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V虹  作者: 薪原カナユキ
7/8

幽かな御影は狐連れ / feat.御影幽斗

「せんせー、さよならー」


 茜色(あかねいろ)に染まった校舎の中で、帰ることを伝える声がまばらに(ひび)いていく。

 某月(ぼうがつ)某所(ぼうしょ)。放課後の時間帯に移り変わった学校は、授業から解放された生徒たちによって活気にあふれていた。


 真っ先に帰路(きろ)へとつく者、部活のために校内を移動する者、教室に残り友だちと駄弁(だべ)っている者。

 それぞれの自由が見える空間は、服装にも表れている。


 ここの学校は比較的だが校則が緩くされており、多くが制服と私服を組み合わせた着こなしをしていた。

 それは生徒に限らず、教師も同様。

 なかには完全に私服の人物も。


 そして大声で声をかけられた教師の彼もまた、休日に町へ出掛けるかのような格好をしていた。


「はい、さよなら。気をつけて帰るんだよ」


 生徒たちの声に手を振って応える彼は、過ぎ去っていく少年少女たちに柔らかな笑みを向ける。


 過ごしやすい衣服でまとめた姿は、黒を起点として灰色やオレンジを。

 掛けている眼鏡(メガネ)はらしさを強め、その穏やかな物腰は生徒に好かれる教員そのものだろう。


 彼は教師──御影(みかげ)幽斗(ゆうと)


 この学校に所属する、ただの一教師。

 そんな幽斗(ゆうと)は何人もの生徒たちに別れを告げながらも、人の減っていく校内を進んでいく。


「気をつけてね。……はあ、僕はまだまだ仕事かぁ」


 一人、また一人。

 青空が夕日に追われるように、茜色(あかねいろ)が強くなればなるほど人の気配が消えていく。


 そしてコツコツと廊下を歩く音は、一人分。

 幽斗(ゆうと)の影は長く伸び、眼鏡を外した彼の姿に紫が入り混じる。


「お待たせ、ルーク」


 ポツリと呟いた幽斗(ゆうと)の声に反応して、何かが物陰(ものかげ)から飛び出した。


 それは一匹の小さなキツネ。

 幽斗(ゆうと)の肩に乗るほどの大きさのキツネは、彼の言葉通り待ちかねたとばかりに駆け寄って、足元でグルグルと動き回る。


「分かってるよ。んじゃ、行こうか」


 お()びとばかりに幽斗(ゆうと)はルークと呼んだキツネを()で、一応の満足をして貰ったのを認めると、ルークを抱きかかえた。

 その流れでルークは幽斗(ゆうと)の腕を伝い、定位置とばかりに肩へと収まる。


 どうしてキツネがこんなところにいるのだろう。

 そして幽斗(ゆうと)は、これからどこへ向かうのだろう。


 そんな疑問を投げかける人は誰もいない。

 これが当然、日常の一部。


 だからこそ、ルークを連れた幽斗(ゆうと)の歩みに迷いはなかった。


「皆、(そろ)ってるね?」


 誰もいなくなった黄昏時(たそがれどき)の教室。

 その一室を開いた幽斗(ゆうと)は、気楽な振る舞いのまま中へと入っていった。


 軽い足取りで教卓に立ち、静けさに満ちているはずの教室を見渡すと、ここの生徒たちとは違う人影が複数、顔を(そろ)えていた。


 彼らの容姿を表現するのに、仮装というには現実味が足りない。

 いってしまえば仮の姿。影に形をつけた想像上のものであり、幽霊のあり方に近しいものがある。


 彼らはいったい誰なのか。

 幽斗(ゆうと)の友人か、それともどこかのあなた達か。


 答えなんて現れる訳もなく。

 全員が(そろ)っていることを確認した幽斗(ゆうと)は、一人にんまりと口元に()を描いた。


「それじゃあ、授業(おもしろいこと)を始めようか」

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