目覚めと戸惑い
悪役令嬢の恋愛ものが好きなのです。
――この光景、どこかで見たことがある。
目を開けた瞬間、私が最初に感じたのはそんな既視感だった。豪奢なシャンデリアがきらめく広間。壁際に立ち並ぶ、色とりどりのドレスをまとった貴婦人たち。そして中央には、王族や貴族の青年たちが壇上のほうに視線を集中している。そのざわめきと熱気の中、私は息が詰まりそうになっていた。
どうしてこんなところにいるのか。私は確か、ごく普通の大学生だったはず。サークル帰りに事故に遭い、――そこで記憶は途切れている。なのに今、私がいるのは宮殿の舞踏会を思わせる華やかな場……もしかして、これは夢か何か?
けれど、胸の奥がざわざわと波打つ。もし夢ならば、ここまで息苦しくなるはずがない。ドレスのコルセットがきつく締められているのを感じ、袖口からのぞく手は細くて白い。まるで自分のものとは思えないほど優雅で繊細な指先に、違和感を拭えない。見下ろせば、きらびやかな刺繍が施されたロングドレス――これが“私”なの?
(何がどうなっているの……?)
混乱に拍車をかけるのは、周囲の人々の視線だった。ざわめきの中心に立たされているらしく、みんなが私を見ている。いや、正確には私と、私の正面にいる誰かに、だ。ガラス張りの天井から降りそそぐ光を背にして、そこには金色の髪を持つ美しい青年が立っていた。
その顔を一目見た瞬間、私の頭に電流が走る。目の前の人物――高貴で、冷たい光を宿した蒼い瞳を持つ青年は、“あの乙女ゲーム”で見たことがあるキャラクターデザインに酷似している。第一王子アレクシス・ヴァレンティア。その存在を見た途端、私は自分の心が警鐘を鳴らしているのを感じた。
「――公爵令嬢セレナ・ルクレール!」
周囲を巻き込むように発せられたその声は、私の背筋を凍らせるほど鋭かった。やたらと耳慣れた言葉が混じっているが、「公爵令嬢」という呼び名がまさか自分に向けられているなんて……。戸惑い、そして恐怖に似た感情が胸を締めつける。
今の私の姿は、「セレナ・ルクレール」という名の少女らしい。ゲームの中でも見覚えがある。いや、まさに乙女ゲームの『悪役令嬢』ポジション。まさか、転生? そんなばかなと思いたいが、記憶が霞む中で、今の状況を見ればそうとしか思えない。
「……まさか、本当に転生、したの?」
自分の唇が震えながら、小さくそうつぶやいた。
初投稿できた。師匠にとりあえず10作品作れといわれてるので頑張る。