EP08 邂逅
ヒロイン登場回です。
それから、一か月ほどが経ちました。
僕は宿を取り(資金繰りを考慮して、安宿を探して取りました)、日々冒険者ギルドで依頼を受け、即日でこなしていきました。
寂れていると思って居たギルドも、たまたま人が居なかっただけで、日々賑わっていました。
朝の時間帯に依頼板が更新されるため、冒険者達がどんどん集まっているという訳ですね。
「よーう、兄サン」
「ええ」
受付の人とも顔見知りになったようで、こっちが鬱陶しいと主張しても懲りずに挨拶してきます。
「お兄サン、文字覚えるの速くねえか?」
「そうですかね?」
僕は今日も依頼を確かめます。
難易度は万が一の可能性を考えて中からやや高、報酬額は高めのものを選んでいます。
一応気を付けることは、依頼用紙に描かれたマーク。
僕が取れるのは鉄、銅までです。
それ以上を取ろうとすると失笑と共に嘲りの視線を向けられます。
ちょっとイラっとしたので能力を一瞬だけ使って黙らせましたが。
「じゃあ.......今日は【赤粘獣討伐】と【二頭狼討伐】、【道具屋整理】を受けます」
「はい、では...........三日以内に完了させてくださいっす」
「分かりました」
それが僕に意味を為さないことくらい分かっているでしょうに、飽きずに注意してきます。
でも、それは少し助かります。
僕の実績は、僕の実力によるものじゃ無いという事がよく分かりますからね。
冒険者ギルドを後にした僕は、街を歩きます。
流石に因果支配を多用すると、目を付けられると思っての行動です。
数十日戦う間に、自分の弱点についてわかってきました。
まず、因果支配は無意識の攻撃には対応できない事。
僕の身体はデフォルトだとあまり強くないので(〈簒奪〉で奪い取った分だけ強くはなれるようですが)、即死級の攻撃を食らうと流石に痛いです。
死にはしませんが、苦しいのは本末転倒ですからね。
あと、因果支配で”完璧な治癒”は出来ません。
表面だけを治ったように見せることは出来るのですが、「この足は傷ついていない」ということは出来ませんでした。
そのせいで依頼を一つ潰してしまいましたから、因果支配は注意が必要です。
普段使いしていると、いずれそれに依存してしまい大変な目に遭ってしまいます。
出来れば〈簒奪〉だけに抑えて魔物を狩っていきたいですね。
「よう兄ちゃん、なんか買って行かねえか?」
その時、僕に声が掛かりました。
気付けば、僕はスラム街に入ってしまっていたようです。
街の三分の一ほどを占める場所で、一般人が立ち入ろうものならすぐものを掏られたりするそうです。
僕の場合は〈因果支配〉と〈邪眼〉を組み合わせて虚無の存在する次元への座標を固定、それへの入り口を作ることで収納を実現しているので、何も持ち歩いていません。
「..........たまにはいいでしょう」
正規の品物に、お金を使いたくなるようなものはありませんでした。
薬物を使用する事は考えていませんが、面白そうなものがあればいいですね。
飽きました。
代わり映えのしない品物ばかりです。
よく考えてみれば、地球では法整備がしっかりしていたので、違法商品はとても希少なものでしたが、こちらの世界の違法商品が分からないので、明らかにコナと分かるモノ以外はよく分かりません。
犯罪者からすれば垂涎ものなんでしょうが...........
「ん?」
その時。
僕は足を掴まれました。
不快だったので蹴り飛ばしたのですが........
「あ、のっ!」
「何ですか?」
声を掛けられたら反応しなければ失礼に当たりますから、僕は声を掛けられるのが一番嫌いです。
振り向けば、そこには鎖に繋がれた少女が居ました。
少女は檻に入っていて、その周囲には別の奴隷が死んだ眼で座っていました。
嫌な目です。
諦めを抱いて、全てに絶望したゴミのような目。
かつての自分のようなね。
さて.......では、絶望していないこの女は何なんでしょうか?
「わ......私を買ってください!」
「嫌です」
いきなり何を言ってるんですかね.....?
確かに値札を見る限り買えないことも無いですが、金が余っているわけでもないのに買うわけが無いでしょう。
「お願いします!」
「そもそも、貴女を買ったところで何かメリットがあるんですか?」
「私、お役に立てます!」
「いや、コストとリスクを考えると、あなた一人を入れて仕事をしたところで、長期的には自分一人の方が稼げる金額は多いですし........大体、そんな不健康そうだと治療代も掛かりますし、メリットらしいメリットってありますか?」
「か、身体だって........」
はぁ、何を言ってるんですか?
「知っていますか? 肉体関係による人間関係はこの世で最も脆く長続きしないんですよ、それに貴女で性的興奮を覚えるかと言われればそうではありません」
もっとも、例え一般的に性的興奮を覚える女性が現れても、僕は全然興奮しないんですが......
「じゃあ.....どうしたら買ってくれますか..........?」
「ですから、そもそも貴女を買うメリットがありませんよね? 議論の余地がありません、水掛け論ですし、見解の相違があり永遠に続きそうなので」
僕は足を進め、その場を後にしました。
「.........なら、どうして私に声を掛けてくれたのですか.....? 奴隷である、私に........」
「貴女が僕を呼びつけたからです、分かりましたか? これ以上は時間の無駄です」
はあ、とんだ時間の無駄でした。
縋るのも、縋られるのももう嫌です。
僕は信頼性の高い契約しか結びません。
約束なんて――――――糞食らえ、です。
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