第1話
ボタンを押した瞬間、俺と俺を乗せたタイムマシンは時空の渦に巻き込まれる…
「頼むから、せめて宇宙空間と地球の中心核…それから深海以外にしてくれよ…最悪それ以外なら、なんとかなるはずだ…」
俺は祈るように呟いた。
さすがにどう足掻いても、その三カ所だけは、俺のポンコツバイオツールじゃ絶対に生き残れない…
その三カ所で生き残るには、最低でもB級ツールが必要だ。
いや、B級でも長時間の生存は不可能だから、まともに生存するには、A級ツールが必要だ。
まあ、そんなところに放り出された時点で俺は死亡確定だ。
その時だ。
俺に光がさしたのは…
どうやら、時空の渦を抜けたようだ。
光と言っても真っ赤ではない…
俺は口元に笑みを浮かべる…
「よしっ!!最悪だけは回避した!!」
俺は呟いた。
まともな光が射すということは、宇宙空間や深海ではない。
真っ赤ではないことから、中心核でもない。
俺は安堵した。
だが、次の瞬間だ。
俺を強烈な寒さが襲う…
「とまあ、まだマシな方か…」
俺は呟いた。
眼下には雲…
つまりは、遥か上空である。
俺の三つあるF級バイオツールの一つ、熱冷耐性ツールが発動すると、寒さは完全に消えた。
さらには、酸素が薄いのか、F級バイオツール、呼吸補助も発動する…
「まあ、この辺りはその辺に売ってる大衆ツールだからな」
今の最悪の地球環境を生き抜くために開発されたF級ツールは、人類の行動範囲を核戦争でめちゃくちゃになった、地球の中でも狭めることはなかった。
問題は…
「ま、こうなるわな…」
タイムマシンに飛行能力はない…
当然、俺を乗せたまま、遥か上空から、自由落下をはじめたことだ。
最後のF級ツール…身体硬質化を使えば、自由落下で地上に叩きつけられても、90パーセント以上の生存確率はあるだろう。
でも、俺はそんなものを使う必要はない。
普通に大怪我はするし、何より好き好んでそんな痛い思いをしたくはない。
それに…
「何のためのD級ツールだって話だよな?」
俺はD級ツール、空間操作(簡易)を発動すると、タイムマシンを亜空間に押し込む。
この時代で直せるかわからないが、一応持っておいた方がいいだろう。
俺は空間操作(簡易)を使って小規模な転移を繰り返しながら、ゆっくりと地上を目指して降り始める…
ちなみに逆も可能だから、俺は一応空も飛べることになる。
空間操作(簡易)は一応は一般規制されてはいるが、所詮はD級…
瞬間移動、亜空切断、次元結界、空間収納の4つの能力が使えるが、自身を中心として、その効果範囲は半径10メートル以内に限られる。
しかも、転移先の状況を、ある程度把握していなければ、転移不可能という不便さだ。
そして、さっきの研究所にわんさかいた、お巡り共の標準装備でもある。
俺の亜空切断で、同ランクのお巡りの次元結界を破るには、触れるぐらいの距離まで近づかなくては不可能だ。
そんなことをすれば、囲まれて終わりなのは目に見えていた。
まあ、今はそんなことはいいか。
ちょうど地上が見えてきた。
海の上じゃなかったのはラッキーだった。
泳いだり、漂流したりしても、バイオツールのおかげで死にはしないが、めんどくさいことには変わりはない。
「さて、時代のためか、見慣れない風景でどこの国かはわからないがまあいいや。地上に降りればすぐにわかることだしな」
こうして俺は地上へと降りたった。