彼の横顔に、私はかすかな胸のときめきを覚え……あわててその感覚を振り払い、再び冷静になろうとする。


「……でも、まだあなたはリリィからの訴えを無視できないんでしょう? 彼女を裏切るわけではないんだよね」


私がそう問いかけると、アレクシスは真剣な面持ちで頷いた。

「もちろんだ。彼女が嘘をついているとも断定できない。だからこそ、俺はもう一度事実を確認する。それまでは、お前を安易に断罪などできない」


その言い回しはあくまで“調査中”ということか。けれど、彼のまなざしは私に優しく、どこか寄り添うようにも感じられる。

――この奇妙な状況をどうにかしない限り、私は学園で“断罪予定の悪役令嬢”として生きづらいままだ。だったら、いっそあの乙女ゲームのストーリーをぶっ壊してしまえばいいのかもしれない……と考え始める私がいた。


そう、私はもう分かったのだ。リリィの言う“ゲーム通りの展開”が来るなら、私はいずれ破滅する運命に違いない。ならば、その筋書きを強引に変えてしまえばいい。

(王子がこんなに私を気にしてくれるのなら、なおさら……)


私は軽く眉を寄せつつ、決心を固める。――この恋愛ゲームの運命を、バグらせてやろう。そのために、私のほうからもアクションを起こす時が来るのかもしれない。

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