EP07 達成
「あんたが依頼を?」
「ええ」
僕は大衆酒場の便所を訪れていました。
個室ではなく、数人が入れるタイプのようです。
近づくだけで異臭が漂ってきますね。
「ヒョロそうだなあ............本当に出来るのか?」
「身体的特徴を論い信用問題に持っていくのは悪手ですよ、結果が全てだと思いませんか?」
「......ああ、出来なかったらお前は鉄級だ、落ちようも無いし罰金だろうな」
「ええ」
僕は便所に近づき、右手を翳します。
別に翳す必要は無いのですが、イメージが大事ですよ。
こういうのはね。
「この便所は――――汚れていない」
次の瞬間、異臭が消えます。
それどころか、空間的な清浄さが伝わってくるようになりました。
「終わりましたよ」
「なっ!? 馬鹿な..........って、ええええええええっ!?」
「問題ありませんか?」
「お、お兄さん........魔術師だったのか!?」
「魔術師が何だかは知りませんが、とりあえず綺麗にしました」
因果支配は凄いですね。
これ、身近なことから、戦いにまで使えるんですよね。
距離限界は恐らく存在せず、条件などもありません。
ただ、僕の死に関することと、あの神.......邪神の管轄する領域に関することは干渉できないようです。
「うちのミィちゃんが居なくなっちゃったの! どこを探しても居なくて........」
次の依頼場所に辿り着くと、老婦人にそう言われました。
典型的な任務ですが、同時にかなり面倒臭いですね。
この都市は複雑で汚い構造なので、猫ほどの大きさの生き物が迷い込むと面倒です。
「僕の........手の上に、ミィという猫が乗っている」
僕が因果支配を使用すると、掌の上に瀕死の猫が現れました。
「ミィちゃん!?」
「この死にぞこないが、そうなんですか?」
「は、はい! ど、どうすれば............お、お兄さん........貴方は魔術師ですよね、何とか」
「無理です」
「え............回復魔術があると聞いたことがあるのですが?」
「依頼内容は猫を探すことだけですから、また別途依頼してください」
「このままじゃ死んじゃうでしょ!」
「どうでもいいんで、依頼達成の証をください」
「ふざけないで、この悪魔!」
「.................」
僕は老婦人の首を握り、直ぐ傍の壁に叩き付けました。
契約内容以上の事を要求し、しかも名誉棄損を行うとは、人間以下ですね。
「達成の、証を、頂けませんか?」
「かっ、か、か...............」
「どうしましたか?」
「た、助け...........」
「依頼達成の証を頂ければ、特別にお許ししましょう」
「.....................」
僕は依頼達成の証を貰い、家を後にしました。
その後、泣き声が聞こえてきましたが、僕の知った事じゃないですね。
「僕は、トンドの森の前に居る――――――行きましょうか」
森蜥蜴の居るという森の前に現れた僕は、そのまま森へと入ります。
森蜥蜴を因果支配で集めてもいいんですが、「楽をしようと横着する事なかれ」という教訓を身に着けているので、やりません。
シャシャ............
幸いにも、運がよかったようです。
向こうの方から現れてくれるとは。
シャアアアアアアアア!!!
一体だけかと思ったのですが、どうやら数体いたようですね。
緑に紛れてわかりにくいですが..........
「死ね」
シャ――――――――
因果支配によって、僕の言葉は言霊となります。
伝説の鬼だろうと、3歳の男の子だろうと、簡単に命を奪う事が出来ます。
「この調子で行きますか」
僕は森のさらに奥へと、足を踏み入れました。
森の奥に行ったら、早速襲われました。
森蜥蜴の大きい版が出て来たかと思えば、周囲から次々と迫って来て、猛烈なラッシュが始まりましたが...........
「僕に物理衝撃は効かない」
そう言えば、あらゆる攻撃に意味はありません。
ああ、それと.......因果支配には一応、効果時間があるようです。
先程の便所の件ですが、アレは効果時間が切れるまでは汚れません。
そして今の「物理衝撃が害を為さない」という状態も、効果時間があるようです。
そして、一度使用したワードにもどうやら再使用制限があるようなので、言葉を一々変えて言わなければなりません。
再使用についてはクールタイムのようなものと考えていいでしょう。
「では.........死んでください」
僕がそう言えば、森蜥蜴たちは逆らう事すらも許されず即死します。
身体機能を停止させているのか、それとも文字通り命を奪っているのか興味深いですね。
「さて........森蜥蜴を分解しますか」
しかし..............僕の能力、因果支配とは言いますが、これって現実改変では?
やっぱりあの神、言う事がいい加減ですね.......碌な神ではなさそうですが、こんなのが上に立っているこの世界は大変ですね。
やっぱり社会主義より民主主義の世界がいいと思うんですが、神様にそんなこと言ってもしょうがないでしょう。
その後、そのまま次の場所へと向かうべく、因果支配で移動したのですが.......
僕は愚かにも、自分を見つめている二つの瞳があった事に気づきませんでした。
小鬼退治は非常につまらなかったのでカットです。
言語を操る知能はあるようで、言語を理解する能力によって何を言っているか僕でもわかりました。
命乞いを泣きながらしてきましたが、退治対象になっている時点で言い逃れは出来ませんね。
子供もいたので、二度とこのようなことが起こらないように事前に殺しておきました。
せっかくなので脳みその中にある魔石も取っておきました。
「はい、依頼達成しましたよ」
「はぁ!? 速い.............兄サン、ウチと結婚しないかい?」
「素が出てますよ、僕は結婚はしません」
「そりゃ、残念......」
僕が結婚するときは、それによって大きなメリットが得られると確定したときだけです。
この女性と結婚したところで利用されつくされてポイ、される結末しか見えませんし、大体魅力がないですよね。
いえ、決して魅力が無いわけではないんですが、絶壁、針金となるとちょっと.........
性欲が無いわけではないので、結婚するならそこはしっかりと欲しいものです。
「それで、報酬は?」
「森蜥蜴退治、討伐の証の部位を確認で銀貨3枚、小鬼退治、銅貨7枚、便所掃除は鉄貨10枚、猫探しは金貨1枚だよ..........後は、あんたの出してくれた森蜥蜴の素材、凄く状態が良かったけど、なんかやってたのかい?」
「昔、少しだけ」
少年時代、カエルやトカゲなどをナイフで分解してノートを取っていたことを思い出します。
虫から人まで分解してノートを取っていました。
懐かしいものです。
「アレは状態がいいんで、肉、革、骨・歯に分かれてそれぞれ銅貨6枚、銀貨6枚、銀貨1枚だよ...........つまり、合計金貨1枚、銀貨10枚、銅貨13枚、鉄貨10枚だね――――お兄サン、やっぱりウチと結婚しない?」
「考えておきます」
「やったぁ!」
女性がしつこい時はこう言うといい、と江口先輩が言ってましたからね。
自分から言った約束を破るのはポリシーに反するんですが...........
「これで昇格ですか?」
「ん............? あ、はい、昇格だね......っすね」
「どうしましたか?」
明らかに意気消沈する受付さん。
何か残念なことでもあったんでしょうかね?
「いや、アタシは昇格するのに苦労したのに、兄サンはさあ...........」
「まあ、運がいいだけですからね」
僕はそう言って笑いました。
愛想笑いですが....
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