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お茶会一週間後

 結局、私が登校したのはアルベルト様のお見舞いの更に四日後でした。

 お茶会から丁度一週間経った事になりまが、この数日間色々とドタバタしていた結果です。


 私は晴れた日の場合、出来るだけ早めに王立学園に来ることにしています。

 屋根付き馬車で来るといっても太陽に肌が弱い体質ですから出来るだけ日が昇りきるより早めに来るように心がけいるのです。

 七時と九時では大した違いがありませんが年頃の女性としては気を使う所です。

 顔も腕も肌が赤めになるのを人になるべく見られたくありませんから。

 しかし今日は理由があって登校時間は一番生徒が多い通学時間帯にわざとしました。


 更にもう一つ、いつもと違う事があります。

 私が今日乗ってきた馬車は子爵家のものではなく、伯爵邸のものだからです。


 朝の学園に様々な屋敷の馬車がかわるがわる到着します。

 通学が許されている平民階級の生徒達も普通に歩いてやってきます。

 そんな中、当たり前の様に一台の馬車から降りてくるアルベルト様と私。

 当然のごとく周囲の痛い程の視線を感じます。


 軽いざわめきの中私達は貴族的装飾が施されている学び舎へ向かいます。

 学年別に分かれているそれぞれの教室に入ると席に座る前に早くも親しい学友の方々が近づいてきました。

 ローゼ男爵令嬢などは顔を紅潮させていかにも興味津々です。



「ちょっと、アグネス! どういう事?」


「え、その……そういう事でして……」


「そういう事ってどういう事!」


「アルベルト様と私、実はお付き合いをしているのです」


「ええ!」



 私の答えに聞き耳を立てていたヒューゲル侯爵令嬢がこちらを振り返りました。

 眼を見開いて驚愕の表情を浮かべています。

 ですが別に勝ち誇った気持ちになどなれません。寧ろ怖いです。

 こんな形で公表する事になって良かったのかという思いが湧いて来ました。



「い、いつから!?」



 ローゼが問い詰めます。

 無理もありません。一番の親友である彼女が知らない事など寧ろ変ですから。

 さばさばして裏表のない彼女は入学して知り合った友人の中でも一番の親友です。

 ですが口を開く前に丁度いいタイミングで一限目の教官先生が入ってきました。

 生徒達は慌てて席へ着きます。


(休憩時間にも続きを根掘り葉掘り聞かれるだろうな……)


 内心胸を撫でおろしつつ、どう話したものか授業中ずっと悶々としていました。



『こうすれば一目瞭然だから周知の手間が省けるのではないかな』



 確かに周知の手間は省けますが説明の手間は大変そうです。

 でも元々私自身の粗相が全てのきっかけですから何か言う資格はありません。

 確かに陰で付き合っていたとすれば先日の私の奇行もそれなりに埋もれるでしょう。

 いつもしていた事がうっかり出てしまったという事で。


 アルベルト様の提案の影響は思った以上に絶大です。

 同じ馬車に乗ってくるという事は、私が伯爵家に既に出入りしている事を示すからです。

 ここまでしたら殆ど婚約者といっても良いくらいの扱いです。

 逆に言うとそれくらい噂がすぐに広まるという事ですが。

 

 一限目が終わると今度はローゼより早く押しかけてきた方がいました。

 ヒューゲル侯爵令嬢です。



「アグネス様! 貴方とアルベルト様の間に何があったというの!?」


「ですから、お付き合いを……」


「嘘つかないで! ならばなぜ、隠して付き合っていたというの!

 貴方方が婚約しているなんて話も聞いたことが無いわよ!」


「それには理由が……」


「どんな理由!?」



 食い気味に返されて説明したくともできません。

 ヒューゲル侯爵令嬢の詰問に先ほどから動悸が激しくなっています。


 そもそも貴族令息と貴族令嬢の関係は家と家の問題です。

 伯爵家と我が子爵家の関係の話ですから一々話す義理は無いですし義務も必要もありません。

 でもアルベルト様は次期辺境伯です。

 通常の貴族子弟の婚姻と違って何かと影響ありますから後々辺境伯様が()()()()()を公表してくださる事になっています。

 私は何か聞かれたらそう言っておけとしか言われていません。


 打合せ通りに説明する前に今度はアルベルト様が私達の教室にやって来ました。

 声が聞こえたのかこの事態を予想していたのか、両方かもしれません。



「アルベルト様! 彼女のお話は本当なのですか!?」


「? アグネスと私が付き合っている事かな? そうだが」



 しれっとした顔でアルベルト様は返しました。

 コミュ障の私にはとても出来ません。



「で、でも、そんなお話、今初めてお聞きしましたが」


「少しこちらの勝手な事情があって一応、内密という事にしていたんだ。

 でも、この間アグネスがつい人前でうっかりバラしてしまったからね。

 公にしていいかとなった。それだけだよ」



 アルベルト様は先日の私の粗相もさくっと一言でフォローしてしまいました。

 全く自然な表情で言っていますから私でさえ嘘に聞こえません。

 控え目ですが教室内に驚きざわめく声が聞こえます。

 ヒューゲル侯爵令嬢が固まっています。



(それはやっぱり、驚かれますよね……)



 当事者ですがその気持ちは良くわかります。何せいきなりの話ですから。

 有力貴族の令嬢達からアプローチをいくつも受けていた方が突然私の様なモブ令嬢とお付き合いしている事を公言したからです。

 アルベルト様は女性の噂が誰とも立つ事が無かった方だから当然でしょう。

 真実を申し上げると実際、私とも何も無かった訳ですが。

 

 裏の事情も全て急転直下なのは変わりません。

 ドタバタ騒がしかったこの三日間が脳裏に蘇ってきました。

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